第26話『常日頃から鍛錬を怠ることはなく』
アーティファクトと初代七魔聖であり最強の魔法士【アルネス・ノーマファス】は、切っても切り離せない関係にある。
と、学園長から話題を出された内容について、少ない記憶を遡ってみる。
「アーティファクトかぁ」
「急にどうしたの?」
学園生活5日目の朝トレーニング。
今日も今日とて、軽い運動からジョギングを経て筋トレが終了。
小休憩をしている最中、座りながら空を見上げていたら、つい思っていることが言葉に出てしまった。
「アーティファクトの起源は知っているけど、それ以外がほとんど知らないなって。各国で保護されていて、警備にいろんな権力者や実力者が携わっている――ぐらいしか知識としてない」
「まあでも、そんなものじゃない? そういうのって、これから学んでいくわけだし」
「それはたしかに」
「もしかしてだけど、アーティファクトと力比べしてみたいって思ってる?」
「スレンは凄いな。もう僕の思考が読めるようになったんだ」
「目指す場所が場所だし、ここ数日でとんでもないものを見せられているからね。おかげで楽しい毎日だけど」
半笑いで答えているけど、スレンは本当に凄い。
普段から鍛錬に勤しんでいるのは最初の説明でわかっていたけど、僕がやっている慣れないトレーニングに早くも順応している。
やはり、体力と筋肉は裏切らないということだな。
そして僕が呟いた頃には、いつもの魔力操作練習を始めていたし、今も話をしながら魔力操作を止めていない。
僕に感化されたとは言っていたけど、どう考えたって本人の資質以外の何物でもない。
僕も出遅れて透明な線を出し、捻じ曲げたり束ねたりする。
「でも技術書には、アーティファクトには3種類あって。1つは伝説の【アルネス・ノーマファス】が直々に作成したもの。2つ目は初代七魔聖がそれぞれ作成したもの。3つ目は歴代七魔聖が作成したもの」
「僕はどのアーティファクトでもいい。ぜひとも力を目の当たりにしたいんだ」
「もしも学園でアーティファクト所持者が暴れたとしたら、どうなっちゃうんだろうね。アキトが力比べするぐらいしか解決策が浮かばないや」
「任せてもらえるなら、とことんぶつかり合いたい」
冗談ではなく、自分の力がどれほど通用するのかを試したい。
そしてアーティファクト以上の力を示さなければ、史上最強には届かないし、もしも七魔聖になれた日に胸を張れないから。
あとは、どうせ敵対するような七魔聖から、遅かれ早かれアーティファクトを上回れるのか試されるだろうし。
「もしもの話だけどさ」
「それって心の準備が必要そうな話?」
「いろんな意味で心の準備は必要かもしれない」
「不穏な言い方やめてよ」
「まああれだ。もしも僕が本気を出す場面が来たら、あの2人を全力で逃がしてほしいんだ」
「どういう状況なのか想像できないけど、わかったよ。ボクにできる限りを尽くすよ」
「2人と面識があって、風魔法を練習しているからでもある。あとは何よりも体力がある」
スレンは「意図が読めない理由だね」と軽く笑うけど、大切な理由なんだ。
「まだ見せていないし、ここで見せることはできない本気の状態は、発現させる魔法を完全に制御できないんだ」
「でもここで見せてくれた、あの魔法は完璧に制御できていたよね?」
「そこに関してはその通り。上手く伝わるかわからないけど、炎で言ったら辺り一帯が火の海になるか黒い塵が焦げ跡しか残らない」
「……なるほど、少しだけ理解できた。あの黒い魔力に関係していることで、あれを全力で使うってことなんだね」
「本当、理解が凄いな。じゃあ、求めている風魔法の使い方も予想はできているんじゃないか?」
「走ることを補助する魔法ってことだよね」
「ああ、その通り」
スレンには、偏見とか固定観念というものが存在していないのだろうか。
いや、今の僕が別の視点からスレンを見てしまっているのかもしれない。
目まぐるしくことが起きて忘れていたけど、この学園に入学できているそれだけで何かしらの秀でた才能を持っているか、強力な後ろ盾があるということだ。
スレンは自分で実力がない、と言っていただけで、そもそもスレンの実力を目の当たりにしたことはない。
それに、入学してまだ日が浅いというのに知識量は凄いし、理解力や吸収力は本当に凄いし、終わりの見えない鍛錬を僕が来る前から自分から行っていた。
本当、今までの人生が全部嘘だったかのように、周りの人間に恵まれてしまっているな。
「じゃあこういうのはどうかな。状況開始は戦闘が激化すればわかるとして、撤退完了の合図は2人にやってもらうっていうのは。こう――魔法を空に向かって飛ばしてもらう感じに」
「たしかにそれはいい。光魔法の真似事みたいな感じか。狼煙とも言えるか」
「そうそう、そういう感じ」
「提案助かる。こっちから話を振っておいて、そこをどうしようか思いついていなかったんだ」
「アキトってさ、頭の回転が速いし機転も利いて、行動力があって忍耐力も尋常じゃないのに――なんか抜けてるよね。最後は強引でもやってやるぜ精神っていうの?」
「褒められているのか貶されているのかわからないな」
「でもその通りでしょ? 予想しよう。学園の試験を受けようと思った最初の理由は、『学園へ通わなくてもいいけど利点があったから受験するか』ぐらいしか考えてなかったんじゃない?」
「おいおいおい。心の中が読める特殊能力でも持ってるのか?」
いや本当に、スレンのことが少しだけ怖くなってきたもん。
それに、こうして話を進めて頭を使っているはずなのに早速移動補助魔法の試行錯誤を始めているし。
魔法で体を少しだけ浮かそうとしてみたり、背中を押し続けようとしているのか風が僕の方へ吹き続けている。
本当、いろいろと肝に銘じておかないとな。
スレンもそうだけど、アリシアだって完成形を見せたら猛特訓して短期間で魔法を完成させてしまった。
リーゼも入学初日だというのに、発動させていた【紅蓮の朱剣】だって既にほぼ完成形だったんだから。
「あれ、ちょっと待って」
「ん?」
「そもそもこれ、僕が考えなくてもアキトが答えを持ってるでしょ?」
「心当たりはあるけど、結局は最大限でしか発現できないから参考にならないんだよ」
「あーたしかに。それをボクが再現できないか」
「いやでも、帰りに試してみるか」
「それさ、かけられる側の体は大丈夫なの?」
「僕は大丈夫だったし、スレンも大丈夫じゃない?」
「ほら、そういうところだよ。その魔法を使って、壁に激突したら元も子もないからね」
鋭いな。
かなり前の話だけど、初めて使ってみたときは今の懸念通り壁に激突した。
魔法のおかげで怪我はしなかったけど、それはもう盛大に壁をぶち壊したから修理費で貯金がなくなった過去がある。
「ふっふっふっ。もうそろそろ戻らなくちゃいけない時間だよ」
「僕に魔法を発動させられたくなければ、さっきコソコソ練習していた成果をみせるんだ」
「まだ上手くできないって。そっちの方が危ないでしょ」
「自分たちの体を信じるんだ。日々の鍛錬はこういうときのためにある! さあ行こう!」
「わかったよ……どうなっても知らないから」
僕たちは寮へ走り出し、スレンは文句を言っても移動補助魔法を試した。
何回か転んで痛みを伴ったとしても、何度も何度も魔法を試した。
――結果、寮に辿り着くまで合計10回は転倒してしまったけど、いい練習になったと思う。
痛いけど、痛かったけど、実戦で得られたものは次に活かされると信じているから問題ない。
痛いけど、痛かったけど。




