04. 初登場 (2)
「こんばんは!!!」
午後九時ちょうど、一瞬静かになったカフェに微かな鐘の音が響き、大きくあいさつをしながらあのボーカルの子が顔を出した。相変わらず耳に挟んでいるイヤホンと、背負っているギター。手首には派手なブレスレッド、手にはいろんな指輪。その次はなんだか騒がしく口論しながら入ってくるキーボードの女の子とドラムの人―そのときにみなみの目が猛烈に輝くのを目撃した―。みなみは私の耳元でまた密かに囁いた。
「ちょータイプ」
ドラムの人がこの間派手に回してたあのドラムスティックは、今回は大人しく彼のポケットに入っていた。今度はチェックのシャツにジンズ。そして最後にベースの男の子がカフェに姿を現れた瞬間、私は確信した。あの子が、昨日あの屋上で紙飛行機を飛ばしてた子に間違いないと。なぜなら、あの子の手にはまた丁寧に折られた紫色のストライプ紙飛行機が握られていたからだった。
「お、いらっしゃい」
すぐ前まで歌っていたバンドのリーダーさんと話していた父さんが清々しい笑顔で彼らを迎えてくれたら、キーボードの女の子が90度で敬礼をした。父さんは私に楽屋に案内してあげてという視線を送って、私は少しバツが悪そうに彼らに近づいた。みなみに振り向いたら、彼女は猛烈にテーブルを軽く拳で叩きながら私に目で訴えていた。
電話番号―電話番号―電話番号―。
「あの、楽屋はこっちですよ」
ぼっと天井を眺めていたベースの男の子と、口笛を吹きながらキーボードの女の子の攻撃を防いでいたドラムの人。そしてモテすぎてごめんなんかの歌を歌っていたうぬぼれやつまで、総四名が同時に私に視線を集中した。瞬間ものすごい緊張した。
他のバンドの歌がまたはじまり、一番後ろのテーブル周囲を占めていた彼らはゆっくりと私の後ろについて楽屋まで移動した。そして小さなドアを開けて中に入ると、舞台につながるドアがあるもう一つの部屋が姿をみせた。キーボードの子が椅子に座りながら私に声をかけた。
「誰もいないね?」
「うん?あ、そうだね。まぁ公演時間はみんな大体一時間くらいだから、また10時くらいにくると思うよ」
「そうなんだ」
ソファにどっと座りながらニヤリと笑うボーカルの子。
「あ、切った」
「え?」
「血が出る」
そしてそのとき、いきなり投げられたベースの男の子の声。静かな空気の中で私を含めた四人全部があの子に視線を移したら……。少し低めの大人しい声のあの子が口にした言葉はたった二言だった。
へ?血が出る?
「おい、優太!お前手切ったじゃん!」
「だから血が出るって言ったじゃん……。」
「あ、絆創膏もってくるよ! ちょっと待っててね!」
私が急いで楽屋をあとにした瞬間、全然平気そうなボーカルの子の声が後ろから聞こえてきた気がした。
「優太のばかばかばかー!」
…だと。