婚約?
難しいです。
「婚約ですか?」
15歳にになって成人の儀を終えた俺は、父上に冒険者になることを告げるつもりで面会を申し込んだ。
だが、返ってきたのはマイスナー公爵家の三女・エリスティーナとの婚約話だった。
「そうだ。我がウインスター候王家としてもマイスナー公爵家と縁を結ぶのは悪いことではない。貴様も知っている通り貴族たちは国を越えて婚姻等で様々な縁を結び、結束している。そして、マイスナー公爵家とは100年程前に当家の娘が嫁いでおる。そろそろ新しい縁を結んでおきたい。」
俺は苦い顔をして父上を見る。
「次は当家が公爵家から嫁を貰う番、と言う訳ですか。父上。」
父上は鷹揚に肯くと、
「そうだ。私は貴様が冒険者に成りたがっていることは分かっていたが、それは認めるわけにはいかん。貴様を生み出したのはウインスター家だが、育てたのは候王領の民たちだ。その領民たちの安全な生活のために婚約してもらう。貴様もウインスター家の人間として生まれ、生きてきたのだ。候王家の一員としての責務だと思え。」
父上の言うことはわかる。マイスナー公爵家といえば五摂家の一つで、皇帝が幼い時や女帝の時に摂政を輩出し、帝国の政治を治める大貴族だ。その権勢は「帝国内の独立国」である候国としても無視できない。その家と100年ぶりの縁を結びなおすためなら俺の意思は考慮しないのだろう。いや、できないのだろう。
「まず確認させてください。マイスナー家のご令嬢はおいくつなのですか?相手のご意志は?」
「うむ、エリスティーナ嬢は14歳で、マイスナー公爵家としては乗り気だ。それに三男と三女で跡継ぎには関係ない。両家にとって都合がいいのだよ。」
まあ、そうだよなぁ。この婚約は両家の縁を結びなおすためだけなのだ。長女を長兄に嫁がせ、長兄に問題があった場合家の都合で長兄を跡取りにできません、とは言えないもんな。相続に関係ない三男あたりが妥当か。しかし、
「父上、年上のキリエ兄上が相手の方が相応しいのでは?」
キリエと言うのは次兄で現在も王都で研究者を続けている。
父上はため息を吐くと、
「貴様も知っての通り、兄二人は既に結婚している。無理を言うな。」
「でも、サアヤ姉上は既にお亡くなりになっています。後妻として若い花嫁を貰うことに問題がありますか?」
サアヤ姉上という方は、キリエ兄上の結婚相手だったが病弱で結婚後数年で亡くなった。優しい方だった、との記憶がある。
「ふん、マイスナー公爵が貴様を指名してきたのだ。色々思うところがあるかもしれないが、従ってもらうぞ。」
父上はそう言うと退出を促すように背を向けた。
「考えさせてください。」
そう言い退出する。
考えさせてください、とは言ったがこれを覆すのは無理だろう。だが、冒険者の夢も捨てたくはない。考えに没頭しながら歩いていると、階段から落ちた。怪我がなかったのは幸いだった。
遅くなりました。




