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関白殿下の1623宇宙の旅

宇宙船の中では緩やかに時は過ぎていた。

時速は光の速度を超えていたが揺れや体への重力、負荷は感じられず外の景色は光り輝く星々が通り過ぎていた。

時間の概念は地球の地上に居れば24時間も変わらぬ速さだが、物体が光の速度より早い速度で進んでいたらその中身は、地球と同じ時間の進み方なのだろうか。

龍之介達は地球から離れて何時間が経過しているのか把握してはいなかったが、外の景色は流石に飽きるほどの時間が経過していた。

龍之介は、自慢の美少女萌蒔絵入甲冑から普段着である着流しに着替えた、流石に甲冑で生活することはできない。

龍之介の部屋着は至って質素で、藍色の着流しは使い込まれてよれよれ、地球の覇者であても全てが豪華絢爛を好んだわけではない。

着なれた愛用の着流しの中には布であることをやめ、糸に戻ろうとする物もあったほど気に入ったものは長く愛用した。

縦の糸、横の糸はばらばらとなり龍之介の身を温めうることが出来なくなるほどであった。

流石に、そこまで使い込まれ他人と会う時に相応しくないであろう着流しを宇宙までは持っては来なかった。

春とエリリは鎖帷子を脱ぎ、茨城の名産である結城紬に着替えた。

しかし、腰には専用に作られた愛刀が差されていたため不釣り合いではあった。

司録は、キャリアウーマン的なス-ツのままである。

龍之介にとってこれほど何もやる事のない時間を過ごすのは珍しく、設置されていたベットに春の膝枕で横になり、

地上からの張りつめた空気からの解消から少しウトウトと微睡んでいる、エリリが龍之介の体を揉み揉みしていた。コンコンとドアをたたく音がする。

宇宙船と言う超科学の乗り物の中なんともアナログ式である。


「パカルです、入ります。」


ドアはス-っと開く。

入室のドアノックとは裏腹にドアは自動。

横になっていた龍之介は起き上がる。


「なにか御用ですかな?」


「どうですか?ご不便は御座いませんか?」


「今のところは特に御座いません。」


「そろそろ、お腹が空く頃かと思いまして。」


「確かに何もしなくても小腹は空きますね。」


「御飲食の前に注射をしていただかなくてはならなく、御用意しました。」


「ん?注射?」


パカルは銀色のお盆の上に平成の世とさして変わらない注射器を人数分用意し持っていた。

それを見た事のない春とエリリは敵意を感じたのか龍之介の前にスッと立ち腰の刀に手をかけていたが、龍之介が二人の肩を叩きウンウンと頷き抑えた。

パカルは少しビビりながらも話を進めた。


「失礼しました。敵意はありません。むしろこれは皆様の御命を守るための物で御座います。他星での飲食や空気感染に対する免疫が入っております。」


「・・・・・・地球にはないウイルスや細菌に対応すると言うことですね。」


「龍之介様、流石に御座いますね。他の惑星に行く際の一番の問題は病気、ウイルスなどは長い年月をかけてそれぞれの惑星で新種が生まれ変異し進化し増殖します。そのウイルス対応できるのはその惑星に住む生物だけ、その為ワクチン接種が必要と言うわけです。」


「ワクチンを打たなければすぐに病気になりますね。」


「はい、この船内の空気は浄化滅菌しているため呼吸では感染の可能性は低いですが、飲食はそうはいきません。」


「そうですか、なら我が陰陽力で体内も抗菌しようにしましょう。」


印を組もうとする龍之介、


「すみません、これは宇宙惑星間協定に定められた予防接種に御座います。摂取されていない方は惑星への上陸は禁止されています。龍之介様のその陰陽力を疑う訳ではないのですが、こればかりは守って頂かないと万が一があった場合、惑星全生命絶滅へとの引き金となる懸念があります。」


「殿下、いまいちわからないのですが。」


「エリリ、私達の住む地球の病気が他の惑星の生物に感染すれば命を脅かす事になると言うこと、ヨーロッパ大陸で猛威をふるったペストやコレラみたいな病気は目に見えないウイルス、菌が病気を引き起こす。」


「では、パカル殿は私達がその病気をもっていると言っているのですか?私達が汚いと!汚れていると。」


エリリの白肌が少し赤く興奮したように言う。


「エリリさん、それはちがいます。汚いなどと誰も思っていません。」


「パカル殿、私の言葉のほうがエリリも春も信じてくれるので私が説明しましょう。

私達の体には必ず菌やウイルスが付着している、それは病気を引き起こす悪いものだけではなく有益な物もいる、代表的なのは腸にいる菌は整腸作用や免疫力を上げてくれたりしている。しかし、その菌達が私達には有益でも他の星の人達にも有益と言う保証はどこにもない。」


「???すみません、殿下のお話が半分ぐらいしか理解できません。しかし、殿下がそこに用意されてる薬を接種せよと申しますなら私は拒みません。むしろ殿下より先に私が接種して安全性を確認させてください。」


「春さん、命を助けていただいた皆様に危険な物を勧めるわけがないではないですか。」


「敵は何時でも仮面を被る。」


「まあまあ、こういう時の為の司録殿ですよね?」


事の次第を無言で見ていた司録。


「パカルさんの申していることは本当ですよ、ただその注射器の中身は調べようがないですが私が接種すればわかること。」


「いや、まずは私が。」


「いや、春さんより私が先に。」


「いや、春さん、エリリさんより私が先に。」


「どうぞどうぞ。」

「どうぞどうぞ。」


結局、司録が一番に注射を打つこととなりスーツの上着を脱ぎ、ブラースも脱ぎ、たわわな胸を隠す赤色の薔薇の刺繍がふんだんに使われているブラジャー姿になる。

春とエリリはなぜか羨ましそうに憎しみを感じる視線を送って見ていた。

司録の腕をパカルが消毒液とおもしき物が付いただし綿で拭き注射器の針を刺すと注射器の緑色の液体は自動的に注入された。

司録は平然な表情で注射器を見つめていた。

注射が嫌いな人は目を背け、好きな人はじっと見つめ体内に入って来る冷たい液体を感じると言う趣向の人もいるだろう、司録は後者のようである。


「龍之介様、これは毒性はありません。もし、毒だったら私の腕はすぐさま干からび肩からもぎ取れ、本体に薬が流れるのを防ぐ防御本能が働いていましたから御安心ください。」


「司録殿……そんな体質と言うかなんと言うか凄い防御本能があったのですね……」


「ナ●ック星人みたいですね。哺乳類型では滅多にいませんよ。」


パカルは司録の言葉に少し驚いていた。

司録がなんともないのを見た春とエリリは続いて注射を打ち、龍之介も注射を打った。

パカルは一仕事を終えたかのように額に汗をかきため息をひとつ「ハァ~」とした。


「もし、お体に何かあったら直ぐにお呼びください。お食事は配膳システムでこちらに運ばれてきますのでしばらくお待ちください。お口に合えば良いのですが……」


そう言って退室した。

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