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第1話【白萩学園演劇部】-Part3-

 その後は、自然とすんなり話が終わった。

 「なら、ゆっくり考えるといい」

 そう言われて、その場は解散した。

 そうして今俺は、部室棟の屋上で物思いにふけっている。

 自分の能力について。

 学園のやり方について。

 そして………、自分の今後について。

 「はぁ………」

 ため息が出た。

 ずっと緊張しっぱなしだったからだろうか?

 緊迫感のある話を、続けてやっていたからだろうか。

 あの男………、藤十郎を前に委縮し、警戒していたからか。

 ………そんなことはどうでもいい。それより……、俺はどうしたらいい。

 俺がここにいる理由を、忘れた訳じゃない。

 だがそれでも……、俺はどの道を選べばいいのか、分からない。

 どちらの立場に着いた方が得なのか。

 どちらがより……、目的に対して近いか。

 ……、個人的感覚は頼らない。そんなものは、邪魔だから。

 飛び降り防止の柵に腰を預け、空を見上げて独り言。

 「俺は………、どうしたらいいんだろうな?」

 答えは出ないまま、1人の時間が過ぎていった。


 ◇◆◇◆◇


 「なぁ大先生、本当に放っておいていいのか?」

 男はソファーに寝転がりながら、問いかける。

 その言葉の返答は、男の視線の先、書類の山の向こうからだった。

 椅子に背もたれを軽く掛けて座っている男、春日藤十郎は目の前の机を眺めながら、言葉を返す。

 「大丈夫ですよ。逃げはしないでしょうし………、なにより」

 「なにより?」

 「彼は冴えている男です。きっと自分の判断が出来るでしょう」

 「……冴えてるって言うかさ、ちょっと怖いよな」

 「怖い………、とは?」 

 「あいつ、俺と一緒に逃げる時、崩れ落ちる瓦礫を使って、自分の衝撃を和らげてたんだよ」

 「それは確か、トオルもやれた事では?」

 「そーだけどさ………、あいつ、息一つ乱してなかったぜ。あれだけの運動をしておいて。ただ運動神経のいい男で済むレベルには見えなかったしな。俺は腕に能力パイルバンカー付けてたけど、無くてもあいつに勝てる気がしねぇ。……あいつ、何もんだよ」

 男は暗い顔をする。

「まぁそれは追々分かる事です。今は彼自身の判断を待って、そしてそれを受け入れることにしましょう」

 その声には、優しさと、ほんの少しの恐れの思いが込められていた。

「……なぁ」

男は、そんな大先生に改めて別の質問をする事にした。

「なんです?」

「……あいつの好きな女のタイプって、どんなんだろうな?」

「………………はい?」

大先生のニックネームを持つ、春日藤十郎は、資料の山の向こうで、唖然とした顔を作った。

それを全く気にしない様子で、ところどころ破れているソファーから勢いをつけて立ち上がる。

「ほら、男の密談をする時にさ、そういう情報いるかなって」

「……情報になるか知りませんが、陽乃をやけに眺めていたような気が」

「ほう……、年下萌えか。ワンコなら貧乳属性にも当てはまるかな?」

「なっ……」

その言葉に、藤十郎は反応した。

「まだまだうちの可愛い妹は発展途上なんです!! もしかしたら成長の余地があるかもしれないじゃないですか!!」

「つまり、大先生はワンコが巨乳の方がいいと………」

「……それはそれで悪くないかも……、ってトオル!! 別に胸だけが陽乃の魅力ではないんですよ!!」

「ほう……、どんな感じに?」

男はそう返答しながら、相手から見えないのをいいことに、面白半分でテープレコーダーを用意する。

「それはまず、気配り精神から始まって………………」

ここから男二人による、ちょっとアレな密談が繰り広げられたのは、もはや言うまでも無い。


 ◇◆◇◆◇


 部室棟には昔、放送室というものがあった。

 放送部の練習の為と、部室棟内での通信の為。

 だが今、その場所は演劇部によって改良を施され、今では立派なオペレーションルームとなっている。

 仲間との通信を行う器具、学園の監視カメラへハッキングして入手している映像。

 またそれを映すディスプレイが数台と、パソコンが数台。

 改良された部屋に放送部としての名残は殆どなく、今は春日陽乃のオペレーションルームと化している。

 能力の無い彼女の担当は、仲間への指示や作戦担当。

 あとは料理の出来ないメンバーへ料理を作ったり、掃除洗濯をしたりと良妻賢母ぶりを発揮していたりもする。

 彼女がこの部屋にいるのは、作戦中や作戦に関するデータまとめる際等の、仕事の時が主である。

 が、例外として、1人で物思いに耽りたい時もこの場所で回転椅子に座っている。

 ここだけ豪華な椅子で座り心地がいいというのもあるが、1人の専用空間と言うのも理由にあがる。

 「……トランス」

 部屋の天井を見上げながら呟く。


 ◇◆◇◆◇


 私には、トランスが無い。

 今演劇部に所属しているのは5人。

 そのうち、能力を持っていない人間は、実は私だけなのだ。

 そのことに劣等感をずっと抱いている。

 周りのみんなは戦いの前線に出ているのに、自分は後方のサポートしかできない。

 いや、だからこそサポートは徹底的にしようと心に誓っている。

 それでも………、仲間外れな感覚は否めないのだ。

 ……女って、そういうの特に嫌がるからなぁ。

 自分は本当に仲間なのだろうか?

 本当に信頼されているのだろうか?

 裏切られる事が……、一番怖い。

 「私にも………」

 トランスがあれば、と思う。

 そうすれば、皆と同じ立場に立てるから。

 今の私の立ち位置には、もしかしたら今日来た彼………、如月さんがなってくれるかもしれない。

 ……そんな風に、ご都合主義を想像しちゃうんだよね………。

 兄の言う信念というのが、私にはまだよく分からない。

 馬鹿だから、私は。

 そう思っていたその時、部屋に光が差し込んできた。


 ◇◆◇◆◇


 部屋に入ってきたのは、先の闘いに置いて副会長と対峙した、小さな少女だった。

 陽乃はそれを確認すると、声をかける。

 「どうしたの? 姫がここに来るなんて、珍しいね」

 「………………」

 彼女は言葉を返さない。

 姫と呼ばれる少女は、あまり喋らないのだ。

 だが、

 「また兄さん達、会議室占領してなんかしてるの?」

 少女は頷く。

 部の面々は、彼女の顔の変化からなんとなく思いを察することが出来る。

 特に陽乃は同じ女子同士という事もあって、部内で一番少女と語り合える。

 だが決して、彼女がしゃべらない事に関して言及はしない。

 その裏に、どういう事情があるか、部の誰もが知っているから。

 「そっか。じゃ………、姫はさ、今回来た彼をどう思う?」

 少女は入り口脇にパイプ椅子を展開し、座り、抱えていた猫のぬいぐるみを膝の上に置く。

 そして眉間にしわを少し寄せる。

 (考えてる考えてる)

 少女は更に考え込むように、どんどん眉間にしわを増やしていく。

 その様子を見て、陽乃はこう考える。

 (やっぱり………、姫はかわいいなっ!!)

 どこか保護欲も駆り立てられる、あの愛らしい姿!!

 無表情な顔がどんどん考え込む顔になってく変化がとても可愛らしいと思った彼女は………、

 「ひ~めっ!!かわいいよぉ~!!」

 とてつもない速さで彼女に駆け寄り、抱きしめる。

 そしてそのまま頭を撫で、更に求めるように深く抱きしめていく。

 いきなりの事で、少女は困惑する。

 ぐるぐる目になりながら、なされるがままである。

 一応抵抗はしているが、少女の細腕では太刀打ちできない。

 「うーん、今度はどんな服着せようかな~、今のゴスロリのままでもいいけど、いっそスク水とか着せて見ようかな~。いやでも兄さんやセンパイに欲情されたら最悪だよね~。う~ん、どうしようかなっ!!」

 しかしこの彼女、とてもハイテンションである。

 対して腕の中の少女は腕をジタバタして抵抗するも空しく、効果は無い。

 もう完全に、陽乃のなされるままである。

 「――――っ!!」

 「あぁ、そろそろ限界か。ごめんごめん」

 抱きしめていた腕を話して、少し距離を取る。

 陽乃は謝るが、少女はまだご立腹のままだ。

 (怒る姫もかわいいなっ!!……いけないいけない、自粛自粛)

 さすがにこれ以上は不味いと感じる。

 だから彼女は、改めて質問した。

 「それでさ、結局どう思う?彼」


 ◇◆◇◆◇


 彼、とは如月の事だろう。

 先程から姫と呼ばれている少女も、それを察している。

 だからこそ、滅多に開かない口を、少しだけ開いた。

 「―――楽しみ」

 「お、姫が喋って笑った。これは期待大だね」

 そうなのかな? と少女は思う。

 自分は確かに声はあまり出さないが………、それに。

 (笑って……たのかな?)

 ほんの少し、思っている以上に彼に期待しているのではないか?

 そう、感じたのだった。


 ご意見ご感想、お待ちしております。

 

 作者ブログ『とある高校の文芸同好会のブログ』

 http://blogs.yahoo.co.jp/cruseidars757

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