SS第3話『盾聖女が抱いた疑問と好奇心』
※この話は作品のネタバレが含まれているため、最低でも本編第7話『ご令嬢騎士が約束通りにと急接近』を先にご一読いただくことを強く推奨します。
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ネルダカーミル・スレイ・アリシアは、平凡な退屈な時間を過ごすことに飽き飽きしながら寮の廊下を歩いていた。
「……」
学園生活が始まり、運がよく1人部屋であることから気が緩まる時間はあっても、1歩外に出たら誰かの目線を浴び、常に期待される。
有名な魔騎士の家系であり、【盾の聖女】と揶揄され、整った容姿と優れた成績を持つ令嬢を。
実家から通うことができていた、幼・小・中学園のときは思う存分体を動かすことができ、人前で鍛錬を行うことでさえ誰に指導されることもなかった。
だが年齢を重ねていくにつれて鍛錬の時間を減らされ、礼儀作法や立ち振る舞いを指導される時間が増え、今では体力作りすらも制限されてしまうほどに。
「はぁ……」
アリシアは辺りに誰も居ないことを確認し、叫んで盛大に吐き出したい鬱憤を極限まで小さく抑える。
(何が『運命の主を射止めるため』よ。運命の人と出会えたとしても、実力が伴っていなければ見捨てられるのはこっちじゃない)
1人部屋ということを利用して、密かに寮の部屋で素振りだけは続けているものの、やはり運動量の低下は否めず。
しかし、学習も怠ってはいけない事実も壁となって阻んでおり、監視の目はなくても外へ繰り出せずにいた。
(でも……あのとき感じた鼓動の意味を知りたい。今すぐ男子寮に行ってしまおうかしら)
アキトを始めて見たあの瞬間、アリシアは人生初の経験をしていた。
緊張や怒りではなく、違和感や警戒心でもない、言葉では表せられないような衝撃が走ったのだ。
アリシアは声をかけるまでの間、ずっと自己分析をしていた。
もしかしたら自身が今まで経験してこなかった感情と言えば、恋愛感情、であればアキトに一目惚れしたことになる。
しかしそうであれば、直接言葉を交わせば頬や体が火照ったり言葉が詰まるはず――という結論の元、アキトに声をかけた。
結果、いつも通りに話を進めることはできたし、体に異常を感じられなかった――まるで本能から感じ取ったような衝撃を除いては。
(今も、こうしてアキトのことが頭から離れないのだから、自覚していないだけで本当に恋をしてしまったのかしら?)
そんなこんなしていると、気が付けば外へ出ていた。
(さすがに朝の時間で行っても、誰かに絡まれて面倒なことになるだけよね。ただでさえ女子寮でもそうなのだから)
純粋に交友関係を築こうとする、同年代の少なさ差は既に慣れ始めたものの、やはりいちいち対応するのは億劫だと感じている。
それが同性なら気品ある対応をすれば済むが、男子からは下心丸出しの人も混ざっていたり、告白やデートの誘いを丁重に断るイベントも追加されてしまう。
興味もなければ実力もない人とかかわる時間の無駄さを、アリシアは実家で嫌でも教えられており、当の本人も心の底から肯定している。
だからこそ朝の時間は、できるだけ人が少ない時間に寮を出ているのだ。
(そうだ、そうよね。いいことを思いついたわ)
アリシアは、リーゼの存在を思い出す。
(少しでも遅れたら、またリーゼに横取りされる可能性を踏まえて先回りしなくちゃ)
既に約束をしているものの、大胆かつ言い逃れをされないような手段を決行すべく、アリシアは教室へと足を進め始めた。
教室に到着したアリシアは、自席に鞄を置き、一切の迷いなくアキトの席へ向かい――腰を下ろす。
(後は待つだけね。ふふっ、どんな驚きの表情を見ることができるのか楽しみね)
悪巧みを行動に移すアリシアは、純粋に楽しんでいた。
今回のように、当人が居ない状況で席に座る行為は珍しくはない。
友人と話をする際、昼休憩時に昼食を摂る際、授業で席を移動する際――等々。
しかし例外も存在する。
人気の高い生徒が他人の席に座ろうものなら、制服に付与されている効果から何も残らずとも、次を欲する人が続々と現れる。
当然、アリシアは該当人物であることから、誰かが現在の光景を目の当たりにしたら驚愕するのは必至。
(後どれぐらいでくるのかしら)
1人、また1人と教室に入ってくるクラスメイト。
例外なく全員が驚愕を露にしているが、アリシアは全く気にしていない。
なんなら、挨拶をされたら通常通りに手を振りつつ微笑みながら返し続ける。
違和感でしかない光景に、全員が混乱しているとはつゆ知らずに。
(彼の驚いた顔も楽しみだけれど、もう1つ大事なことがあるわね)
そう、警戒しなければならない相手に対してのけん制を。
そしてちょうどよくリーゼが教室の中に入ってくると、赤髪の少女は予想通りに目線をこちらへ向けてきた。
(やはりそうね。わたくしが先回りしていなかったら、今日も彼に話しかけるつもりだったのでしょう? そうはさせないわよ。先に約束したのはわたくしなのだから)
さすがのリーゼも状況が飲み込めず、立ち尽くしてしまう。
それに追い打ちをかけるように、物凄くわざとらしく優しく笑みを浮かべて小さく手を振った。
(あなたは、黙ってわたくしたちの行く末を見守っていなさい)
完璧ではないものの意図を汲み取ったリーゼは、眉間に皺を寄せてプイッと顔を背けて自席へと向かっていった。
(ふふっ、これで――あ、きたきた)
目と目を合わせつつも、躊躇わず足を進めるアキトはアリシアの元まで到着。
「えっと、僕に何か用事でも?」
「おはようアキトくん」
再び邂逅を果たした2人は、教室の中ではあまりにも異質なものであった。




