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第1話 変わらない記録

 俺の能力値は、ある日突然、数値として表示されるようになった。


 筋力。

 敏捷性。

 知力。

 そして――現実の行動で、少しずつ上がっていくステータス。


 最初は、ただのバグだと思った。


 けれど、その始まりは、どこにでもある一日だった。



 スタートラインに立った瞬間、もう結果は分かっていた。


「よーい」


 白線の向こう側。

 ゴールまでたった五十メートル。


 短いはずなのに、やけに遠く見える。


「――ドン!」


 地面を蹴る。


 足は動いている。

 腕も振っている。

 ちゃんと走っている感覚はある。


 けれど、前の背中は少しずつ離れていく。


 抜かされもしないし、追いつきもしない。


 いつも通りの位置。


 真ん中より、少し後ろ。


 ゴールテープを切る頃には、もう誰も見ていなかった。


「はい次ー」


 先生の声は淡々としている。


 記録係の生徒がタイムを読み上げた。


「……八秒四」


 特に反応はない。


 遅すぎるわけでもない。

 速くもない。


 クラスの会話はもう次の走者に移っていた。


 裕翔は軽く息を整えながら列の後ろへ戻った。


(まあ、こんなもんか)


 悔しいわけでもない。


 頑張っていないわけでもない。


 ただ、変わらない。


 それだけだった。


 夜。


 部屋の電気を消しても、なかなか眠れなかった。


 体育の疲れが残っているはずなのに、目だけが冴えている。


 スマホを手に取る。


 特に見るものもないまま、指だけが画面を滑った。


 SNS。動画。ニュース。


 どれも途中で閉じる。


 時計は午前一時を過ぎていた。


 戻ろうとして、ふと手が止まる。


 ホーム画面の端。


 見覚えのないアイコンが一つ増えていた。


 白い四角。

 中央に、小さな「R」。


(……こんなの、入れたっけ)


 長押しする。


 震えない。削除表示も出ない。


 最初からそこにあったみたいに、動かない。


 少し迷ってから、裕翔は指でタップした。


 画面が黒に変わる。


 音は鳴らない。

 ロゴもない。


 ただ文字だけが表示された。


 REALITÉ v1.00

 初期同期中…


 点滅もしない文字。


 進行バーもない。


 数秒なのか、もっと長かったのか分からない沈黙。


 思わず電源を切ろうとした瞬間、表示が切り替わった。


 同期完了

 USER CONFIRMED

 裕翔


「……は?」


 ログインなんてしていない。


 会員登録もしていない。


 それなのに、自分の名前が表示されている。


 次の画面。


 白い背景に、文字が並ぶ。


 STATUS


 STR:E

 AGI:E

 INT:?

 SOC:?


 意味が分からない。


 ゲーム、なのか?


 スクロールする。


 身体データ

 身長:168.2cm

 体重:58.9kg


 正確すぎた。


 心臓が少しだけ速くなる。


 さらに下へ。


 本日の活動を記録しました。


 一行だけ追加される。


 走行活動を検出

 AGI +0.02


 裕翔は画面を見つめたまま固まった。


(……体育?)


 今日、走ったから?


 偶然だろう。


 そう思いながらも、指が離れない。


 しばらくして、スマホの画面が暗くなった。


 部屋はまた静かになる。


 天井を見上げる。


 眠気は来ない。


 胸の奥に、小さな違和感だけが残っていた。


(……なんだよ、これ)


 スマホを伏せる。


 けれど、その夜。


 裕翔はなかなか眠ることができなかった。

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