プロローグ
あの日、私は全てを失い、穏やかな日常は終わりを迎えた
そして同時に始まったのだ
復讐を果たすための人生が……
ユイカ・ウェルソンの手記 第5P
『日常の終わり、復讐が始まった日』より抜粋
八年前
血に染まり冷たくなっていく彼の身体
あの時アタシは縋り付き、彼の名を呼ぶことしか出来なかった
傷の処置をしていれば彼は助かったかもしれない
だが、あの時アタシは冷静な判断が出来なかった
「お前は……生きろ……生きて…くれ……」
その言葉を最後に目を閉じるアタシの愛しい人
「コースケ!?目ぇ開けろよ!コースケぇ!!」
目を閉じては死んでしまう
そう感じたアタシはコースケの名を呼びながら
身体を揺すり続ける
だが、コースケが目を開けることはなかった
「なんで……なんでだよぉ……アタシ達は普通に生活してた。
ただそれなのに、なんでこんなことを……!」
アタシは涙を流しながら、無言でこちらを見つめている男を睨みつける
睨みつけられた男は口元を歪ませた
「簡単なことだ。その男が我々を裏切り、組織から抜けたからだ。
余計なことを話されてもらっても困るのでな……
口封じのために消えてもらった」
「組織……?一体何のことを言ってるんだよ!!」
「なんだ、知らないのか?……まぁいい、貴様にも消えてもらうぞ」
男はそう言ってコースケの血で赤く染まった剣をこちらに向けてくる
アタシは身を守るためにコースケが床に落とした刀を
手に取って立ち上がり男に向けた
「ほう……この私に刀を向けるか。面白い、
その刀で私を殺してみせろ」
男はそう言って剣を床に刺し、殺してみろと
言わんばかりに両手を広げる
「言われなくても殺してやる!!」
アタシは激情に任せて手に持っている刀を振りかぶるが――
「クッ……!」
どうしても振り下ろすことが出来なかった。
「どうした?怯えているのか?」
「だ、誰がお前なんかに!」
「ならばその刀を振り下ろしてみろ」
「っ……!」
刀を振り下ろそうとするが、手が震え、
どうしても降り下ろすことが出来ない
男の言う通り、アタシは怯えていた
コースケを殺したこの男に
怯えていることもあるが、何よりアタシは
自分の手で人を殺してしまうことが怖かった
「恋人を殺した私が憎いだろう?殺したいだろう?
ならば、その刀を振り下ろせ!私は一切抵抗しないぞ!
さぁ、殺してみろ!」
「う、うう……」
「私を!!殺せえぇぇぇぇ!!!」
「うわあぁぁぁぁ!!!」
アタシは叫び声を上げながら刀を振り下ろした
だが――
「やればできるじゃないか」
振り下ろした刀は二本の指によって軽々と防がれた
「あ……」
「だが、如何せん弱いな……弱すぎる」
男は空いている腕でアタシの腹を殴る
アタシは軽々と吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられて床に倒れた
「ガッ……!?グゥ……」
「だが、貴様の勇気に免じて生かしておいてやろう」
男は刀を捨ててそう言い、立ち去ろうとする
アタシは痛みを堪えて口を開いた
「ま……て……待てぇ!!!」
アタシの声を聞いて、男が立ち止まる。
「殺してやる……お前だけは絶対に殺してやるぞ!!」
「私を殺す?出来る訳がないだろう」
「出来るかどうかなんて知ったことじゃない……
どんな手を使ってもお前を追い詰めて、お前を殺す!!」
「……面白い。ならば強くなって私を殺してみせろ。
最も、貴様では無理だろうがな」
「そうやって見下してればいいさ……
その言葉、絶対に後悔させてやる!!」
「楽しみにしておこう」
男はアタシの言葉を聞いて笑みを浮かべ、去っていった
「……」
男が去った後、アタシはコースケの遺体を
近くの丘に埋め墓を建てた
此処はアイツのお気に入りの場所だった
アイツも気に入ってくれるだろう
「コースケ……」
アタシはコースケが眠っている墓に話しかける
自らの決意をコースケに伝えるために……
「仇は……必ず取るからさ……見ててくれよ」
滲んできた涙を拭い、墓に背を向けて歩き出す
振り返ることは……もうなかった