SS第7話『彼女たちの大切な思いと想い』
※この話は作品のネタバレが含まれているため、最低でも本編第30話『杞憂で終わってほしいとただ願う』を先にご一読いただくことを強く推奨します。
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リーゼとアリシアは昼休み時間、スレンに呼ばれて医務室へ到着。
カザック学園長から事情の説明を受け、スレンから事態を引き起こした人物の正体を耳にした。
そして、彼がどこにいるのかちょうど心当たりのあるリーゼが先導し、廊下を掛けたい気持ちを抑えて目的地へと向かっている。
「絶対に許せない」
リーゼは怒りを滲ませ、一歩一歩に力が入ってしまう。
「あまりにも自分が不甲斐ないわ」
アリシアは、拳に力を込めながら歯を食いしばる。
なんせ、彼女たちと言葉を交わしてすぐのことだったため、罪悪感を抱かずにはいられない。
「それにしても、ちょうどよすぎる話ね」
「何かあることは明白。アキトの件も最初から流れに含まれていた、と」
「でも少し驚いたわ。リーゼがわたしよりも積極的に動くなんて」
「私の方こそ驚いているわよ。取り乱して暴走すると思っていたけど、思っていた以上に静かなんだもん」
「これでも必死に怒りを抑えているのよ」
現にアリシアは、拳に入った力が抜けることはなく、壁などに感情をぶつけていいと許可が出たのなら迷わずやってしまう状況。
こうして廊下を歩いている今も、走っていい許可が出たら――もはや窓や壁をぶち壊して外へ出るだろう。
「私は、アキトに放った言葉の重さを忘れない。本人がアリシアの言う通り気にしていないのだとしても、謝意と誠意を行動で示したいと思っているの」
「くよくようじうじたらたらうだうだ、していた少し前から変わったのね」
「随分と気に障る言い方をしてくれるじゃない。間違ってはいないから反論はしないけど。でも本当にそうよね、本当に。もっと早く決断できていたら、こんなことにはなっていなかったかもしれない」
「前半は肯定するけど、後半は否定するわ。たぶん、どんな道を辿ってもアキトは反撃せずああなっていたわよ」
アリシアの言葉に衝撃を受けたリーゼは、つい足を止めてしまい、アリシアも数歩進んで足を止めて振り返った。
「どういうこと?」
「魔法での戦闘だったら、どうやってもアキトが負ける未来は訪れない。でも、今回は打撃によるもの、とスレンが観測結果を言っていたでしょう?」
「ええ」
「予想でしかないけど、アキトは売られた喧嘩はそのまま買う性分だと思うの。それに、あなたが関係しているのならなおさら」
「私が……?」
「ええ」
立ち止まっている時間が惜しいと感じたアリシアは足を進め、リーゼも小走りで追いついてから肩を並べて歩き出す。
「きっと、今まで人の優しさというものに触れた機会がなかったのだと思うの。そして自分に厳しく、ただ必死に生きてきた」
「……」
「あなたの方が先に聞いたのだから、それはわかるでしょう」
「そうね……」
「でもだからこそ、他人に対して誰よりも優しいのだと思うわ」
リーゼは思い出す、強引に誘ったデートで見せたアキトの姿を。
彼は年相応の楽しみを知らず、誰もが口にしたことがあると思っていた食べ物でさえ初めての様子だった。
誰かに頼るような素振りを見せず、全てを自分だけで済ませようとしており、視線を集める自分よりも常に周りを警戒している様子も。
それが意味するのは、全てを語られるよりも簡単に把握できる。
学園で生活している生徒では誰も想像ができないような、残酷な人生と過酷な環境で生活していた、という事実をすぐ悟ってしまうほどに。
「いや……全てが優しさではないのでしょう。推測の域を出ないけれど、裏切りの連続や悪意に触れ続けた結果、良好な人間関係を半ば諦めてしまっているのかもしれない」
「……たしかに、そんな心の傷を抱えているのかもしれないわね」
「だからこそわたしは、実力じゃないところまで含めて生涯を共にする覚悟を持っているわ。これから対面するであろう人を躊躇なくぶん殴るぐらい」
「どんな地位の人間が相手でも、関係ないのね」
「ええ。どんなことになろうとも、主であるアキトの隣に居続けるわ」
リーゼは正直、アリシアがそこまでアキトに入れ込んでいるとは思っていなかったから、その過激な発言に衝撃を受けている。
しかも一切の迷いなく話の流れで、「生涯を共にする」や「相手が誰であろうとぶん殴る」と言い切っていたこと。
家系的に恋愛などしたことがないことは簡単に予想ができ、自分と写し鏡のような友の決意に感銘を受けた。
「――そうね、私もちゃんと覚悟を決めないとね」
「あなたはわたしと違うのだから、ちゃんと後先を考えなさいよ」
「さすがに好き放題するつもりはないけど、ハッキリと全てを断ったうえで、拳をねじり込むわ」
「いつもあなたは諸々のことを考えていそうで、随分と大胆なことをやるわよね。昔から」
「一国の姫だろうと、私は私だもの。政治の道具としてではなく、1人の人間として向き合ってくれる人のために戦うわ。そして、想いと信念を貫くの」
「本当、あなたもあの国のお姫様よ。血は争えないとやつね」
「アリシアだって、家訓に従っているじゃない」
そうこうしていると長い廊下が終わり、ようやく外へ出ることができた。
「どっちもどっちということね」
「そうね、認めるわ」
「しっかりと追ってきてね」
「いいから行くわよ」
「はいはい」
リーゼとアリシアは、それぞれの重いと想いを胸に目的地へ駆け出した。




