表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗者の街 ― Requiem to the past ― ※旧版  作者: Roderick Anderson (訳:淡月悠生)
序章 迷い蛾
4/83

4. 2016年春 part3

title:Spring 2016 part3

from:Keith〈Keith-BPB@GGmail.kom〉

2016/11/23 16:16

「敗者の街」に来てから1週間、すぐに波乱万丈なことが起こるとは思っていなかったし、腫れもの扱いは覚悟していた。

けれど、


「……アドルフさん」

「何すか?」

「書類整理は、僕がやる仕事じゃないんじゃ……」


ため息が目に見えるほど、部屋の空気は埃っぽい。正直、ここ数日僕がやっていたことと言えば雑用と巡回くらいだ。……巡回すると変なのに会うけど。


「まあ、仕方ないんじゃ……」

「……僕のこと舐めてます?」

「……そんなことないっす」


今の間は聞き逃してないぞ。

アドルフというこの片腕刑事は、相手によって愛想のよさが変わる。まあビジネスで当然と言えば当然の範疇だけれど、一般常識として尊敬する相手にこんな態度はとらない。

……書いていてまた腹が立ってきた。


「……これ、読んどいてもらえます?」


突然手渡された書類に書いてあったのは、10年と少し前の日付。いきなり何だろうと思って読むと、少年が被害を受けた集団暴行事件の概要。

何でも、当時15歳の少年が傷だらけで湖に浮かんでるのが発見され、一命は取り留めたもののほとんど廃人状態になってしまった……とのこと。


「……胸糞の悪い事件ですね。抵抗できない少年にこんな……」

「抵抗できないから、憂さ晴らししたい奴らにとっちゃ好都合なんすよ」


彼は、当然だろとでも言いたそうに吐き捨てた。

……いくら好都合だったとしても、許されることではないと思う。

もやもやとした思いに悩まされていると、次の書類が目の前に置かれた。

今度は2年前に足取りが途絶えたという、日本刀を使用する殺人鬼の話。


「……はい?」

「一応目を通しておいてください」


サングラスの奥から、じっと見つめられている感覚。仕方なく二つとも目を通す。

特に関連性があるとは思えなかったけれど、とりあえずメモは取っておいた。



巡回に向かう際、廊下でこの建物にも亡霊がいる、という何度目か分からない類型の話を聞く。

うんざりしている僕に、アドルフの呟きが届いた。


「まあ、亡霊って呼ばれてるのは確かにいるんすけどね」




***




ここに書いておくけれど、この手記が出版できるかどうかは微妙でもあるんだ。

数字が振ってあるものは僕が書いている。……そのはずだ。

協力者……と言い切ってしまうのは、今のところ難しい。


……ロデリック。僕の言ったことをそのまま書いてくれ。

君は、僕が信じられないのか?

書き留めてくれ。これが真実に繋がるんだ。これが僕の伝えたいことなんだ。……きっと、そうなんだ。頼むよ、ロデリック。




……兄さん、こんなの作り話だったらよかったのに。

【HN:Rod】 投稿日時9/16 13:24


送られてくる原稿のデータと、メールの文面。

送り主が(ロバート)なのかメル友(キース)なのか、どんどんわからなくなっていく。


さっき来た電話も、ディスプレイには「Robert」……でも、出てくるのはまた「Keith」か?と、出るまで緊張していた。


「ロッド兄さん、例の小説進んでる?なんでか気になっちゃって」

「……お前、今どこにいんだ」

「え?マンチェスターだけど?兄さんが取材に付き合えって言ったんじゃん」


……小説にしてくれ、とキースが言いたいのか、それともロバートの記憶が混乱してるだけなのか……。俺にも訳が分からない。


「後で原稿送る。……死ぬなよ、ロバート」

「えっ、なんで?」


ロバートは呑気だが、こっちからするとなんで?……って状況じゃない。ホテルから連絡来てんだぞ。

……窓もドアも鍵かけたまま忽然と消えてたってな。


送られてきたメールから、俺達の停滞していた日常は一変した。

……少なくとも、俺には最悪の出来事にしか思えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ