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03. 紙飛行機 (1)

それから三日後。いよいよオーディションに合格した彼らがうちのライブカフェで公演するその前日。第一志望のセンター試験日がようやく二ヶ月前を切り、ほぼ引きこもりのように勉強に集中してるみなみと私は、久しぶりに自習時間にくすくすと笑いながら話していた。


「そういうことか」

「うん。結構上手だったよ。かっこういいし」

「あぁー!いってみたいよー!みてみたいよー!」

「まぁ、もうちょっと我慢してね。あともうちょっとで自由になれるよ!」

「一ヶ月だけしかいないってさっき翼が言ってたじゃん!」

「……あ、そうだった」

「と、とりあえずみんなすごいの。じゃあ息抜き兼してみに来てよ!ドラムとベースの男がめっちゃ格好いいの」

「ボーカルは?」

「え?ボーカル?まぁ、あいつも格好いいっちゃ格好いいけど……。」


私はそこまで言って口を伏せてしまった。なんていうか、あのうぬぼれやつを格好いいと認めてしまったら負けだという気がしてきたからだ。みなみが私の急激な表情の変化をみて、なにか察したように私の額を指で突きながら聞いた。

 

「なんかあやしいー」

「え?そんなことないよ」

「じゃあなんでボーカルの話で黙っちゃうのさ」

「あ、これにはなんとなく事情があって…!」

「はぁ?事情?二人の間にもう秘密なんか作っちゃうくらい仲良くなったの?なんの事情や!早く吐け!ますますあやしいー!」

「吐くことなんか何もないよ?口笛でも吹いてあげようか?私結構上手だよ?」

「何を吹いてやがるのだ、この野郎」


ぐうーーーっと、いきなり現れた担任が私たちの頭をその両手の拳でじーーっと押した。私たちは頭を抱えながら同時に先生に叫んだ。


「先生!痛いですよー!」

「痛くしようとしたんだから当たり前だ。滝瀬!お前は大学も受かったくせに大人しく寝込めばいいものを、なんて騒がしくしゃべってんだよ!みなみが受験落ちたらお前が責任とってやんのか?」

「え、責任なんて無理ですよ、先生。わかってるくせにぃ」

「じゃ空気読んで大人しく帰宅しろ!」

「はぁーい」


先生の痛々しい視線を受けながら私は大人しく机の上に身を伏せた。それでもなんとなく笑いが止まらなくて、その声を聞いたみなみが私に睨み付けた。その刺されそうな恐ろしい視線に私は素早く目を瞑った。笑いたくないのに、口から変な笑いがずっと零れ出した。楽しみだったっていうか。

父さんのライブカフェは、昔から渋谷では有名なところだった。そのおかげで幼いころからいろんな人達のすごい音楽を聴きながら育ててきたし、私自身も音楽がすごく好きで、だから期待することなんて今の年頃になってはあんまりなかったのに、今回だけは何かが違った。あのうぬぼれやつの顔がたまに頭の中に浮かびあがったり……。


「やっぱなんか変だよね、私……。」


これではまるで私があのボーカルの子をすごく気に入ってるようではないか。こんな雑念なんてさっさと捨てたほうが絶対いい。あのうぬぼれやつをもし本気で好きになったりしたら何の苦労をするか!

私は否定するように首を横に振ってから、交差しておいた両腕の中で静かに眠りに落ちた。


よろしくお願いします!

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