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どこかで見た・・・?

 ビルの屋上から戻ってくると、すぐ近くの道路に見慣れた黒のセダンが止まっているのに気付いた。

「お前、まだあの車に乗ってんのか」

「いいだろうよ。別にさ」

井上の言葉をサッと受け流す藤井。と言うのもこの車、ちょっとばかりいわくつきの車なのだ。まあ、それは後ほど説明しよう。

 藤井が運転席に乗り込み、井上が助手席に座った。大きな荷物は後部座席に鎮座している。

「なあ、それにしてもお前、何で命狙われたんだ?」

エンジンをかけると同時に藤井が口を開いた。

「さあ・・・・・・なんでなんだろうな~」

もちろん、井上には心当たりが無い。まあ、あったとしても忘れている。

「たぶん、いつもの店のテラスで道行く人の格付けしてたから、それかもなー・・・」

「真面目に考えろって」

「これでも真面目だよ。大真面目だ」

井上は両手を頭の後ろで組み、右足と左足をクロスさせる。

「シートベルトしろよ」

「もうしてるよ」

「そうか」

藤井がアクセルと踏むと、車は勢い良くバックし始めた。

「うわっ!おいおいおい!」

「やべぇミスった」

ギアをリバースからドライブへ入れなおし、出発。



   

 会社へと続く一般道をひたすら走る。と言っても、会社までは五分ほどで着く距離だが。

「なあ、そういえばさ、お前はどうしてこの仕事に就いたんだ?他にも就職口はたくさんあったろ」

助手席から、運転手の顔をうかがう。

「・・・さあな。まあ、ただ一ついえる事は」

フロントガラスに、雨粒が当たる。

「面接で受かったから、かな」

さっきまで晴れ渡っていた空は、あっという間に雨雲に飲み込まれていた。

「うわ・・・・・・すっげー雨だな。ゲリラ豪雨ってヤツか、こりゃ」

ワイパーをハイペースで動かしても、雨は容赦なく藤井の視界を奪う。

「いい音だ・・・」

井上はと言うと、のんきにも助手席で雨音を楽しんでいた。




 JP警備本社の自動ドアが開き、軽く雨にぬれた井上と藤井が入ってきた。その姿を見た一人の女性社員が小走りで駆け寄ってくる。

「ちょっちょっちょ、お二人さん!で、どうだったんすか?井上さん、命、狙われたんすか!?」

この、少々うるさい女性は高藤芳江たかとうよしえ。この会社で、主に事務を担当しているごく普通の社員だ。まあ、表向きは、だが。

「うるさいぞ高藤。三十にもなって、まだ落ち着きが無いのか」

軽くあしらう井上。

「まだ三十じゃないっすよ!ピッチピチの二十七歳ですよ!」

「うるさいぞ高藤」

悪乗りする藤井。

「な・・・・・二人してこんなにか弱い女の子を虐めるなんて犯罪ですよぉ・・・」

「おい、さっさと行こうぜ」

「そうだな。早く行こう」

彼女を無視して歩き出す二人。

「あっ!ちょっと、結果教えてくださいよ!」

「それは」

「後でな」

高遠の質問に、連係プレーで返事をする二人。さすがはJP警備一の名コンビだ。




 大荷物を、自分のデスクの下に置く藤井。綺麗に片付けてあるデスクの上には、日本メーカーのノートパソコンが一台置いてある。

「さて、じゃあ飯にすっかな・・・」

「おい待て、それより先に、例のお嬢さんの写真見せてくれよ」

荷物を置いて食堂へ向かうような素振りを見せた藤井を、井上が制止する。

「なんでだよ・・・。お前はさっきコーヒー飲んだから良いかもしれないが、俺は何も飲み食いしてないんだぞ。飯くらい食わせてくれよ。昼休み、終わっちまうだろ」

「いやいやいや、ほら、こういう時ってさ、まあ先にそういう写真見るんじゃないか?ドラマとかでもそうだろ?『ウイルスの解析結果が出た!飯食ったら教えるわ』みたいな展開、無いだろ?」

「斬新で良いじゃないか」

「そう言う問題じゃない」

「冗談だ。分かった分かった見せてやるよ。その代わり、夕飯おごれよ」

藤井はそう言うと体の向きを変え、自分の席に着くとカバンからカメラを取り出した。

「いいか?このカメラは俺がこの会社の初任給で買っ」

「そう言うの、いいから」

「・・・・・・・・・・・」

ちょっと残念そうな表情を見せてから、カメラの側面にあるふたを跳ね上げカードを取り出す藤井。

彼はそのSDHCカードを脇に置き、スリープモードにしていたノートパソコンを立ち上げた。

「それにしても、俺はお前がちょっとうらやましいな」

藤井はそういいながらカードをパソコンの側面に差し込む。

「何でだ?」

画面を見ながらそう返す井上。

「あんな可愛いおネエちゃんに命狙われるとかさ」

モニタにメモリーカード感知の画面が現れる。

「そうか?特に心当たりは無いんだがな」

「まあいいさ。ほら、こいつ、この娘だ」

藤井の、数回のダブルクリックの後に、写真の縮小版が表示された画面が現れた。再生モードで、一枚一枚じっくりと確認していく。最初に表示された写真は、藤井がいたところからの景色だった。

「おい、この写真は何だ?」

画面を食い入るように見つめる井上。

「ん?ああ、この写真はなんとなく、だ」

「・・・・・そうか」

それから四枚ほど、同じような写真が続いた。

 そして、五枚目。屋上に上がってきた女性が写った写真が表示される。

「ん?この女の子・・・・・・」

眉に皺を寄せる井上。

「どうした?心当たりでもあるのか?アレの」

藤井が茶化すように言葉をかける。

「いや、アレの心当たりは無いが、この娘はどっかで見た事があるような気がする」

「ほう」

「んだが、どこだったかな・・・・・・・。とにかく、どこかで見た事はあるんだ」

首をかしげ必死に思い出そうとしている井上に、時計を見た藤井がこう言った。

「まあ、思い出すのは後だ。もう午後の勤務の始まる時間だ」

「・・・・・まあ、思い出すときに思い出すか」

そう言って井上は画面から眼を離すと、藤井の反対側にある自分のデスクへと向かった。

「さて、じゃ、退屈な仕事を再開するとしようかな」

ここ最近の井上の仕事は、来月訪日する合衆国大統領の警護の際の、警備員の配置図作成であった。

「あーあ、この図面、戦車配備できたら楽に作れるんだけどなー・・・・・・」

「アホな事言ってないで、とっとと仕事しろ」

井上、隣の席にいた同僚に、軽く注意される。


 図面製作中も、井上の頭からは例のスナイパーのことが離れなかった。あの顔、一体どこで見たんだろうか。どこかで見た記憶はあるのだが・・・・・・。

「いや、イカンイカン。今は仕事に集中せねば」

ハッと気がつき、作業中のモニタに集中。無意識のうちに、対スナイパーの警護配置を打ち込んでしまっていたようで、慌てて修正する。今回、遠距離の警備は警察と、あと別の警備会社がやることになっているのだ。

アレは、後で考えよう。今は、仕事に集中しないと・・・。

井上は、午後の仕事始まりの時に淹れておいたコーヒーを、一気に飲み干した。



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