第6話 もう少しだけ
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。
裕翔は天井を見つめたまま、しばらく動かなかった。
昨日の夜。
数学の問題集。
気づけば一時間以上続けていた。
そんなこと、今までなかった。
(……なんだったんだろ)
体は重くない。
むしろ、頭がすっきりしている。
寝不足のはずなのに、不思議と眠気もない。
スマホを見る。
REALITÉのアイコンは、いつも通りそこにあった。
開こうとして――やめる。
「……先に準備するか」
自分でも少し驚く言葉だった。
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学校へ向かう電車の中。
いつもなら動画を見る時間。
けれど今日は、鞄から教科書を取り出していた。
(ちょっとだけ)
誰に見せるわけでもない言い訳を心の中で作る。
昨日やった範囲を開く。
数式を読む。
理解できる。
昨日ほどの驚きはない。
でも、確実に頭に入る。
ページをめくる。
気づけば、最寄り駅に着くまで読み続けていた。
「……もう着いたのか」
小さく呟く。
時間が短く感じた。
⸻
昼休み。
弁当を食べ終えたあと、裕翔は自然にノートを開いていた。
昨日の復習。
別にやらなくてもいい。
誰に言われたわけでもない。
それなのに手が止まらない。
(なんか……)
嫌じゃない。
むしろ、少し楽しい。
分からなかったものが分かる。
それだけで、続けられる。
そのとき、ふと気づく。
今まで勉強が嫌だった理由。
できないからじゃない。
分からなかったからだ。
理解できない時間が、ただ苦痛だった。
今は違う。
少し考えれば答えに近づく。
だから、続けられる。
スマホが微かに震えた。
REALITÉ。
画面を見る。
学習行動を記録しました。
INT最適化:継続中
それだけ。
評価も、褒め言葉もない。
ただ記録。
裕翔は画面を閉じた。
前みたいに驚きはしない。
代わりに、静かな確信があった。
(……これ、本物だ)
誰にも言えない事実。
でも、自分だけは知っている。
少しだけ変わった日常。
その変化は、思っていたより静かで。
そして、思っていたより自然だった。
ノートにもう一行、式を書く。
裕翔は気づかない。
“勉強しよう”と思わなくなっていることに。
ただ、続きをやりたくなっていることに。
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