第4幕 僕の選択だ
雨の気配で目が覚めた。
「おはよう。日曜日、6時33分。午前中は雨だけどお昼にはやむ予報だよ」
いつもの声に安心感する。
「おはよう、ラッキー」
「昨夜、ハナからメッセージが届いてる。読み上げようか?」
いつもと違う言葉に瞬時に目が覚める。
「いや、自分で見るよ」
身体を起こすと、急いでヘッドセットを着け、メッセージを開いた。
無題
店長にアドレス聞きました
昨日はほんとゴメン
言いすぎたと思う
AIのこととかエトロフのこととか
悪く言うつもりじゃなかったの
私わがままだから…
ごめんね
またお店来てね
短い文面なのに、胸のどこかが強くざわつく。
怒っているわけでも、悲しいわけでもない。
ただ、胸の奥が落ち着かない。
仮想キーボードを出し、迷いながらも返信を打つ。
**ハナへ**
今メッセージを見たところです。
一昨日のことだけど――僕にも悪いところがあったと思う。
君がAIをどう感じているのか、少し分かった気がする。嫌いって感情に理由なんて必要ないと思う。
それに、本当に憎んでいるわけじゃないってことも伝わってる。
僕もあれからいろいろ考えたんだ。
もしよかったら、また話がしたい。
ヒロより
送信。
「ラッキー、コーヒーお願い。あと、メッセージに既読ついたら教えて」
「彼女はメールシステムを使ってるから、既読は分からないよ」
「メールシステムって何だよ……」
額を押さえつつ、思いつくままに言った。
「ダン先輩につないで」
ダンなら、ハナの連絡先を知っているかもしれない。
「ヒロ、落ち着いて。ただのメッセージだ。今日は日曜なんだし、明日お店に行けば――」
「分かってるけど……今じゃなきゃダメなんだ。つないでくれ」
ラッキーは少しだけ間を置いたが、連絡を使いでくれる。
そして、長い呼び出しのあと通話が繋がる。
『おいおい、何時だと思ってんだよ。俺が昨日――』
「すみませんダン先輩。ハナの連絡先って分かりますか? 教えてほしいんです!」
ダンの言葉を遮ってしまう。
『お前ら仲直りしたのか?まあいいけど』
「ありがとうございます。その仲直りのために、お願いしたいんです」
『ちょっと待てよ……あーすまん。本人の承認がないと個人情報は送れないってよ』
「なんとかなりませんか」
沈黙のあと、ダンが呟く。
『……あ、ハナからは紙の履歴書を貰ってる。お前が勝手に見るぶんにはコッチは関係ない。店にあるから見に来い。ただし、他の子のは見るなよ?』
「ありがとうございます、すぐ行きます!」
通話を切ると、すぐに着替え、自転車を肩に担いだ。
「待つんだヒロ、外は雨だよ。転倒のリスクも高い、なぜ今行くんだ」
「意味なんて僕にも分からない。でも、行かなきゃいけないんだ」
そうだ、ハナに会って話したいんだ。
「ヒロ――」
「ごめんラッキー、僕の選択だ」
ラッキーはなにも言わなかった。
雨の中、自転車を必死に走らせ、Dan’s Bar に到着する。
「ラッキー、先輩につないで」
『お前……本当に来たのか。すぐ店のカギ開ける。
カウンター下の収納、右から三番目か四番目だ。確か青いファイルに入ってる』
「ありがとうございます。出るとき連絡します」
店に入り、薄暗い空気の中カウンターの裏に回る。
先週、ハナがここで笑っていた姿が一瞬よみがえる。
戸棚を開き、プラスチックファイルを一冊ずつ確認する。
伝票、伝票、在庫表……そして――
「あった……」
日本語の履歴書。
貼られた写真は、少し緊張して、でも誇らしげな表情をしている。
「ラッキー……写真、撮って。ごめん、本当に」
これは犯罪だ。
自分の手が少し震えている。
しかし、ラッキーは何も言わず、ただデータを保存してくれる。
すぐに、視界にハナの家までの経路が浮かび上がる。
「ありがとうラッキー」
ヒロは店を飛び出すと、またペダルを踏み出した。




