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幕前 やさしさに包まれたなら

 本日は本書を手に取っていただき、ありがとうございます。

 ここに描かれるのは、優しいAIと共に生きる小さな国・エトロフを舞台にした、

“少し不思議な現代”の物語です。


 どうか、ほんのひととき、

 その世界の空気を楽しんでいただければ幸いです。

 ソファの上で、ヒロはゆっくりと目を覚ました。

 顔をしかめ、つぶやく。


「あいたたた……」


 二日酔いの鈍い痛みと、変な姿勢で寝たせいで首筋が固まっている。


 そのとき、柔らかい声が部屋に響いた。


「おはようヒロ。日曜日、8時25分。天気は晴れ。いつもより一時間遅いよ」


 個人AI・ラッキーの穏やかな声は、朝の空気に自然と溶け込む。


 ヒロは大きなあくびをひとつして応じた。

「おはよう、ラッキー」


 身体を起こした途端、世界がひとまわり揺れる。

 まだアルコールが体内に残っている。


「昨日の睡眠スコアは54点。あと、寝るならベッドがおすすめだ。」


 少しだけ心配を含んだラッキーの声。

 ドリンクサーバーから漂う、温かく香ばしい香りが部屋を満たしていく。


 ヒロはゆっくりと立ち上がり、マグカップを手に取った。


「お腹減ってないんだけど」


「ダメダメ、ちゃんと食べないと。平日はグミばかりじゃないか。

 冷蔵庫の食材で、ハムエッグとトマトサラダが作れそうだよ」


 ヒロは笑いながらコーヒーをひと口。

 熱が胸に広がり、ようやく視界がはっきりしてくる。


 ヘッドセットを装着すると、ラッキーの声は骨伝導に切り替わり、

 視界には、ARの淡い表示が重なる。

 ヒロにとっての“本来の世界”が戻ってきた。


 カーテンを開けると、赤レンガの街並みが柔らかな光を受けている。

 郵便配達の小さなEVが静かに滑っていき、

 やさしい朝がゆっくりと動き始めていた。



 シャツのボタンを留めながら、ヒロは昨夜の記憶の端を探った。


「そういえばラッキー。昨日の……彼女の名前、聞いてなかったっけ?」


「彼女って、ダンの店の人?」


「そう。その彼女」


「ハナだよ」


 ハナ。

 確かに、そんな名前だった。


「ほかに何か言ってた?」


「別にないよ。

 ヒロが覚えていないなら、それが全部だと思う」


 いつもと変わらず滑らかな声。

 けれどヒロには、どこか低く感じられた。

 二日酔いのせいかもしれない。


 冷蔵庫を開けると、食材に鮮度や量のAR表示が浮かび上がる。

 ヒロは材料を取り出した。


「休日だし、朝食でも作るか。ラッキー、手伝って」


「もちろん。レシピを表示するね」


 淡い光が浮かび、キッチンの空気がやさしく色づく。

 やさしいAIとともに暮らすこの国-エトロフ-で、

 どこにでもある、普通の物語が幕を開けます。


 一緒に、この世界の空気に触れてみてください。

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