3. 2016年春 part2
title:Spring 2016 part2
from:Keith〈Keith-BPB@GGmail.kom〉
2016/11/23 16:16
街の噂は数多くある。どこにでもある都市伝説ばかりでも、マイナスイメージのものばかりだと土地柄を疑問に思いたくなるというもので……足取りはひたすら重たかった。
新しい職場の建物は、外観からしてやる気がなかった。ツタぐらいは取り除いた方がいいと思う。
玄関に入ると、警備員のやる気がなかった。僕はそこそこ上役として来たはずなのに……。
出迎えた警察官が……とても、堅気の雰囲気とは思えなかった。
「どうも。アドルフ・グルーベです」
プラチナブロンドの髪、サングラス、強面。そして……片腕。どこの組織から抜けてきたんだろう。声にもあまりやる気が感じられない。
「……サリンジャーさんは?」
怪訝そうな声で聞かれる。……何となく、予想はついていた。
「僕が、キース・サリンジャーです」
「……ああ、なるほど……」
明らかに哀れんだ声だったけれど、まあこれくらいは慣れている。
「……30でしたっけ?」
「30です」
「……そっすか」
童顔なのは知っているから、あまり年齢については触れないでほしい。後、凝視する視線が怖い。品定めをされているような気分だ。
ちらりと鏡を一瞥する。整えてきた金髪。明るめの茶色い瞳。小ぎれいな服装。既に浮いているのが分かったが、それでも、少し楽しみでもあった。……不謹慎かもしれないが、「せっかく来たからには何かを変えてみたい」という気持ちもあった。
たとえ、命の危険が迫る選択だったとしても。
「一応、俺が担当というか色々教えろって言われてます」
「そうなんですね」
舐められると分かっていても、思わず口調が丁寧になってしまう。雰囲気というものは恐ろしい。
「まあ、片腕で暇なんで」
ひらひらと、本来なら右腕があるはずの片袖が揺れる。
……やはり舐められていたようだ。相槌も打てなかったが、次の言葉で固まった。
「後、俺が一番……アンタにしてもらいたいことがあるんです」
どこからか、漂う冷気。
思わず唾を飲んだ。ただ……どれほど嫌な予感しかしなくとも、逃げようとは不思議と思えなかった。
そうだ。今度こそ、僕は、正義を貫いてみせる。
……。ん?今度こそ?
そういえば、これは何回目だったっけ……。……まあ、いいさ。伝えられればそれでいい。僕が、正しいと証明できれば……それでいい。
メル友に弟が憑かれて笑うしかない【HN:Rod】 投稿日時9/16 2:56
続く沈黙にビビりつつ、声をかけてみた。
「ロバート、どうした?」
「……君に伝えたいことがあるんだ。書き留めてほしい」
「……なぁ、ロバート?」
「僕は殺されてしまったから、君が頼りだ」
電話先から届く声音は、全く別人の響きに変わっていた。
あの野郎、速攻でやられやがった。