プロローグ
……我が名はアインザームカイト……魔王様に使える伝説の呪われし魔剣である。
だが、我……いや俺は聖剣になりたかった哀れな剣なのである。ぐすん。
今日も今日とて魔王様にこき使われています。ひどい。……俺は人間を殺したくないよー。と魔王様に何度頼み込んだ事か……。
しかし、全て却下されてこき使われている今に至る。魔王様に抵抗なんて出来るはず無かったのだ……。
ああ、冷酷無慈悲な魔王様……。今日も人間を殺しにお出かけですかー?
……もう俺の声も届かない程穢れてらっしゃるのね……。
ああ、人間の血肉がこびり付く……。剣だけど気持ち悪い……うぇっ……。
もうこんな日々やだ……もう誰か俺をぶち折ってくれ……と願う事……どれだけ経ったっけ?
……俺が創られてから早千年以上……ちょっとボケてきたのかもしれない。まあ、それはそれでいいか……正気を保つのもちょっとしんどくなってたよ……俺……。
そんな日々を過ごしていると、最近“勇者”の名を耳にする事が多くなった。
……まさか魔王様を討伐に来てる??と俺の心に期待が募る。
……ああ、でもそんな期待を募らせてはダメだ……今のオレの使い手は魔王様なのだ。悪だとしても精一杯お仕えしないと……。
そう俺は呪われし魔剣、魔王様の剣……。
そして遂に魔王様と勇者の対決がやって来ました。
魔王様と勇者の戦いは壮絶を極めた……俺は俺は泣きながら勇者に攻撃を放つ羽目になった。
そう、俺は高性能魔剣!魔術だって、精霊術だって、防御術だって、その他諸々使えるのです!
魔王様はその俺のスペックをフルに使った。……俺の意思を無視して無理矢理引き出してだけど……。
だから俺は泣けぬ身体で涙したのだ。ごめんよ勇者……と。
ああ、願わくばこの勇者に使われたかった。彼の聖剣はこの壮絶な戦いの中でも生き生きとしていた。
世界中の誰もが普遍的に勇者が勝つだろうと思っていただろう……しかし、状況は魔王様有利だった。
そう、勇者の仲間は皆魔王様に倒され勇者ただ一人だけ動けているのだ。
そしてその勇者も、もう……。
魔王様が勇者に最後の一撃を入れようと俺を一閃させる。……しかし俺は勇者を貫かなかった。……いや貫けなかったのである。
俺は躊躇ってしまった。いや、正直に言うと勇者を殺す事を完全に拒絶してしまった。それが俺に変化をもたらし、切れずにすり抜けてしまったのだ。
そして魔王様は勇者の咄嗟の反撃にて倒された……。俺のせいである。ごめんなさい魔王様。
俺も勇者に折られてそちらへ行くので……お説教でも折檻でも何なりして下さい。
だから、最後に勇者達を癒させてね……。と勇者一行にコッソリ癒しの術を掛ける。
そして勇者が俺に近づいてきた。……さらば俺の小さな世界。
しかし、その時はいつまで経っても訪れなかった。
俺は優しく勇者に抱えられていた。何故?と勇者に問うと、勇者は君に助けられたから。と笑った。
そして俺は丁寧に城まで持ち帰られた。
そして勇者から俺の経緯を聞いた王により俺は城に飾られる事になった。
何たる光栄だろう……。俺は城で幸せな日々を過ごした。
数年経つと勇者は王様になっていた。……どうやらお姫様と結婚したらしい。幸せそうだ良かったね。
勇者はちょくちょく俺を訪ねて来てくれた。色々話もできた。楽しかった。
でもね、王様になった勇者が死に、数百年経つと人々は俺の功績を忘れてしまったのだ。
俺は城に飾られるただの呪われた魔剣扱いになってしまった……。
そして遂に持て余されて城の奥底の宝物庫行きである。ついでに、邪悪さを相殺するためだとかで勇者が使っていた聖剣も一緒に安置された。ごめん聖剣くん。
そうして数百年、点検の兵以外ほぼ誰も訪れない寂しい場所に居ることになった。
そして時は経ち、今までの記憶も薄れぼんやりとした意識になってしまった俺は……運命に出会う事になるのだ……。