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敗者の街 ― Requiem to the past ― ※旧版  作者: Roderick Anderson (訳:淡月悠生)
第3章 Link at the Lights
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52. Genesis

「わたしの子よ、小羊はきっと神が与えてくださる」




夫は、幼い子を置いて死にました。

殺されたのか、そうでないのかわかりません。彼が大罪を犯したことだけは知っています。


ええ、知っていたのです。それでも、愛してしまったのです。

それが私の罪でしょうか、神よ。

どうして、声を届けてくださらないのです。

私は教えを知りません。今や、わずかな知識があるのみです。


ですが私は、私と愛し子、レヴィが生きていけるのならそれで構わないのです。

それで、ほんとうに充分なのです。どうか、声を──


「悪魔にでも取り憑かれたんじゃないか?」

「そうかもなぁ。突然子供を殺そうとするなんていかれてる」

「その子も可哀想に……今どうしてるんだ?」

「施設の近くで暮らしてるんじゃないかな。……ほら、優しかった母親にいきなり襲いかかられたら誰だってビビるだろ」


恐ろしい母親も、世の中にいるのですね。

ですが、私は守り抜くつもりですよ、レヴィ。

あなたの肉体がたとえ人と違おうとも、あなたが父を失い、赤色をその世界から閉ざしたとしても……


「立ち直れるのかな、その子」

「聞いた話じゃ失声は治ったらしいけど……生まれつきのとかもあるし、大変だよな。母親も気が狂うくらいだし……」


レヴィ?どこに行ったのですか?私の愛し子よ。

どこに、行ってしまったの?


「……!おい、取り抑えろ!」


レオ、どこに行ったの?

私の愛しい夫、愛しい子!アナタたちはどこに?


『リビーって呼ばれてるのか?』


ええ……兄が、そう呼んでたの。もういないけど……


『そうか、お前も生き延びてきたんだなぁ……』


リビーは特別な名前なの。……ほんとうは特別な人にしか、呼ばれたくないの。


『なら、特別な人になるまで待つしかないな』


あなたが救いでした。


『そうだな、俺はエリーって呼ぶか』


あなたが、私の光でした。

ですが、きっと、恋ではなかったのでしょう。


恋をするほどの力は、きっと、私にはなかった。

母になるほどの力も、もしかしたら、なかった。




私の罪は何ですか?私は赦されますか?

いいえ、人は許しはしないでしょう。夫のことも許さないでしょう。

けれど、けれど、神は見ていてくださったのです!

私は導かれたのです!


アナタが、こうして目の前にいるのだから!

私はアナタを救いましょう、母として、今度こそアナタを……!


私は、今度こそ救えるのです。

救わなければ。救わなければ。


今度こそ、罪を許しはしません。

いいえ、悔い改めるなら赦しましょう。

今度こそ、罪を犯しはしません。

悔い改め、この楽園で生きましょう。


今度こそ──




「……真っ赤だな……」

「足を踏み外したんだろうなぁ……」


アナタを、救うのです。

そうしたら、私も、


「いつから狂ってたんだろうな、この人」

「カルト宗教にハマってから、とか……?」

「……あれ、独自解釈らしい。カルトですらない」


私も、リビーに、いえ、もっと前に、リズに戻れるのです。そして、やり直せるのです。

やり直すの。


「息子、どこに住んでたんだっけ?」

「確かパリ。ここ……ミュンヘンだしな。来てくれるかな……」


お兄ちゃん、私

ちゃんとした恋がしたかった

分からなかったから、恋したかった

レオ、あなたは教えてくれなかったからダメ

いなくなってしまったから


だから、探して、やり直すの

やり直せるの


「……この人、出身どこなんだっけ?」

「…………それがな……紛争地域フラフラしてたっぽくて……」

「……ああ……」


やり直させて




──その気持ちは、同じだ




天使が、迎えに来てくださったのです。

だから、ワタシは赦されたのです。

……赦されたはずなのです。

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