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【3話】強さの理由

 

 風の刃はいとも簡単にアークオーガの首を切断した。

 それは常識では、到底ありえないことだった。

 

 しかしアンジェにとっては、なんの不思議もない。

 

「そこいらの冒険者と一緒にされたら困るのよね」

 

 SSランク冒険者であるアンジェの魔法の威力は、その辺のザコ冒険者とは比べ物にならない。

 次元が違うといってもいい。

 

 たとえそれが下級魔法でもアンジェが放てば、強力な威力を持つ恐ろしい凶器へと変わる。

 アークオーガの首を飛ばすくらいは、朝飯前だ。

 

 どうしてアンジェの魔法がここまで強力なのかというと、これには理由がある。

 

 まず、アンジェは異世界転生者だ。

 転生する際に女神から、常人の域をはるかに超える力を与えられた。

 

 いわゆる、チート能力というやつだ。

 

 それがこの圧倒的な力の秘密だった。

 

 冒険者というのは、身に宿る大きな力を遺憾なく発揮できる。

 だからアンジェは、この仕事が大好きだった。

 

「オオオオオ!!」


 騒々しい雄叫びを上げたのは、両端にいる二体のアークオーガだ。

 

 仲間が簡単に殺されたとあって、表情から余裕が消えている。

 アンジェの脅威を認め、本気になっている。

 

「ウオオオオオ!」

 

 二体のアークオーガが、アンジェ目掛けて左右から突進してくる。

 巨体に似合わず、素早い動きをしている。

 

「いいわ。かかってきなさい」

 

 恐るべきスピードで向かってくる二体のモンスターを、アンジェは余裕の表情で待ち構える。

 

「オオオ!」

 

 距離が詰まった。

 左右のアークオーガはアンジェを殴りつけようと、同時に大きな腕を振り上げる。

 

 しかし、その攻撃が行われることはなかった。

 

「さよなら」


 左右の漆黒の巨体に向けて、アンジェが両腕を突き出した。

 

 両腕は二体のアークオーガの分厚い胸板を、簡単に貫通。

 心臓を握り潰した。

 

 女神から与えられたチート能力は、魔法だけにとどまらない。

 肉体面もだ。

 

 魔法、身体能力ともにアンジェは規格外の力を持っていた。

 魔法でも格闘でも、どちらにも対応できる。

 

 両腕を引き抜く。

 噴き上がる血しぶきとともに、二体のアークオーガは地面に崩れた。

 

「これで依頼は終了ね」

 

 しかしアンジェは帰らろうとしなかった。

 仰向けになっている一体の頭部へ近づいて、

 

「あームカつく!!」

 

 顔面をおもいっきり踏みつけた。

 

 辺りに血しぶきと肉片が飛び散る。

 

 昼間、エルマに説教されたことでアンジェは非常にムカついていた。

 だから難易度の高い依頼を受けてイライラを晴らそうと思っていた。

 

(それなのに……!)

 

 こんなザコモンスターを三体殺しただけでは、イライラが治まらない。

 うっぷんを晴らしたくて、何度も何度も踏みつけていく。

 

 

 踏みつけまくって、原型がなくなるくらいにぐちゃぐちゃになった頃。

 

 奥の方から、新たなアークオーガがぞろぞろとやってきた。

 その数、十体以上はいるだろうか。

 

「これ以上殺しても金にはならないけど……ちょうどいいわ。皆殺しにしてあげる」


 またまだイライラは解消できていない。

 アークオーガの群れに、アンジェはためらうことなく突っ込んでいった。

 

 

 

 夜が明ける頃。

 依頼達成の報酬金を冒険者ギルドで受け取ったアンジェは、教会に戻ってきた。


 寄宿舎に入ったアンジェは私室ではなく、まず、エルマの部屋へと向かった。

 音を立てないように忍び込み、机の上にそっと報酬金を置く。


 エルマはムカつくババアだが、拾ってくれた借りがる。

 

 アンジェは貸しをするのは大好きだが、借りを作るのは大嫌いだ。

 だから借りを返すために、いつもこうして報酬金を机の上に置いていた。


 でもエルマは、一度だって金を受け取ってくれたことはない。

 いつも突き返されてしまう。

 

 そして、今回もそうだった。

 

「金は受け取らないよ。持って帰んな」


 ベッドから声が聞こえてきた。

 上半身を起こしたエルマは、じっとアンジェを見ている。


「あら、起きてたの? ずいぶんと早いお目覚めね」

「年寄りは朝が早いのさ。……それにしても、今日はずいぶんと血の匂いが濃いね。何体殺したんだい?」

「さあね。アークオーガを二十体くらい殺した気がするけど、いちいち数えていないわ」

「さすがSSランク冒険者様だ。いっそシスターをやめてそっちに専念したらどうだい? お前はシスターに向いてない」

「またそれ……。ったく、うるさいわね。そんなの私の勝手でしょ」

 

 つまならないシスターと違って、おもいっきり力を振るえる冒険者はとても楽しい。

 それだけやっていたいという気持ちはある。

 

 でも、エルマの言う通りにはしたくなかった。

 

 シスターをやめるということは、エルマの言いなりになるということ。

 それはつまり、彼女への敗北を意味する。

 

(そんなの絶対にイヤ。なんて言われようが続けてやるわ)

 

 アンジェは筋金入りの負けず嫌いだ。

 だからこれからもシスターを続けるし、エルマが金を受け取ってくれるまで何度でも報酬金を持ってくるつもりだ。

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