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第16話『友に打ち明けるは、偽りなき事実』

「え、何それ……」


 恒例の朝鍛錬。

 今日は環境に慣れてきたから走り込む時間を増やしてみて、自重トレーニングも加えた。


 そして今、昨日の仕返しを兼ねて僕の根本的なことを披露する。


「これが、極限までに圧縮した濃密な魔力」

「黒い魔力なんて聞いたことがないよ」


 手のひらに乗る1滴の魔力を前に、スレンが言いたいことは十分にわかる。

 だって、世界の常識では美しく透き通っている、まるで一切の濁りがない水や空気のような透明さが魔力として認識されているから。

 魔力を魔法に変換して発現させるとき、才あるものや鍛錬を積んで技術を手に入れた者は、その美しさで評価される。


 それが、濁りを通り越して漆黒以外の言葉が当てはまらないほど光を通さないような魔力は、まさに邪道であり信じることが難しいだろう。


「ど、どういうこと? ちょっと待って整理させてほしい」


 混乱するのも無理はない。

 でも、スレンが思考している中には別のものも含まれているはず。


「――いつもの魔力操作は透明なのに、目の前にあるのは黒い魔力。じゃあ操作するなら黒い魔法じゃないのはなぜ?」

「本当、鋭い洞察力だ。難しく考えず切り離して考えてみると答えは出てくる」

「鍛錬を行うときは漂う魔力を扱い、魔法を使用するときは黒い体内の魔力を使用する――ということ?」

「そういうこと。別々に使用することはできるけど、元々は同じ魔力なんだから不思議なことじゃない」

「た、たしかに」


 僕は包み隠さず、ありのままの事実を伝えている。

 まあでも前提条件として、【欠落者】であり才能がない僕は漂う魔力を思い通りに扱えないから、同時に扱えるか聞かれると片方は最低限でしかない。


「え……さすがに規格外すぎるでしょ。要するに今は、透明な魔力を操作しつつ黒い魔力も操作し、微力ながらに魔力吸収を続けているってことでしょ?」

「そういうことになる」

「常人に成せる技じゃないよそれ。いや、才能があっても天才だって無理だよ」

「さあ、それはどうなんだろう。やり方を知ったら、案外できちゃったりして?」

「いやいやいや、断言できる。無理だよ。どんなに才能があっても、あの苦痛からは絶対に逃れられない。だから誰もやらないんだよ? 今の七魔聖だって、それを成し遂げたなんて聞いたこともないし」

「そうだったのか。でも、昔はどうだったんだろうな。例えば、史上最高の魔法士とかは」


 僕は正直、歴史に詳しいわけでも情報を手に入れる術を持ち合わせているわけでもない。

 だから学園に入る、という選択肢が出てきたわけだし。


「……どうだろう。でも、やっていた可能性は大いにあると思う。だって、今の時代も『全て魔法士の始祖である人の派生でしかない』とも言われているし」


 当然、全てがそうと言うわけではない。

 新しい発明だってあるし、炎を飛ばす、たったこれだけのことが今では剣を生成したり炎をまとわせることだってできるようになった。


「まあ、これを成しえたのは僕が辿ってきた人生に関係してくる話にもなる」


 リーゼに話した内容をそのまま話せば、同様の反応が返ってくると思ったけど意外に真剣な表情で聞き入ってくれた。

 取り乱されたり、リーゼみたいに抱き着かれたり涙ぐまれると話が止まってしまうから助かる。


「――という感じ。それで僕は自分でお金を稼ぐために必死だったけど、ある日大きな失敗をして出血し続けるような怪我を負ってしまった」

「……」

「そこで考えたのが、『血を魔力で補えないか』という発想だった」

「全然意味が分からないんだけど」

「ちょうど、あの感覚に少し慣れてきた頃合いだったからさ。体内に貯める、というより肉体全てが魔力の器であり血液すらも魔力に変えてしまおうって」

「いやいやいや。じゃあ何? 今切り傷を負ったら、真っ黒な魔力兼血が流れ出るとでも?」

「実は、そうなんだよね」


 ここまで平静を保って話を聞いてくれていたスレンだったが、さすがに信じきることはできないようだ。

 眉を持ち上げたり下げたり、左右別々に上下させたり。

『頑張って信じてみようかな』という意気込みは伺えるものの、どうしても「わかった、信じるよ」という言葉が喉に引っかかっているようだ。


「じゃあ斬って、見せようとしてもいいけど刃物がないからできないかな。あと、補足しておくと痛みは普通に感じるから」

「……な、なるほど……? でもさ、それって完全に人間をやめてない?」

「食べ物の味はわかるし、疲れもする。痛みも判断できるし、人としての思考はできているつもりだけど」

「それは僕もわかっているつもり。でもさ、それじゃ性質だけならモンスターと変わらないんじゃない?」

「魔石が体内にあったら、条件を満たせそうだな」

「ふざけないで答えてよ」


 スレンの言っている通り、性質や特徴だけで考えるならモンスターそのもの。

 本当に魔石が体内に埋まっていたら、条件的に人外判定されてもおかしくはない。


「そこは安心してほしい。魔石はないし、人を襲いたい衝動があるってこともない」

「それはそうなんだけど……はぁ……アキトを知れば知るほど、もう訳がわからなくなってきたよ」

「まあ、そこまでしないと【欠落者】であり才能がない僕じゃ学園の生徒にすら及ばないってことだからね」

「……だよ、ね。ごめん」

「いやいやスレンが謝ることでもないし、誰に謝られる謂われもない」


 自分で選択した未来、文句を言っていいとしたら自分に向けてだけだ。

 罵ってくるような相手にも文句は言わないし、貶してくる相手にも文句は言わない。

 亡くなった両親に対して憎しみを抱くわけでも怒ることもない。

 まあさすがに、当時は支援金を持ち逃げして僕を路頭に迷わせた、あの名前も知らない親戚であろう人たちに対しては、抑えきれない怒りの感情を地面と空にぶつけたけど。


「じゃあここで、根本的な話をしよう」

「心の準備が必要そう?」

「いいや、召喚士についての基本的な話だ」


 僕は立ち上がり、腕を突き出して手のひらを下に向ける。


「魔力量に対して大きなものを召喚することができるのは、なぜだと思う?」

「えっと……唯一、召喚士だけはゴーレムなどを召喚する場合は周りの魔力を体を通すことなく巻き込むことができるから?」

「そう。だから、魔力吸収量が少なく魔力操作に長けていなくても召喚士は活躍できる」

「ちょ、ちょっと待って。じゃあ――」

「ああ」


 漆黒の魔力を1滴、地面を垂らす。

 すると、同様に漆黒な七星の魔法陣が出現。


「な、何それ」

「魔法を行使する場合、魔法を印象で具現化する方法、使用する魔法を象徴する名前で具現化する方法、呪文を詠唱する方法、そして魔法陣を用いる方法がある」

「加えるなら、魔装具に魔力を込めて魔法の再現をしたり、魔装具で魔法を補助する方法もあったりするよね」

「あ、ああ。さすがに専門知識は凄いな。自分の勉強不足を認めるしかない」

「まあまあ、僕たちまだ1年生だし」


 くっ、格好悪すぎる。

 もっと勉学に励まないとな。


「そして、さっき気が付いた通り。【頂上召喚(サモンバースト)】――【紅蓮の朱剣】」

「う、うわあ!?」

「大丈夫。燃えないから」

「ほ、本当だ。温かい」


 リーゼと行った実習のときと同じく、最大出力で炎が辺り一帯に広がる。

 初見では驚いてしまうのは当然で、辺り一帯が炎の海になればスレンみたいな反応が一般的だ。


「要は、魔力に引き寄せられて魔力が集まってくる仕組みなんだ。だから、この極限まで圧縮された漆黒の魔力に引き寄せられて、周りの魔力が一気に召喚される魔法へ吸収される」

「その理屈なら納得できる」

「理解してくれてありがとう。じゃあ柔軟な思考に頼って、こんなのもできるってこと」


 今度は左手を突き出し、手のひらを下に向け――漆黒の魔力1滴を地面へ垂らす。


「ちょ、もしかして」

「ああ、そのまさか――【頂上召喚(サモンバースト)】――【蒼穹の盾剣(しゅんけん)】」


 左手に蒼と白を基調とした盾を召喚、右手には朱色と蒼色が合わさり淡い紫色の剣に様変わりする。

 そして、地面には変わらず炎の海が出現し続け、空中には様々な形容をした水が浮かぶ。


「はぁ?!」

「全種類の魔法属性を扱うことができ、融合させ、しかし同時に別々の属性を残すこともできる。ちなみに意志通り操作できるし、自動防御も可能――っと、今日はここまでか」


 魔法を解き、瞬く間に存在していた全てが消滅する。


「はぁ……ため息しか出てこないよ。ボク、アキトに驚かされる度にずっと考えてるんだよ」

「何について?」

「どうやって技を磨いているのか、とか練習方法だったり精神面だったり」

「それはいい心意気じゃないか」


 対等に向き合ってくれていて、驚愕を隠せなくても理解を示してくれていたんだな――本当にありがたい。


「いや、全然悪いことではないんだけど。なんていうかさ、ほら。友達が過酷な訓練を積んでいるのに、自分がなんてちっぽけなんだろうってさ」

「頭が混乱したり考え込んだりしたら、体を動かすのが一番! 帰りはペースを上げて走ろう」

「それは言えてる」


 僕たちは、少し笑みを浮かべたりしながら肩を並べて帰路へ着いた。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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