第3王子
僕が第3王子にあってから数時間後には、もう馬車に揺られて城を出ていた。
第3王子は城を出てからずっと、ベッタリと馬車の窓枠に張り付き、子供みたいにはしゃぎながら外を食い入るように見ている。
「レオナルド!すごいぞ!もう城があんなに遠くにある!」
「ええ、そうですね。」
「どうした?元気がないなぁ。」
「いえ、そういうわけでは。僕はいつもこんな感じなのでお気になさらず。ルイス様こそ、そんなにはしゃいではすぐに疲れてしまわれますよ。」
どういうわけか、第3王子はようやく窓から離れると僕に向き合った。
「レオナルド、様はやめろって言っただろ? それに、敬語も禁止だ。」
「しかし、王子にそのような口を利くわけには…」
「俺が良いって言ってるんだからいいんだよ。それに、呼び捨ての方が仲良くなるのが早いしな。」
「…それでは、ルイスさん、とお呼びします。」
「はぁ。お前は意外に頑固なのか?レオナルドさん。」
「…さん付けはやめてください。呼び捨てでいいですよ。」
「わかりましたよ、レオナルド」
「敬語も辞めてください。だいたい、2人とも敬語で話したら、どっちが喋ってるか分かりづらいじゃないですか。」
「わかったレオナルド。王子である俺はここまで妥協したぞ?」
「…だからなんですか。」
「お前も、その敬語とさん付けやめろって」
「諦めて下さい。僕は意外と頑固なので。」
第3王子は恨めしい目で僕を見てきたが、無視することにした。しばらくして、第3王子は再び口を開いた。
「けど、敬語は本当にやめた方がいいぞ。」
「なぜですか?」
「敬語だとなめられるからな。それと、一人称に''僕''を使うのも止めた方がいい。」
「なめられるからですか?」
「ああ、そうだ。敬語+僕、なんてもうベロンベロンに舐めらる」
「経験がおありで?」
「さあね。」
なるほど、第3王子も昔は敬語に''僕''を使っていたみたいだ。
「ところでルイスさん、行き先は何処ですか?」
「ジェラールだ。」
「ジェラール…確か、我が国のすぐ隣の小国でしたね。なぜジェラールに?」
「まぁ、1番近いからな。それに美女も多いって噂だ。」
「…。聞いてませんでしたが、旅の目的か何かはあるのですか?」
第3王子はニヤリと笑うと、意気揚々と語り出した。ニヤけた顔まで国宝級に整っている。
「いい質問だ。レオナルド君。いいか、第一王子は優秀な頭脳を授かった。では、第二王子、君の尊敬してやまないグラス様は何を授かったと思う?」
「武闘の才だと思います。」
「正解。第二王子は武闘の才を授かった。ではでは、第3王子、俺は?」
「ルイス様は、、、ルイスさんは、、、」
「ブブー。時間切れ。見て分かるだろ?レオナルド。俺はルックスだよ。誰もが羨む完璧な顔面を授かった。」
確かに否定できないけど、自分で言うかな。普通。
「第一王子は優秀な頭脳を生かして国民を導いている。第二王子は武闘の才を生かして本来なら統率の難しい軍隊を立派に率い、王国を守っている。2人とも、与えられた才を無駄にせず、立派にその使命を果たしてる。2人の立派な兄を見て、俺は思ったんだ。与えられた才は無駄にすべきじゃないってね。」
うん。ここまでは第3王子の言うことはだいたい理解できる。
「俺は、自分の見た目を生かして、1人でも多くの女性を愛して、幸せにするべきなんだ。」
うん。。なにかおかしい気がする。
「じゃあここで、愛ってなんだ?って話になるけど、愛はすなわちセックスだ。だから、俺は1人でも多くの女性とセックスしてたくさんの女性を幸せにすることにしたんだ」
「はあ!?」
思わず僕は狭い馬車のなかで立ち上がり、天井に頭をぶつけた。
おかしい。この人、おかしいよ。完全にイカれてる。
「何バカなこと言ってるんですか!そんなくだらない目的なら、とっとと城に戻って国民の為にできることを一つでも多くするべきです!あなたは我が国の王子なのですよ!?」
「それが何だっていうんだ。俺はたまたま親が王様だっただけで、なりたくて王子になったわけでもない。それに、国の事なら兄達が立派にやってるから心配いらない。」
「それでもあなた様は我が国の王子であることには変わりありません!お国の為になすべき事をすべきです!」
「お国お国って。じゃなにか。レオナルド、お前はお国の人々が幸せだったら、隣国の人々が飢えで苦しもうと、お国以外の全人類が滅亡しようと構わないのか?」
「そ、そういうことを言っているわけではっ」
「そういうことだろ。はっきりいうけど、俺はお国がどうなろうとなんとも思わない。」
「…そんなの、王子を信じている国民への裏切りですよ。」
「はっ。俺を信じる国民なんて…いや、俺は信じてくれなんて言った覚えはないし、顔も名前も知らない国民を守ってやるつもりもない。俺が守るのは、顔と名前が一致する奴までだ。それが俺のルールだ。」
…なんて自己中な王子なんだ。グラス様なら口が裂けてもこんなこと言わない。
これ以上口をきくと、本気で第3王子が嫌いになってしまいそうだったから、僕はジェラール王国に着くまで一切口を開かなかった。
第3王子は、何度か僕に話しかけてきたけど、僕が話す気がないのを悟ってか、ジェラール王国に着く頃には大分大人しくなくなっていった。
そんなこんなで、第3王子ルイス様、
否、ルイスさんの第一印象は、
見てくれだけの最低王子