表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第2話 記録された朝

 目が覚めた瞬間、少しだけ違和感があった。


 天井を見上げたまま、裕翔は瞬きをする。


 いつもと同じ朝。

 同じ部屋。

 同じ目覚ましの音。


 なのに、体が妙に軽い。


(……寝すぎた?)


 上半身を起こす。


 筋肉痛が来るはずだった。


 昨日は体育で走ったばかりだ。いつもなら太ももが重くて、立ち上がるのも少し嫌になる。


 けれど今日は違った。


 痛みがない。


 むしろ、動きやすい。


 ベッドから降りる動作がやけに自然で、思わず足を止める。


「……気のせいか」


 小さく呟いて、制服に着替える。


 昨夜のことを思い出しかけて、考えるのをやめた。


 あのアプリ。


 REALITÉ。


 夢だった可能性だってある。


 スマホを見るのは、なんとなく後回しにした。



 登校途中。


 駅までの坂道を歩きながら、また違和感に気づく。


 息が上がらない。


 いつもなら途中で呼吸が少し乱れるのに、今日は余裕がある。


(体調いいだけだろ)


 自分に言い聞かせる。


 そういう日もある。


 たぶん。



 教室に入ると、いつも通りの朝だった。


 友達同士の会話。

 スマホをいじる音。

 先生を待つざわついた空気。


 誰も自分を見ていない。


 それが少しだけ安心する。


 席に座り、ようやくスマホを取り出した。


 画面を点ける。


 ホーム画面。


 そして――昨日見たはずのないアイコンが、やはりそこにあった。


 白い四角。小さな「R」。


 REALITÉ。


 指が止まる。


 少し迷ってから、開いた。


 黒い画面。


 すぐに文字が表示される。


 記録を更新しました。


 昨日時点のステータスが並ぶ。


 STR:E

 AGI:E

 INT:?

 SOC:?


 変わっていない。


 ほっとしたような、がっかりしたような気持ちになる。


 下へスクロールする。


 本日の状態。


 小さな文字が追加されていた。


 回復効率:上昇

 身体負荷回復を確認


「……なにそれ」


 思わず小声が漏れる。


 説明はない。


 理由も書かれていない。


 ただ、記録だけが増えている。



 三時間目、体育。


「今日もう一本測るぞー」


 先生の声に、クラスがざわついた。


「えーまたー?」


「だる……」


 文句を言いながらも、みんな並び始める。


 裕翔も列の最後へ向かった。


(別に変わるわけない)


 昨日と同じ。


 結果も同じ。


 そう思いながらスタートラインに立つ。


「よーい」


 軽く前傾姿勢を取る。


 地面に触れた指先が、不思議と安定していた。


「――ドン!」


 走り出す。


 一歩目。


 いつもより足が前に出た気がした。


 二歩、三歩。


 体が軽い。


 風の抜け方が違う。


(……あれ?)


 ゴールが近づく。


 呼吸は乱れていない。


 そのまま走り切った。


「……お?」


 先生がストップウォッチを見直す。


「ちょっと速くなってるな」


 記録係が読み上げる。


「七秒九!」


 小さなどよめき。


「まじ?」


「昨日より速くね?」


 周囲の声が遠く聞こえる。


 裕翔は動けなかった。


(……なんで?)


 偶然?


 体調?


 それとも――。


 ポケットの中で、スマホがわずかに震えた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ