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開かずの踏切

俺の名前は開木ひらき のぞむ

普通の会社員だ。


つい先日、転勤で越して来たこの町。

今日は新天地からの初出勤日だ。


会社は最寄駅から二駅先で、

家から出ておよそ30分で到着する。


新天地からの初出勤と言う事もあり、

1時間前とは言わないが、出社まで1時間を少し切った頃、

早る気持ちに抗えないまま、俺は家を出た。


事前に地図で確認してはいたし、

商店街を通り過ぎる一本道のため迷う事は無い。

しかし、何だか嫌な予感のようなものがよぎった。

それは果たして電車内の急な腹痛か、

はたまた忘れ物をして一旦家に帰るのか。

いずれにせよ少し余裕を見た出社は、

転勤初日の出社には吉と出るはず、だった。


途中で踏切があった。

数人の人が捕まっている。

俺はその中に入り、踏切が開くのを待った。


1分、2分。


中々開かない。


別にその間、電車が通ったりはしていない。

一体何のために踏切が降りているのか。

わからないまま俺は、踏切が開くのを待つ。


5分。


さすがに遅過ぎる。


まさかここはいわゆる、開かずの踏切なのか。


最近はめっきり減ったと言うが、

俺が住むこの転勤先の地方都市では、

まだそういった過去の遺物が残っているのかも知れない。


7分。


まだ、開かない。


俺は辛抱たまらず、さすがに近くの人に聞いた。


「あの、すみません。

 ここってもしかして、いわゆる開かずの踏切なんですか?」


聞かれた高齢の男性は、両目が少し離れているように感じた。

そして何の感情も無い平坦な表情で答えた。


「あぁ、開かずの踏切だよ。」


やはり、そうだったのか。

そうなると、次に気になる事がある。


「あの、どれくらい開かないんですか?」


すると、男性の答えは意外なものだった。


「常に開いとるよ。」


「え?」


俺は思わず、素っ頓狂な声を上げた。


常に開いてる?

いやいや、どう見ても閉まってるじゃないか。

それに、さっき開かずの踏切だって言ったじゃないか。

男性や他の人達も踏切前で待っている。

常に開いていると言うのなら、

サッサと渡れば良いじゃないか。

俺は、何を言っているんだコイツは、

高齢でボケているのか、と思った。


そこで俺は、次の人に声をかける事にした。

刻一刻と過ぎる時間の中で、

早くこの事態を何とかしたかった。


俺はサラリーマン風の男性に声を掛けた。


「あの、この踏切って—」


「行くぞ!」


俺が声を掛けている最中に、

男性の顔が険しくなりそして…..






━男性は高く、遠くへと跳んだ。━






「えっ!?」


驚く俺を尻目に、次々と跳び立つ人々。

一体どう言う事だ。


先程の高齢男性は跳び立たず、ただ一言

「あぁ、跳び遅れた。」

と言った。


「あの、コレは一体…?」


ただ驚くしか出来ない俺に、男性は答えた。


「あぁアンタ、ここら辺の者じゃないのか。」


すると男性は僕の胸元まで顔を寄せて、

低く静かな声で話し始めた。


「ここは開かずの踏切。

 いくら待っても開きはせんよ。

 ただし、よぅく見てみろ。

 頻繁に一瞬、踏切は開いとる。

 そのタイミングを見計らい、跳ぶんだよ。」


言われて、踏切をよく見てみる。

確かに一瞬、視界がブレる。

コンマ数ミリで、踏切は開いているのだ。


しかし、だからと言って、このおかしな踏切を

仕方なく無理矢理理解したとして、だ。

跳ぶと言うのは一体、どういう事だ!?

男性はヤレヤレと言った風に語った。


「アンタ、不動産屋から聞かなかったんだな、可哀想に。

 ここはバッタから転生した者達が住む町だ。

 ワシらは追いやられたんだ、この不便な土地に。

 いわゆる、ワシらの間で言う”バッタ差別だわな。

 しかしワシらはバッタだ。跳べる。

 だからタイミングをよく見計らい、跳ぶんだよ。

 一歩間違えれば轢かれる。

 しかしそれはバッタ時代も人間になっても同じ事なのさ。」


俺は全く理解が追いつかなかった。

何なんだ、バッタの生まれ変わりって。

でも確かにこの町の人達はオレの目の前で跳んだ。


オレは聞いた。


「この踏切を渡らなければ、アチラ側には

 どれくらいかかるんですか?」


「さぁな、知らん。何せワシらはここを渡る、

 その事にだけ命を賭けとるんでな。

 別に向こうに言ってもやる事は無い。

 ただ、適当に公園で飛び跳ねて、

 またこちらへ跳んで帰って来るだけだ。」


オレは言いようの無い虚無感に襲われた。


初めての町、開かない踏切、バッタ転生した人達。

刻一刻と迫り来る始業時間に、俺は賭けに出た。


出来るかはわからない。

だけどこれしかもう、残されていない。

俺は呼吸を整えた。

そして、俺はついに—————








———跳んだ。




タイミングなんて知らない。跳び方も知らない。

だけどもう、これしか無い。



次の瞬間俺は、見事に電車に轢かれた。




・・・・・。




・・・・・。



目覚めた俺は妙な感覚に襲われた。


生きてる…。アレは、夢だったのか?


何にせよ、バッタ人間達と開かずの踏切。

もう2度と俺はあの町には帰りたく無い。

金はかかるが、もう一度引っ越そう。

線路を渡らなくて良い場所に。


「シャッ!!」


突然、緑色の鎌が俺に向かって振り下ろされる。


「わっ、危ない!!」

俺は咄嗟に避ける為に、跳ねた。



…………..。




跳ね、た?


・・どうやら俺は、バッタに転生したらしい。


今更もう驚かない。

だって俺はあの町に住む事が決まった時点で魅入られていたんだから。


「-跳べる側の存在-」として。


-fin.-


p.s 後日談;


数日後、俺はすっかりバッタとして生きていた。

草を喰み、天敵達から身を隠し逃げて、雨の日は草陰で過ごす。


そんなある日、虫網を持った子供に捕らえられた。

そうか、これもバッタの宿命か。

カゴの中は何匹ものバッタ達が捕らえられていた。

しかしある瞬間、一斉に跳んだ。

それは次のバッタを入れようとして蓋が開いた、

まさにその瞬間だった。


俺は思い出した。


あぁ、あの踏切の時と同じだ。

一瞬のチャンスに生死を賭ける。

これこそが自然界の最大法則だ。


俺は跳んだ。今度は捕まらない。


繰り返す運命から逃れるように、

俺は必死で跳ね続けた。



——その時だった。


視界の端で、鉄の光が走った。



俺は、








電車に轢かれた。




-bad end.-


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