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敗者の街 ― Requiem to the past ― ※旧版  作者: Roderick Anderson (訳:淡月悠生)
第3章 Link at the Lights
54/83

51. from:Natalie

To.Roderick Anderson

5 North street

overbridge

Greater Manchester UK

ローランドは、憎い相手の息子だった。……いいえ、今となってはもうわからないわね。


あろうことか自身の妻にけしかけられて、あの最低男は私を汚した。……ごめんなさい、あなたにとっては父と母だったわね。酷いことを言ったわ。

以前から好きだったと、欲しかった、と、意味のわからないことを言っていたけど……私にその気はなかった。本当よ。

夫には相談したけれど、あの人すら恥を恐れて見て見ぬふりをした。


生まれた子は、私に似ていた。

どちらの子かわからなかった。

検査をする必要はない。私の子だ……と、夫は言った。

あの人にとってはきっと、そんなことすら些細なことだったの。




「母さん、大丈夫?」


よくそう聞いてくれる、優しい子だった。

長男は、ロジャーは、少し夫に似たのかプライドが高くて、それでも真面目なしっかり者。

夫の子ではないかもしれない次男は、ローランドは本当に気配り上手で、それでも兄に臆せず意見する子だった。そうそう、口が悪いのはロジャーよりローランドだったのよ。


どちらも自慢の息子だった。本当に愛していた。


夫は私を愛していたようだけど、家名の方を重んじた。……仕事もそう。そっちを選んでいたのは結婚する時には分かりきっていたけど。

そういう家系だから息子達にも厳しく接していたけど、決して手を上げるようなことはしなかった。

ただ、まだ憎らしい男と家族ぐるみの付き合いをするのだけは……それだけは、なかなか納得できなかった。


三男のロバートが産まれたのは、次男が産まれて8年もしてから。

ローランドが弟を欲しがったからよ。……今思えば、あなたのこともあったのでしょう。あなたが、ローランドに弟が欲しいと漏らしたんでしょう?きっとね。




やがてロジャーは、あの夫妻の長女……ローザと恋に落ちた。

向こうの父であるあの男とは、顔を合わせても口なんかきかなかったし、相手も特に話しかけてこなかった。


ロジャーの恋路を邪魔する気もないし、彼女はローランドとも仲が良かった。ロバートの面倒も時折見てくれたのよ。

全て闇に葬り去ってしまえば、幸せだと思ったわ。

だって、3人とも自慢の息子達だから。


……だけど、あの女は、それを許さなかった。


「……ナタリーさん。ローは……ローランドは僕の父の子だと聞いたんですが、本当ですか?」


父と顔が似てきた、あの男とあの女の長男……ロナルドが、そう聞いた。ロジャーの親友で、あの時は確か、2人とも10代の半ば。彼らは、両家の父と同じ道を歩む青年だった。


「……ッ、馬鹿なこと言わないで!」


その動揺が、きっと肯定のようなものだった。

そいつは瞳を見開いて、あの男と同じように、


「……なら、彼は弟なんですね」


目をそらして軽く舌打ちし、あの性悪女と同じように、


「貴女もいい趣味を持ったものだ」


あの女とそっくりな、卑俗な嘲笑を口元に浮かべた。




私は、何もしていないのに。




「母さん、大丈夫?」


彼は、優しい子だった。

大丈夫よ、ロー。あなたが気にすることじゃない……って、ずっと言っていた。変わらず接していたつもり。愛していたつもり。


恨んではいけない。あんなくそ男の息子じゃない。いや、例えそうだったとしても、愛している。

愛しているのよ、大事な息子だもの。


ロジャーの表情に、疲労が見えるようになった。

話を聞いても、彼は何も言わなかった。

彼の妻に聞こうとしたけど、彼女は何も知らないと言った。


嘘をついている気がした。


ローランドも沈んだ顔をするようになった気がした。ロバートだけは、変わらず天真爛漫に笑っていた。


何をしたんだ、ローザ・アンダーソン。あんたもあの性悪女の血を引いてるはず。

だって、あの女は私の不幸を望んでるんだ。そうに違いないんだ。

あんたはロジャーのことも愛してなんかいないんだ。この家に取り入りたかっただけ。


表に出す気はさらさらなかった。なかったけど、人の不幸を喜ぶ女と、人様のものばかり欲しがる男の面影がローザの顔に重なって、腹が立っていたのかもしれない。




あの子が、ロジャーが死んだ時のことは忘れないわ。

まだ若かったのに、まだ23歳なのに、脳の血管が切れた。信じられる?

突然愛した息子が死んでしまったのよ。信じられる?

私は今でも信じられない。もう10年は前なのに、信じられない。信じられるわけがない。


「あんたが死ねばよかった」


覚えてるわ。そんな言葉で、軽はずみな言葉で、あの子も死んでしまった。

2年後、たった21歳で、肉体も含めて帰らぬ人になった。




私が、殺してしまった。




「母さん、ロー兄さんがね」


ロバートは、それから何度も死んだ兄の話をした。短期間に2人も死んだのだから、幻覚を見てもおかしくないって、


そう、思っていたのに。


「母さん、大丈夫?」


ああ、彼は、優しい子だから、

優しすぎたから……


本当に、気にしなくてよかったのよ。

私の暴言なんか、私の、一言なんか、

気にしちゃいけなかったの……


ごめんね。ごめんね、ローランド……。


私があんなことさえ言わなかったら、きっと、今も元気でいたのにね。




ロッド、ごめんなさいね。

あなたにも冷たく当たって、ごめんなさい。あなたに罪なんかないの。最近はちゃんと食べていますか?

これが、私が知る限りの真実です。……ああ、小切手も入れておきますね。少しでいいから足しにしてください。あなたの作品、素敵だった。




***




引き出しの奥に閉まった手紙を、また開いた。……真実を知りたい、と、数年前送った手紙の返事。

差出人はナタリーさん。……ロー兄さんと、ロバートの母親だ。

俺にとっても、母みたいな人だった。

俺らのお袋は、まあ優しかった。俺にはそこまででもなかったけど、たぶん、兄貴や姉貴に比べて何もできないやつだったからだ。


俺からしたら、突然優しかった人に冷たくされて、姉貴も婚約してから八つ当たりが多いって激怒していて、ロジャー兄さんがいきなり死んで、ロー兄さんが……って、意味がわからなかったからな。


…………正直、知りたくなかったことばかり書いてあるけど、読みやすいように直して送る。

隠しちゃいけなかったんだよ、俺も。

なかったことにして、ロー兄さんに甘えちゃいけなかった。


俺は兄貴のことはよく知ってる。

あの人は……俺の親父にそっくりだ。人のものばかり欲しがるとこが特に。

それで、お袋にもそっくりだ。……欲深さとか、手段を選ばないとことかな。

だからこそ、早く送らねぇと。……だけど、


……いや、ロー兄さんはもう楽にしてやるべきだよな。

でも、正気に戻ったんなら、まだ何とか……ならねぇ……かなぁ……。

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