第三話 天国か地獄?ではなく天国か?異世界?だった!
「さてはて、閻魔大王様」
「閻魔ちゃんと呼んでね」
「・・・・・・閻魔ちゃん、私は地獄ですか?天国ですか?」
龍之介は、孫ほど年の離れた閻魔大王様に、恭しく聞いた。
自分が天国か地獄か行先を早く知りたかった。
死者としては当然一番に気になるであろう。
死者の未来はそれしかないのだから。
地獄に行きたい死者など、そうそういるわけがない。
地獄に自ら行きたいと言う者は、痛みに快楽を覚えるマゾヒスト、それも超ド級のマゾヒストではないだろうか?
それか、現世でよほどの悪行をし、自ら悔やんでいる者。
「も~龍之介はせっかちなんだから、めっ。ちょっと待ってね・・・・・・はい、龍之介ちゃんは、これといって悪さしてないから天国よ。それとも輪廻転生したい?って言っても、まぁ~もともと地獄がないんだけどね」
「え?では、悪人が死んだらどうなるんですか?無罪放免?」
「悪行を重ねた者は、現世に転生してミジンコとかアメーバや、プランクトンからやり直しよ」
「え?輪廻転生を繰り返して、最終的に人間になるんですか?」
「そうよ、正解!まぁ~たまに脱落者が出て、永遠の混沌の闇の何もない無の世界に行ってしまうのだけどね。永遠の暗闇の世界を漂うだけ。良いでしょ」
「それが地獄では?」
「まぁ~そうかも知れないわね。ふふふっ。で、龍之介ちゃんはどっちにする?天国と輪廻転生。それとも暗黒世界を漂いたい?」
『コンコン』
ドアをノックする音が聞こえると、
「失礼します。三上龍之介殿の追加資料にございます」
「あ!ありがとう」
キリッとしたスーツに身を固めた、キャリア・ウーマン的な人が何やら持ってきた。
縁なしの眼鏡が良く似合う女性が持ってきたのは、分厚いノ-トと言うか、ファイルと言うか、資料のようだった。
「どちらかと言えば、こっちのキャリア・ウーマンのが閻魔大王様に見えるのだが・・・・・・」
と、龍之介が心の中で自分の考えを発すると、閻魔ちゃんはすかさず龍之介の目を見て、
「私より、今の人が閻魔大王に似合ってると思ったでしょ?」
「まぁ~・・・・・・ははは、見透かれちゃいましたね」
閻魔大王と言うには不釣合いな美少女ではあったが、そこは仮にも閻魔大王、見抜く力は鋭かった。
「今のは司録よ。司命は今、異次元に転生した人のとこに出張中よ。お手伝い中なのよ。ちなみに司録と司命は私の秘書の役職の事ね」
「異次元に出張中?・・・・・・」
閻魔ちゃんは資料に黙々と目を通してる。
「なんか恨まれたり、悪行とか書かれていたりするのかの~」
と、そわそわゾクゾクと嫌な汗が自然と額ににじみ出る龍之介。
パッと見つめる閻魔ちゃんの冷ややかな目線。
龍之介は、脂汗がタラりと額から垂れた。
生前これほど緊張したのは、太平洋戦争出兵の時であったと遠い記憶の中、思い出す龍之介。
「あ!浄玻璃鏡も見なきゃね」
浄玻璃鏡と言う言葉で想像してしまうのは、古墳などから出土するような、銅製で装飾のある鏡だろう。しかし、ノートパソコン?タブレット?の表現のが合っているだろう形の、閻魔ちゃんが浄玻璃鏡と呼んでいる物を取り出して目を通している。
「ブルーライトで、目が疲れるのよね~。若くてもアレが欲しいわ。確か・・・・・・ハ●キルーペ?ブルーライトカットして文字を大きくしてくれるのよね?ちょっと現世に買いに行こうかしら・・・・・・」
「鏡じゃなく液晶なんですね、それ」
やはり龍之介は、『浄瑠璃鏡』と言う名前から、『三角縁神獣鏡』のような銅鏡を想像したのだが、銅鏡ではなく、予想外に液晶画面であった。
一時の間を置き・・・・・・・。
閻魔ちゃんから思いもよらない言葉が発せられた。
「龍之介ちゃんは、寺社仏閣巡りが一定以上のレベルを遥かに超えて超えすぎているため、特典があります。って、久々の逸材じゃない、驚きだわ、平成の世にもこんな人いたのね」
「はい?なんですか・・・・・・それは?私が逸材?」
「逸材って言うのは気にしなくて良いわよ。それよりこの信心深さは良いわね。生前の信心深さにより、死後の特典として、龍之介ちゃんの希望する異世界に転生が出来ます。って、させます。いや、行くべきです。行かせます」
「まるでライトノベルですね。なんか凄い異世界勧めてません?」
閻魔ちゃんの微妙な独り言のような言い回しが気になる龍之介。
「あら、100歳のわりにはライトノベルなんて知っているのね。現実の死後は、ライトノベルの世界のようなものよ。生前、いくら神仏に頼んでも宝くじ当たらなかったでしょ?」
「はい、まったく、約80年買い続けましたが・・・・・・そこに書いてあるんですね?」
「そういうお願い事は、聞かない決まりがあるのよ。参拝すれば当たる神社なんて、嘘よ、嘘。その人の運次第よ。残念だったわね。でも、神仏を敬う気持ちには、嘘偽りがなかった事がタブレット・・・・・・ゴホンッ、浄玻璃鏡に書いてあるわ。だから、異世界転生の特典が選べます」
「浄瑠璃鏡って万能の盗撮機みたいですね。あの異世界転生が何故に特典なんですか?」
「おっ!そこは100歳!伊達に長く生きてないわね。転生の利点は、現世のスペックや、記憶を保ったまま転生出来るのよ。それに転生先で死んでも、天国に行くだけだから不利益は少ないわね。過去の経験から生きる世界よ」
「転生先でも100歳のスペック肉体なんですか?」
「あ~もちろん肉体は、チンコビンビンの16歳とか選べるわよ。100歳の肉体のまま異世界転生したら、また老衰ですぐに死んでしまうじゃない。100歳のお爺さんが、魔王と戦うのは想像できないわよ。田舎でたまにニュースになる、ツキノワグマを鉈で殺したお爺ちゃんなら魔王討伐パーティーに入れなくもないけど、あんなのまぐれよ」
「では、私の場合18歳体の剣聖とかで転生出来るんですか?」
「チンコビンビンよりそっちを選ぶか~~。ブーーーーーーーー。まぁ~そういう事よ。転生先はロールプレイングゲームだと思って貰って構わないわ。龍之介ちゃんの剣聖スペックはかなり最強よ。よく、平成の世で、ここまで剣をマスタ-したわね。異世界転生はゲームのような異種人混合世界や、ダンジョンプレーばかりの異世界、エルフ美少女、吸血鬼美少女、獣耳美少女、包帯ぐるぐる美少女が出てくるような異世界を選び放題よ。しかも、その剣聖スペックは、チ-トスキルと言えるくらいのレベルだから、
モテモテ間違いなし。やりたい放題よ。ビンビンチンコ振り回しほうだいよ」
めったに出会うことのないスペックの持ち主の三上龍之介に、閻魔ちゃんはテンションがマックス状態で興奮していた。
「やけに、美少女押しですね。その何故に、異世界転生がやはり特典なのかが、わからないのですが・・・・・・」
「そんなに天国に行きたいの?天国・・・・・・暇よ~、言うなれば、毎日毎日、南国のコテージやら草津温泉に浸かって、ボーと暮らして行くだけの世界なのよ。それが永遠に続くのよ。それで、苦情が多くてね。だから生前、信心深かった人を対象に異世界転生モードを開始してみたのよ」
「なんか、パチンコみたいな・・・・・・確変?」
「とりあえず、異世界転生カタログがあるから読んでみて、死んだんだから時間はいっぱいあるわけだし」
そう言うと、閻魔ちゃんの間から別室に司録に案内される三上龍之介。
どうもこの建物は、京都の二条城のような作りになっているみたいで、閻魔ちゃんの間から廊下に出ると薄暗い板張りの廊下で他の部屋とつながっていた。
長い廊下を三分ほど歩くと、一室の襖が開けられる。
異世界転生カタログは、一冊の本ではなく、図書館的な部屋に無数にある。
転生先設定1つのストーリーに対して一冊の本となり、その数は、わからないほど。
国立国会図書館やヴァチカンにある図書室のように無数にある。
「ぬお~このカタログの量からですか?国の図書館レベル以上じゃないですか?」
「まぁ~死んだんだから時間はいっぱいありますからゆっくりと決めて下さい」
「事実ですけど、その表現なんか・・・・・・痛いですね、心に突き刺さります。ちなみ、過去に行ける設定とかはあるんですか?」
「もちろん、ありますよ。平成の剣聖としては宮本武蔵や塚原卜伝と戦ってみたいですか?新撰組と戦っいたいですか?斎藤一と勝負ですか?」
司録は、両手の人差し指で、チャンバラを表現していた。
「あ~それも良いですね、斎藤一には恨みはないので殺しませんよ。しかし、歴史のifには興味がありますね。美少女いっぱい異世界より過去に行くほうが私には・・・・・・。」
「可能ですよ。異世界は、あなたの初期設定次第なんですから、物語はちゃんと分岐していくから何が起きて、どんな結末を迎えるかはわからないのです。現世とはまったく別なので、ご家族に影響があったりしないから安心してください。タイムパラドックスとかは、考えなくて良いですから。過去と言っても完全な異世界です」
「少し考えさせて下さい」
「時間はいっぱいあるから良いです。死んだんだから、フフフっ」
「それ、決め言葉か何かなんですか?」
「ただの、お約束ってやつよ、フフフッ」
三上龍之介はデカい図書館みたいな資料と暫く、にらめっこをすることを選んだ。
結論を出すには、時間が必要だった。
閻魔ちゃんが言うように、本当に時間を気にする必要はなかった。