【32話】同じ思い
待て! 、の声が命乞いだったらアンジェは拳をとめなかっただろう。
でも、違う。
レインボードラゴンは状況がわからず大きく困惑している様子。
命惜しさに言葉を発したようには見えなかった。
それが不可解で、アンジェは拳をとめた。
「我はどうしてここいる? 貴様は誰だ?」
「は? あんたなに言ってんのよ」
レインボードラゴンは、あまりにとんちんかんなことを言ってきた。
アンジェは怪訝な表情を浮かべる。
「私がわからないの? 今まで戦っていたじゃない」
「戦っていた? 我と貴様がか?」
(もしかして私、おちょくられてるの?)
拳を振り下ろそうかとも考えるが、アンジェはストップ。
レインボードラゴンの顔が、いたって真面目だったからだ。
どうやらアンジェをおちょくっているわけではないらしい。本当に状況がわかっていないみたいだ。
アンジェは振り上げていた拳を下ろした。
「そうよ。あんた、なにも覚えていないのね」
「……あぁ。記憶にない」
(あれ、そういえば瞳の色が元に戻っているわね)
それだけでなく、体を包んでいた黒い光も消えていた。
記憶を失っていることと、なんらかの関係があるのかもしれない。
「セイリオ王国を破壊しろ――記憶を失っている間、何者かのその声だけが頭に響いていた。強い衝撃を受けたことで声が消えたのだ」
「あなた、操られていたのね」
セイリオ王国を滅ぼすしたいと考えている何者かに、このレインボードラゴンは操られていた。しかし、アンジェの攻撃を受けて自我が戻った。
話をまとめるとそういうことだろう。
(きっとスティンもそうだったのね)
スティンは恐らく、ブラッディマスクを殺せ、といった命令を誰かに受けていた。
それでアンジェを襲ってきたのだろう。
自我を失っていたのなら、あのおかしな様子にも得心がいく。
ずっと引っかかっていた謎がようやく解けた。スッキリする。
「まさかそんなことに……。あなたが我を助けてくれたのだな。ありがとう。感謝する」
「……き、きにしなくていいわ」
アンジェは殺す気満々で戦っていた。
結果的に助けたことになったが、それはただの偶然だ。
(でもレインボードラゴンは感謝しているみたいだし、余計なことは言う必要ないわね)
「ところで、あなたを操っていた者に心当たりはあるかしら?」
セイリオ王国の破壊をレインボードラゴンに命じた誰かがいる。
そいつが黒幕だ。
この落とし前はきっちりつけないといけない。
「記憶を失う前、我は銀髪の男に会っている」
「その男が犯人ね。会いにいきたいのだけど、居場所はわかるかしら?」
「我に任せろ。ヤツの匂いは覚えている。あなたを案内しよう」
レインボードラゴンは立ち上がった。
牙をむき、瞳を鋭く光らせる。
「我の心を操ったことは決して許さない。報いを受けさせねばならん」
「あなたも私も、考えていることは一緒ってわけね。それじゃあ案内頼むわね、伝説のドラゴンさん」
「我にはゼファーという名前がある。我の恩人たる少女よ、よければあなたの名前も教えてくれないだろうか?」
「ヴァイオレットよ。よろしくね、ゼファー」
地面を蹴ったアンジェはゼファーの肩の上に飛び乗った。
「これより全速力で飛ぶ。振り落とされないように気をつけてくれ」
ゼファーが翼をはためかせた。
大きな風圧が生まれるとともに、虹色の巨体が宙に舞い上がっていく。
「いくぞ!」
「えぇ!」
体を水平に倒したゼファーは、とてつもないスピードで大空を飛んでいく。
「爽快爽快! 風が気持ちいいわ!」
ビュンビュンと風を切っていくのはたまらなく心地いい。
肩に乗っているアンジェのテンションは急上昇。子どものようにはしゃいでいた。




