第8話 条件
放課後の教室は静かだった。
ほとんどの生徒が帰り、窓の外から部活の声だけが聞こえる。
朝倉裕翔は席に座ったまま、ノートを開いていた。
二次関数。
今日の授業内容。
理解できている。
少し前なら考えられなかったことだ。
(……ほんとに変わってる)
ペンを置く。
スマホを取り出した。
REALITÉ。
黒いアイコンをタップする。
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STATUS。
INT:E+
変化なし。
昨日から上がっていない。
「……まあ、そんな簡単じゃないか」
そう呟いた瞬間。
画面が暗転した。
いつもと違う表示。
ノイズのような線が一瞬走る。
そして文字が現れた。
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評価基準を更新しました。
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裕翔は眉をひそめる。
「更新……?」
次の行が表示される。
⸻
REALITÉは現実行動のみを評価します。
非現実的利益取得行為を検出した場合、
ステータスは初期化されます。
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指が止まる。
「……初期化?」
意味を理解するまで数秒かかった。
初期化。
つまり――ゼロ。
今まで上がった数値が、全部。
画面が続けて表示する。
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法律・社会規範から著しく逸脱した行動は、
最適化対象外です。
違反行為は成長として記録されません。
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教室の静けさが急に重く感じた。
誰もいない。
なのに、見られている気がする。
「……なんで今それ出すんだよ」
独り言が小さく漏れる。
答えはない。
いつものように説明もない。
ただ、事実だけ。
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裕翔の頭に、ふと考えが浮かぶ。
(もし……)
例えば。
テストの答えを盗み見たら。
例えば。
ズルして結果だけ手に入れたら。
それでも数値は上がるのか――。
その疑問に、先回りするように。
画面が一行だけ追加された。
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結果のみの取得は評価されません。
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背中に小さな寒気が走る。
「……分かってるってこと?」
自分の考えを読まれたようなタイミング。
偶然かもしれない。
でも、偶然とは思えなかった。
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裕翔はスマホを伏せた。
教室の窓の外を見る。
夕焼け。
いつもと同じ景色。
なのに。
REALITÉはただ便利なアプリじゃない。
そうはっきり分かった。
これは――
選別している。
何を努力と呼ぶのかを。
何を成長と認めるのかを。
静かに。
絶対に。
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スマホが最後に一度だけ震えた。
表示。
最適化は公正性を前提とします。
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裕翔は小さく息を吐いた。
怖いわけじゃない。
けれど。
自由でもない気がした。
「……ちゃんとやれってことか」
誰に向けた言葉でもない。
机の上のノートを閉じる。
そして鞄に入れた。
帰り道、裕翔はいつもより少しだけ背筋を伸ばして歩いていた。
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