first chapter〜Pandora〜 part①
地球上がPhantomウイルスに侵された後に、政府は抵抗者と克服者を集めたPhantomウイルス対策組織を設立した。
その名は"PANDORA"。
もちろん俺たち雪音兄妹も所属している。
しかし、シェルターとは隔離された場所に本部や居住区が設立されている。
なぜか、それはウイルスに感染しているからである。
俺のような"抵抗者"はウイルスが体内に侵入しても抗体ですぐ殺してしまうが、月花のような"克服者"はウイルスの力を利用して、異能を使用するので症状は出てないが《感染はしている》と認識され、一般市民が多数避難しているシェルターへの侵入が固く禁止されている。
☆○□◇□○☆
カラス型異形生物を討伐した後、これといった危険反応は無かったので、居住区に帰還。そのまま床に就いたのである。
ドンドン!ドンドン!
ドアを叩く音が俺を起こす。
「んだよ、こんな朝から…月花が起きちゃったらどうすんだよ…」
別に疚しいことがあるわけではないのだが、月花は昔から物凄く寝起きが悪く寝ぼけて異能をぶっ放す恐れがあるので、本人が自然に目を覚ましてくれるのを待つしかないのである。
俺はそっと布団から這い出て、静かにドアを開ける。
「はーい、新聞ならお断りですぜー」
適当で有りがちなセリフを吐いて気だるげに相手を確認する。
目の前には眉尻をピクピクさせて明らかにお怒りになっている女性が。
「へぇ〜、上司に向かってそんな口がきけるなんて、裕人クンはどれだけ偉くなったのかな?」
「げっ、泉奈さん…」
この方は鳴神 泉奈さん。
俺たち雪音兄妹を担当する直属の上司で、俺らの世話役兼指示係である。
「いつも月花ちゃんが壊している建物に関する始末書の作成やPhantomウイルスの感染個体の残骸の処分を一括して行なっているのは誰だと思っているのかな?」
「泉奈様でごさいます。ご無礼をお許しください。」
土下座で謝る。
確かに月花の異能で倒壊した建造物や、俺らがバラバラにした感染生物の死骸の処理を担当しているのはこのお方である。
「で、なんの用件でございましょうか?」
「また話をそらして…まぁいいわ。」
こほん と一つ咳払いをし、こちらに向き直る泉奈さん。
「実は昨日parasite討伐に向かったチームがまだ帰還していないの。
連絡もつかないし何かあったと見た方がいいわ。
そこで、あなたたち二人に捜索をお願いしたいの。」
parasiteというのは、簡単に言うと"Phantomウイルスに感染して異形化した生物個体"の総称である。
用件だけ伝えた泉奈さんは他に作業があるとかで帰ってしまった。
「しゃあない、月花を起こすか…」
俺は戸棚の中から一本の注射器を取り出す。
これはPhantomウイルスの抗体物質で、俺みたいな抵抗者は無用の長物だが、月花のような克服者は適度に接種しないとウイルスに飲み込まれてそのままparasite化してしまう。
まぁ、月花はその能力が強力すぎるせいでPhantomウイルスの力全てを異能のエネルギーに変えてしまうのでぶっちゃけ必要ない。
逆にある程度のウイルスが体内に居ないと能力が弱体化してしまう。
これを利用して月花に微量の抗体物質を注射することで短時間であるが能力を封じてから起こすという、最低限の被害で済むやり方を俺は編み出したのだ。誰か褒めてくれ。
俺は今だ寝ている月花に歩み寄り、その華奢な右腕に注射を打つ。
ちなみに俺の能力"射線眼"で前回注射した所を寸分のズレも無く打ち込む事ができる…
ふっ、この辺の配慮も可能な俺マジ兄貴。
「オラ、月花。仕事だぞ起きろい!」
勢いよく布団をひっぺがす!
「みゅ〜…まらねむいのぉ!」
寝ぼけ眼で右手を突き出す月花。
ふっ、異能は封じてあるし効かんぜ!
そう思ったのもつかの間。
小さい火の玉が俺の服に当たり着火。
「アツゥイ!!」
慌てて服を脱ぎ床に叩きつけて消火活動に移る。
「……ん〜」
そのタイミングで目をこすりながら起き上がる月花。
…この状況ヤバくね?
だって寝起きの妹と息を荒げた上半身裸の兄ですよ?
これは誤解されても仕方ないぞ!?
「…おはよぉ、お兄ちゃん」
にっこり、とお日様の様な笑顔で朝の挨拶を告げる月花。
…天然な妹と日頃良い行いをしていた自分に感謝だよ…
☆○□◇□○☆
「はぁ…チームが任務中行方不明っていうことは克服者がparasite化して抵抗者が殺られるパターンが殆どなんだよな…」
妹に聞こえないように呟く。
かく言う俺たちも一度、本部に連絡が突如付かなくなり、
……第一級危険parasiteと接触してしまったのだ。
☆○□◇□○☆
第一級危険種 翼竜型parasite
通称【phantasma】
こういった強力なparasiteには固有名称が付けられ危険視される。
全長30m超、二対の漆黒の翼、parasite特有の紅い眼では無く蒼穹の瞳、さらに尾より伸びる無数の触手を持つ竜に襲われた…
当時、俺のパートナーである月花は組織内で最弱の能力だったのだ。
「形のない物を自在に操る」
これだけだった。
それでも俺を護ろうとして戦った月花は、俺を庇って数本の触手に右半身を貫かれてしまった。
そこから注入される【phantasma】のPhantomウイルス。
俺は地面に倒れ伏した月花を必死で呼び起こした。
"死"が目の前に鎮座しているのに。
しかし意外なことに月花は直ぐに眼を開けた。
------左は紅く、右は蒼い眼を。------
ゾンビのような動きで月花は右腕を翳す。
そこから虚空に産み出される無数の刀剣。
☆○□◇□○☆
「…ッ!?」
「…お兄ちゃん?どうしたの?」
俺は強烈な頭痛に襲われ、頭を抑える。
くそ、この後の事を思い出そうとすると何時もこうだ…
☆○□◇□○☆
気がついたあの時の俺が見たものは再び倒れ伏した月花と断ち切られた【phantasma】の数本の触手と漆黒の片翼。
月花はその後半年もの間眠り続けた。
半年後目覚めた月花は記憶の大部分を失っており、代わりに異能《万物創世》が宿っていた。
断ち切られた【phantasma】の部位から解析が進められ、月花の異常な力は【phantasma】の特殊なPhantomウイルスを月花が"克服"して産まれたもの。
【phantasma】本体は逃げ去り、月花は"竜の力"を手に入れてしまったのであった。
☆○□◇□○☆
「まぁそのおかげもあって、たった3年で組織内順位第3位まで上り詰めることが出来たんだがな…」
組織内順位というのは純粋なチームとしての戦闘力の順位。
月花の異常な力はどのチームよりも強く、もともと能力持ちだった俺と合わさる事で戦闘力は倍増。
だから通り名が"Phantom:Chaos"なんて呼ばれてしまうわけだが。
「どうしたの?急に頭を抑えたり、呟いたり…具合でも悪いの?」
心配そうに俺の顔を覗き込む月花。
兄貴の俺がこんなんじゃ駄目だよな…
過去は振り返らない、そう決めたんだから妹に無駄に心配をかけるな、俺!
「なんでもない、さて行方不明者を探すぞ我が自慢の妹よ!」
「うん!」
こうして二人は行方不明者を探すべく荒れ果てた街を歩いていった。




