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「これが終わったら?」 1




~黒木side~



学校祭を終え、テストを終え、いつものようにいつもの仲間と過ごしていけば。


「毎月似たようなこと言ってるけど、また言っていい?」


「…なに」


「もう今月終わりそうなんだけど! なに? 今日って、もう…28日じゃん。今月終わるの、早くない?」


教室でいつもの流れで会話して。


「まーた言ってるよ、コイツ」


「さっきまた言っていいかって聞いてから言っただろ?」


「あー…はいはい」


弁当箱を片しながら、その会話を聞き流しつつ立ち上がる俺。


「行くの? 咲良」


「ん。行ってくる」


「さくちゃん。後輩ちゃんに次の当番聞いといてよ」


「…なんで」


「どうせ図書室行くなら、後輩ちゃんが放課後の当番の時がいいなって思っただけー」


「……忘れなかったらな」


この会話もすっかり定番になりつつある会話の一つ。


「じゃあな」


ランチバッグをロッカーのリュックに入れてから、俺は教室を出て行く。


アレ以降の、俺の習慣になったもの。


昼休憩の時にも、アイツの顔を見に行く。


当番でもないのに図書室にいることを知っていなきゃ空振りになりそうなそれは、アレがいるからこそ成り立っているよう。


ガラッと軽く音を鳴らしてドアを開ければ、奥の方で二つの頭が見える。


「白崎」


その片方に俺は声をかけ、こっそり小さくため息をついた。


「先輩っ!」


「あー、どうも。黒木センパイ」


隣にいつもいるタカナシってやつをチラッと見てから、すぐに白崎へと顔を向ける。


「紫藤が次の放課後の当番いつだ? って」


忘れなかったらなと言っておきながらも、すぐにそのカードを使う俺。


「えー…っと、ちょっと待っててもらえますか? 記憶違いだったら悪いんで、当番表見てきますね」


「ん」


そう言いながら、俺よりも背が高い白崎の肩をポンポンと二度ほど叩いてから口角を上げる。


俺のその顔にすぐに赤くなって嬉しそうに微笑みながら、カウンターの方へと早足で向かっていった白崎。


「……受験生って意外と暇なんですね」


白崎のことを目で追う俺に、控えめな声の呟きが耳に入った。


「そうでもねぇよ」


実際、なんだかんだとやることや考えることは多い。


「じゃあ、時間は有効活用してくださいよ。セーンパイ」


目が笑ってるけど、多分これ…笑ってないやつだな。


「お前に心配されるようなことはなんもねぇよ、タカハシっていったっけ? お前」


「いい加減覚えてくださいね、小鳥遊です。タ・カ・ナ・シ」


「ふーん」


これもここ最近のいつもの流れの一つ。


俺が白崎のそばから排除したいのに、白崎のそばにいた方がいいとも思える相手。タカナシ。


ほったらかすのも嫌だから、今の俺と白崎の距離の範囲内で不自然じゃないだろうことばっかりだけど。


「明後日です、先輩。……って、どうかしたの? 二人とも」


「いいや」


「べっつにー」


白崎が戻ってきて、変な空気が漂っている俺たちの間に立つ。


「白崎。今日、放課後用事あるか?」


タカナシを背にするようにして、白崎だけを視界に収める。


「今日は特にないですけど、なにかありましたか?」


白崎の顔が近づき、囁くように問いかけてきた。


「今日の放課後……」


そこまでは普通の声で、背後のやつにも聞こえるように言い。


「いつも行く店に、新作のケーキ出たって聞いたからよ。食いにいかね?」


デートの誘い文句は、白崎だけに聞こえるように囁いた。


学校祭以降から、時々どこかしらに誘うけど、毎回まるで初めて誘いを受けたように嬉しそうにうなずく。


白崎を意識するようになって、好きなところを意識するようになっていった。


毎回見せる初心な反応は、いつ見ても可愛くて。その感情を誰かに話せばきっと、相手は男だろ? って返すやつがいそうだけど、だから? と返せる自信がある。


一回、“好き”の気持ちを意識してしまえば、まわりが何かを言ってても思ったより気にしない自分を知った。


そういう感情も、ある意味頑固でわがままで自分勝手な感情だ。ただ、その感情は俺たちの間にある関係において、邪魔だとは思えない。


「デートみたいだな? 白崎」


多分コイツが頭の中で思い浮かべているだろう言葉を、あえて形にしてやる。


すると、真っ赤になりながら嬉しそうに何度もうなずくんだ。


「じゃあ、放課後。教室に迎えに行くか? それとも待ち合わせるか?」


誘いはすれども、白崎が慎重になっていることも忘れない。


仲がいい先輩と後輩ってだけにしか見えないようにしたいんだろうから。


「じゃあ、バス停の前で」


不自然じゃないようにと思ってる時に、白崎が指定する場所だ。


「ん。……じゃ、後で」


小さく手をあげて、じゃあなと踵を返して図書室を出る。


学校祭でキスをして、その後は何度か間接キスっぽいことはあった。


ぶっちゃけるなら高校男子は、好きな相手とキスがしたくなる時だってある。そりゃ、当然だろ?


(あるけど、簡単に出来ない。あの時みたいなキスをしたら、白崎が目を回しそうだ)


あの時のことを思い出せば、自然と頬がゆるむ。


いつかどこかのタイミングでキスをと思えども、まだ俺たち二人の関係に先輩と後輩以上の名前はない。


それが現実で事実。


「あ、黒木。今日の日直に職員室に来いって伝えてくれ」


廊下で担任に呼び止められて、小さくうなずいてから教室へと急ぐ。


教室に着く前に日直を見つけて、なぜか逃げてくからソッコーで走って捕獲。後に、職員室へ連行。


「咲良」


佐々木に声をかけられ、脇の廊下に呼びこまれる。


「…なんだよ」


「なんだよ、じゃないって。…ほら。今日行くって言ってたとこのさ」


佐々木の親戚がやっているというケーキ屋が、今日行く店だ。


そう言いながら、肩を組んできてスマホの画面を見せる佐々木。


「リコッタチーズのパンケーキも美味いってさ。なんなら、シェアしたら二種類食えるじゃん」


「リコッタチーズのパンケーキ……。今度作ってみたかったんだよな。ついでによく味わってくる」


ネットで見てから、ずっと気になっていたパンケーキ。どっちかといえば、作る方に気になっていたんだけど。


「覚えたら、後輩くんに作ってあげなー」


「おう」


中学を卒業してから自分が連絡を取れなくして、バツが悪くて一切連絡を取るための努力なんかもせず。


一言で許されるはずもないのをわかってて、白崎が卒業する前に謝りに行って。


二年間の空白の時間を埋めたいと謝った俺に、それ以上の時間をアイツはよこしている。


(っても、そんなつもりなんかアイツはないんだろ)


その時点では、俺の中でアイツは仲がよくて罪悪感のある後輩って位置づけだった。


日を追うごとに姿かたちを変えていく、俺たちの関係。


一歩踏み込めば、アイツはそれ以上後ずさってどこか今の関係が壊れるのを怖がって一定の距離から近づいてこない。


(俺を見る視線、会話、熱量。うぬぼれじゃなく、アイツは俺のことが好きだ。実際、寝ている時に告白はされているわけだしな)


その気持ちを知ったからと、白崎を好意的に見ているつもりは…もう、ない。


アイツの告白を聞かずとも、いつか白崎を好きになっていた気がするんだ。ある意味予感のようなその感情に、不快感なんかなくて。


相手が同性とか、くだらないことなんか、もう…どうだっていいやって思えるレベルで好きだ。


俺の方から恋愛対象だと伝えたら、白崎は不安にならなくなるのかもしれない。


そう思いつつも、今、このタイミングで俺が動けば臆しすぎてメーター振り切って逃げられそうな気もしてる。


「佐々木ぃ」


「んぁ? なんだよ…ふわぁ…」


横で眠たそうにしてる佐々木に、席に戻って頬杖をつきながらぼやく。


「思った以上に乙女なアレに逃げられないような告白が、決まらん」


開きっぱなしの窓から、ふわりとカーテンがはためいて顔を撫でる。


虫でも払うように手でカーテンを抑え、はぁ…とため息をついた。


「なんてーの、こういうの。……あぁ! 両片想い! めんどくせぇな、二人とも」


「両片想い……」


初めて聞くワードだな。


「両想いでいいだろ、いい加減! ってまわりが焦れるようなやつな」


「…ふぅん」


聞かされてみて、なるほどなと思う。


「俺も……両想いがいい」


机に突っ伏して右腕を枕にし、何度目かのため息まじりに本音をもらした。


「こればっかりは、俺たちがどうこうするってわけいかないしな」


佐々木が笑うように呟いたそれに「まぁな」とだけ返す。


「一緒に時間をなるべくとって、今まで以上に意識させるので精一杯だわ。俺」


苦笑いを浮かべながら呟いたその言葉に、「いーんじゃね?」と軽い声がした。


「これまでのお前の恋愛が、あまりにも簡単すぎたからな。相手に好きって言われて、いいよって返して、付き合って。焦れながらでも誰かを好きになるってこういうことかーって味わうのもいーんじゃねーの? …俺にはよくわかんねーけど」


最後のセリフが少し気になったけど、一緒にいるようになってお互いに線引きしたその中には入らない関係になれた気がしてて。


「俺は咲良が誰かを好きになってアワアワしてるとこでも見ながら、飯が食えたらいいし」


「なんだ、それ」


佐々木とそんな話をしていると、予鈴が鳴って教室がざわついた。


「じゃ、俺…自分んとこ戻るわ。……あ、咲良」


「ん?」


「再来月、体育祭だろ? 今年、どうすんの? 毎年断ってたろ。…アレ」


再来月の話をされて、そういえば今年で最後なんだなと考えてから。


「今年は選ばれたら参加の方向で行こうかな」


「…お。やる? 本気で行く?」


「んー…まぁ、誰かさんにカッコいいとこ見せたいからな」


「はいはい」


じゃあなと手を振って、互いの場所へと戻る。


場所だけでいえば、端と端。ちらっと横目で見れば、大きく欠伸をする佐々木と目が合った。


『ねむいな』


口パクで伝えられたそれに『おなじく』と返して、黒板の方を向く。


本鈴が鳴り、少し遅れて担当教師が入ってきた。


授業を受けながらも頭の中にあったのは、さっきまで佐々木とした話。


再来月にある、体育祭。


これまでの俺は、体育の授業内で行われていたリレーの選抜に残っていても委員会を理由に断っていた。


「さくちゃんは、俺たちよりも小さいけど足はバカっぱやいからね」


そう言ったのは、たしか紫藤だ。アイツは過去二年とも選ばれている。


リレーと、もうひとつ。障害物競走に借り物競争がくっついた、複合競技。うちの学校の恒例らしい。


障害物で一位だったのに、借り物のターンで最下位なんてのがよくある話で。


(借り物次第で、どっちも一位でいけるんだよな。アレ)


その借り物の内容が問題で、お約束のように色恋ものになりがち。その割合は、借り物の7割がそっち方面の内容だ。


『片想いの相手』なんてものもあれば『別れた相手』なんてエグいのもあったこともあるらしく、その年はかなり揉めたとか聞いた。


当たりがよければ、それをキッカケに告白なんてのもザラで。いろんな意味で問題がありそうな複合競技が何故なくならないか…というと。


(それで付き合うようになったカップルが、卒業後に結婚して離婚していない率が高いっていうのがデカいな)


学校祭の花火同様で学校にある、独特の噂のソレの影響だ。


学校祭の花火は一緒に見た。なかば無理矢理だったけどな。


その手のイベントはなんやかんやあって、今年入学した白崎が知らない噂もあるはずだ。


(そんなのに縋ってんなよっていわれるかもしれねぇけど…打てる手は打ちたいだけだ)


借り物次第では、白崎の手を引きたい。それと、今よりもほんの少しでいいから近い関係に……。


ある程度は白崎に合わせたスピードで進みたいと思ってはいても、俺が白崎をどう想ってるかを知らせたっていいはずだ。


(アイツが不安になるのだって、男同士ってだけじゃなく、俺が白崎をそういう目で見ているのかが見えないからだろ?)


何でもない日に告白したっていいけど、なんだかんだいいながらもアイツはイベントものが嫌いじゃないよう。


なにかしらの憧れめいたものに、普段やりとりするメールで気づいてしまった。本人は無自覚なんだろうけど。


「…あ。芯、切れたな」


ペンケースから替え芯を出して、授業を流し聞きしつつ芯を補充する。


カチカチと数回ノックすれば、シャーペンから芯が出てきた。


「今日、ついでに書店に付きあってもらうかな」


ルーズリーフだ替え芯だと、ついでに買っておいてもいいだろう。


一緒の時間は長い方がいい。ついでにいろんな話が出来れば、白崎のことをもっと知るキッカケがあるかもしれない。


(誰かを好きになるって、こういう小さいことの積み重ねなんだな)


今更のように思いついて、今までの自分を恥じる。


驕ったことかもしれないけど、今までの元カノたちが俺みたいなやつと付き合うことがないようにと願う。何度だって願う。傷つけといてなんなんだって言われそうだけど。


もしも白崎と付き合えることになったとしたら、の話。


付き合ったのが俺でよかったってくらいは思われたい。言われたい。


(――――いつか、付き合えるなら)


今はまだ見えないいつかを思い、教科書のページをめくった。


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