SS第5話『友人からの期待に応えるため』
※この話は作品のネタバレが含まれているため、最低でも本編第26話『常日頃から鍛錬を怠ることはなく』を先にご一読いただくことを強く推奨します。
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スレンは、友人からの無茶な要望に頭を悩ませつつ、実技の授業中を活かして練習することを決めた。
(さすがに今日だけで完成はできないだろうけど、せめてかたちだけでも)
偶然にも前半と後半で区分けされており、前半はほぼ自習となっていた。
実技の教師が巡回して、他の生徒は各々自由に魔法を使用するだけなのだが……。
「……少し離れようかな」
雷がバチバチに地面を軽く抉ったり、目を細めるほど眩しい光で体の一部を覆ったり――と、生徒同士が互いに干渉し合いそうな状況が展開し始めた。
良く言えば実技に対する意欲が垣間見えるが、悪く言えば自己中心的な行動が目立っている。
(もしもアキトだったら誰かに影響を及ぼすことなく、精密かつ繊細な魔力操作の練習をするだろうに)
木々に囲まれる、円形にできた実習場所の端まで移動。
アキトが先ほど依頼してきた風の移動補助魔法を練習しようと、あの魔力操作の正確さを思い出すと。
(いや、アリシアさんが常に傍から離れないから、実技の授業は静かな環境で練習することはできないだろうね)
容易に想像できる状況にクスッと笑みを浮かべ、スレンは実践を始める。
まず第1段階として、体に風邪をまとわせながら移動を可能にしなければならない。
移動の補助にも種類が存在していて、瞬発的なものであれば、背中を勢いよく押し出すようにすればいい。
飛び跳ねるときの足元に、というものもあるが、アキトが要求してきたものはほぼ最上位に位置する移動補助魔法。
完璧に習得することは、スレンの現状だと厳しい――いや、無理でしかないからこそ工程を分解して練習を開始する。
「こう――こう――こう――」
体に風邪をまとわせ、1歩前へ。
しかし思うようにいかず、円形状に出現させた風にぶつかってしまい消えてしまう。
1歩、また1歩と移動を試みるも、風を切り続けてしまい補助の『ほ』の字すら出てこない始末。
「これ、難しすぎる」
何度も何度も繰り返すスレン。
だがそもそもの話、魔装士の得意分野とはかけ離れている魔法技術である。
回復や補助に関しては、魔援士が得意とするものであり、魔装士が得意なのは精密な魔力操作によって魔装具を生成すること。
支援と作成は正反対にもほどがあった。
(でも、アキトはボクを頼ってくれた。なら、その気持ちに応えたい)
想像を絶する努力と鍛錬を重ね続けてきたであろう、アキトがいとも簡単にやって見せた魔力操作を思い出す。
どうやっても再現できない代物であり、目指す先ではないことを理解しつつ『何か得られるものがあるのでは』と思うスレン。
(あの透明な線。そもそもの話、欠落者であるアキトはどうやって出現させているのだろうか)
欠落者であるアキトは、該当者であれば魔法士を諦めるぐらいの性質である。
本人も言っていたが、だからこそゴーレムを召喚する魔法士に欠落者が多い。
なんせ、ゴーレムには属性を付与されていなくても利用価値があるし、今や他人から属性付与を施すことが可能でもあるから。
しかしアキトは、自身は人一倍魔力の吸収・変換・操作が不得意であったとも言っていた。
だからこそ体を容器と見立て、魔力を圧縮して吸収からの保存をしているのだと。
「でも……」
スレンは思考を巡らせる。
魔法を発現する場合、アキトは体内の黒い魔力を若干放出し、漂う他の魔力を巻き込むと言っていた。
しかし、魔力操作の練習として行っていたのは透明な魔力。
であれば、濃密なあの線は体内の魔力を使用していない、ということになる。
であれば。
(もしかして、意図的に少量しか扱えない魔力を吸収し続け、圧縮し続けて出現させている……?)
スレンは、自身も試した魔力の貯蓄を思い出し吐き気に襲われ、咄嗟に口元を押さえた。
(あの苦しみを味わいながら、貯蓄と並行して変換も行っている……ということだよね。ありえな――くはないのだろう)
そこまで理解してしまうと、アキトが冗談で「人間を辞めているかも」という笑い話が信ぴょう性を帯びてきてしまう。
しかし同時に、気付きを得る。
(風で体を囲うよりも、背中から押し出すようにして――フワッとした大きさより、凝縮すれば……)
その使用方法は、これといって珍しいわけではない。
しかし風を圧縮するような使い方は、使用者より付与された人の身体能力に依存してしまう。
それは現代の魔法士が持つ体力を基準に考えると、あまりにも不適切な使用方法である。
(怪我をしている人たちや体力がない人たちには合わないけど――あの2人になら)
スレンは残念ながらアキトほどリーゼとアリシアの情報を持ち合わせていない。
しかし常に上を目指し続け、希望を託す意味も込め状況を限定することに決めた。
(どちらにしても、今のボクが期待に応えるなら――これしかない)
即席で間に合わせだとは理解しつつも、スレンは期待という名の課題へ取り組み始める。
(これなら吐き気を催すこともないし、できそうだ……!)
ただ友の期待に応えるために。




