2. 2016年春 part1
title:Spring 2016 part1
from:Keith〈Keith-BPB@GGmail.kom〉
2016/11/23 16:16
──これは、ある警官の告発
最初に、僕の素性を告げておく必要があると思う。
キース・サリンジャー。職業は警察官。
これから綴ることは、紛れもなく僕が見てきた事実で……現実だ。
そのつもりで、受け止めてほしい。
信じてもらえないのは仕方ないけれど、伝えなければならないと思っている。
この現実を。
まだ肌寒い時期だった。突然の辞令にかなり凹んでいた僕は、最後の告白をしようといつものバーに向かった。待ち合わせた相手は、いつも通り1時間ほど遅れてやって来た。
ワインをあおる相手に、事情を切り出す。……黒みがかったエバーグリーンの目を丸くして、彼女は眉間を抑えた。
「アンタ馬鹿だね」
「えっ」
愛の告白なんか、一瞬で吹き飛んだ。
「くだらない正義感なんか、役に立たないって言っただろ」
僕の正義感を下らない、青臭いと言うのが彼女……サーラ・モンターレの口癖だった。学生時代からの付き合いではあるが、僕からの告白に頷いてくれたことは一度もない。
黒髪のショートヘア、鋭くも凛とした眼差し、健康的な小麦色の肌、すっぱり物事を切っていく態度……全てにおいて魅力的な女性だと思う。
……完全に話が逸れた。元に戻そう。
「……でも、納得がいかない」
「だから、上が決めたんなら仕方ないだろ。割り切らないやつだね。サツなんか向かないっつの」
苛立たしげにグラスがテーブルを打つ。僕だって頭では理解していた。どれだけ正しくても、通用しないことは世の中には山ほどある。
きつめにアイラインを引いた目元が悲しげに細められた。やがてためらいがちに、予測していた言葉が飛んでくる。
「……あの街、良くない噂があるって聞くけど」
「うん……同僚もみんな、哀れんでてさ」
自嘲気味な笑みが零れたと、自分でも分かる。サーラはしばらく黙って、ぽつりと呟いた。
「……死ぬなよ」
「……死にたくないさ」
悪い噂のある街なんか、どこにでもある。けれど、あの街は格別に息苦しいと知っている。
だからこそ、「敗者の街」なんて名前で呼ばれるんだろう。
長々と書いたが、「青臭い正義感でへまをした若きエリート警官が、悪い噂のある街に左遷される」なんて、作り話ですらよくある話だ。……僕自身、作り話なら良かったのにという気持ちもあったけど。
愛の告白はできなかった。だいたいろくなことにならない……そんな、お決まりの展開がはっきりと頭に浮かんでしまったから。
──そして、ある罪人の証言
赦さない。
さっそく弟がやばい【HN:Rod】 投稿日時9/16 2:47
調査に向かわせた弟分と電話していた時、異変は起こった。
「ロバート、キースには会えたのか?」
「まだ全然……。でも、本当にマンチェスター郊外でいいの?実は特徴似てるだけでアメリカとかオーストラリアだったりしない?」
「……たぶん……。……いや、アメリカの可能性ってなくもねぇな……」
「ちょっと!そこはしっかりしてよ!」
ガキの頃みたいにやいのやいの言ってくるのを鬱陶しく思いつつ、懐かしいな、なんて……思っていた矢先のことだ。
──ああ、見つけた
電話の向こうからは、ノイズ混じりの声。
文句を垂れていた弟の言葉が途切れ、悟る。
……キースはきっと、もう、この世にはいない。