表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3話 気のせいじゃない

 七秒九。


 その数字が、頭から離れなかった。


 体育のあと、教室へ戻る途中も、裕翔は何度も自分の足を見下ろしていた。


(いや、たまたまだろ)


 一回速く走れただけ。


 風向きとか、タイミングとか、そういう偶然はいくらでもある。


 そう結論づけようとして――できなかった。


 ポケットの中のスマホが気になる。



 昼休み。


 弁当を半分ほど食べたところで、裕翔はスマホを取り出した。


 周囲はいつもの雑談。


 誰もこちらを見ていない。


 REALITÉを開く。


 黒い画面。


 すぐに表示が切り替わる。


 記録更新。


 画面下部に、新しい項目が増えていた。


 運動記録:保存済み

 短距離運動を確認


「……」


 指が止まる。


 説明は相変わらずない。


 ただ、事実だけが並んでいる。


 さらに下へスクロール。


 AGI:E → E+


「上がってる……?」


 思わず小さく呟いた。


 周囲の笑い声にかき消される。


 心臓だけが少し速くなる。


(いやいやいや)


 ゲームじゃない。


 ステータスなんて現実にあるわけがない。


 けれど。


 タイムは確かに変わった。



 放課後。


 裕翔は遠回りして帰ることにした。


 理由は自分でも分かっている。


(試すだけ)


 ただの確認。


 それだけ。


 公園の前で立ち止まる。


 誰もいない。


 ランドセルの小学生が遠くを歩いているだけだった。


 深呼吸。


「……よし」


 軽く前傾姿勢を取る。


 スタートの真似。


 誰も見ていないのに、少し恥ずかしい。


 地面を蹴る。


 走り出す。


 一歩目。


 二歩目。


 昨日と同じ感覚。


 体が前へ進む。


 重さがない。


(速い……気がする)


 全力ではない。


 それでも足が自然に動く。


 息が乱れないまま、数十メートル走って止まった。


 膝に手をつく。


 呼吸は落ち着いている。


「……なんで」


 怖い、というより。


 理解できない。


 ポケットの中でスマホが震えた。


 取り出す。


 画面には通知。


 行動を記録しました。


 短距離運動:反映


 その下に、小さな文字。


 最適化を継続します。


 裕翔はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。


 夕方の風が吹く。


 現実はいつも通りなのに。


 何かだけが、確実に変わり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ