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雨の日

 いつの間にか降り出した雨は、少女にあの日の事を思い出させた。


 少女はおもむろに立ち上がり、窓際へと歩み寄った。


 雨を降らせる空は明るく、それが、雨が直に止む事を教えている。




 その日は今日とは違い、激しく雨が打ち付ける。


 そんな日だった。


 朝は綺麗に晴れて、蒼空まで見えていたのに。いつの間にか雨が降り出し、空は暗く、雷雨になると言う予報も納得出来る。


 そんな日だった。


 普段は事故など起きない所で、事故が起きた。人と車の衝突事故。


 ブレーキの音が雷鳴に紛れて響き渡り、しかし雨のせいで、効果は無かった。




 少女は机の上に広げていた参考書を棚に戻し、ノートと教科書を鞄に入れた。その鞄と、英単語の書かれた小さな本とを持って図書館を出た。


 傘立ての前で少し考えてから、鞄を右腕に掛けて傘を開いた。




 その日は風が無かったので、足元が濡れただけで済んだ。鞄は濡れずに、当然中に入っている、綺麗にまとめたばかりのノートも、教科書も無事だった。


 ……筈なのに。




 やはり歩いているうちに雨が止んだ。雲の切れ間から、もう蒼空が見えている。それでも大きな水溜まりが、あちこちに見える。


 少女は雲の切れ間から覗く空と同じ色の傘を閉じると、軽く水を払って腕に掛けた。


 しばらく歩いていると交差点に差し掛かった。大きな水溜まりが空を映している。




 上がった水飛沫をまともに浴びてしまい、鞄を濡らしてしまった。鈍い音のした方を見ると、学生服を着た少年が血塗れになって倒れていた。少女と同じ歳位の少年。


 降る雨が血の上に紋を描き、広げていく。


 その時少女は少年の瞳と出逢った。苦しそうに助けを求める少年の瞳と。




 あの時の雨が血を綺麗に洗い流し、そこには何も残ってはいない。ただ花が飾られているだけで。


 少女がそこを渡り始めた時、けたたましい急ブレーキの音が響いた。鈍い音がして、少女の手にしていた単語帳が、宙に舞った。



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