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 先輩はダンスが終わってみんなで退場すると、「じゃあな」と私を置いて行ってしまい、笑いすぎで腰砕け寸前だった私はロハリーと純白組の待機スペースに戻った。


 一部の学年が抜けたりして空間に余裕ができている。ロハリーと柔らかい芝生に座った。


 三年生女子競技の『槍術』がもう始まっていたけれど、私は小声でロハリーに一体何が起きたか話した。


「『ここで見てっから』とは言われたけど、本当に見ててくれたんだなって……!」

「ふうん、ヴァーン・ランデールもたまにはやるね」


 小声で、それでも興奮が収まらず捲し立てるように話す。


「ロハリーはどうだった? 大丈夫だった?」

「うん、相手が侯爵令息で、ダンスうまくて助かった」

「良かった!」


 次の二年生女子の競技の『弓術』はちゃんと応援しながら観戦した。

「行け行け純白組!」も「頑張れ頑張れ純白組!」も最後が早口言葉みたいになって言いづらいので、やっぱり「白組」でいい気がする。


 それが終わるとお昼ご飯の時間だ。教室には入れないので、校庭や中庭など屋外でピクニック形式で食べることになる。


 ロハリーとお弁当を手にちょうど良い場所を探そうとしたら、「アナベル嬢」と声をかけられた。


 それは以前ダンスでペアになった背の高い金髪の男子生徒で、ぞろぞろと男子生徒たちを引き連れている。

 ロハリーが「この人、私とペアだった侯爵令息だよ」と耳打ちしてきて、思わず顔を見合わせた。


「突然すまない。『舞踏』の練習のとき、僕らは自分の心配ばかりしていて、君に配慮がなかったことを謝りたくて」

「……ああ!」


 たしかに彼の周りの男子生徒たちはみんな過去に私とペアになった人たちだった。


「大丈夫ですよ!」


 状況を飲み込んだ私は笑顔で、本心から言った。


「先輩が助けてくれたので、私はもう大丈夫なんです」


 私の心にたちこめた曇はさっき先輩が吹き飛ばしてくれた。なので今は「雲ひとつない快晴」みたいな心境なのだ。すごくご機嫌である。


 侯爵令息さんは少し驚いた後、何かを思い出すような表情で言った。


「『先輩』というのは、君が想いを寄せていると噂の騎士科の二年生かい?」

「噂になってるんですか? 恥ずかしいな」


 照れくさくなって「えへへへへ」とはにかんでいたら、侯爵令息さんの後ろから別の男の人がずいっと身を乗りだした。

 確か一週間くらい前の練習でペアになった人だ。この人はいつ見ても顔が赤い。


「そ、そいつのことがそんなに好きなんですかっ!」


 今日も心配になる程赤い顔で、彼が口にしたのは愚問というやつだった。


 先程私を助けに来てくれた先輩の、世界一素敵な姿を思い出す。それだけでこれ以上ないくらい幸せな気持ちになりながら答えた。


「うん。大好き」


 男子生徒は私を見つめてなにやら愕然とし、他の生徒に励まされながら『私に謝る会』は解散の運びとなった。

 侯爵令息さんは最後に輪を抜けて私のところまで来た。


「ヴァーン・ランデール先輩は、今女子生徒の間で人気らしいよ。盗られないように気を付けるといい。君を応援してる」


 ひそひそとそう告げると、私に斜め後ろを見るように促してから去っていく。


「?」


 彼のジェスチャーに従って振り返る。すると人ごみの向こうに先輩の姿があって――彼は複数の女の子に囲まれていた。


 何か食べ物らしきものを渡されたり、タオルを差し出されたりしてきる。先輩は眉を寄せているけれど、それでも女の子たちに何か言った。きっとお礼を言ったのだ。


 その光景から目を逸らせないまま呟いた。


「先輩、『レモンのはちみつ漬けの差し入れをする女子なんていない』って言ってたのに……」

「アナベル、あれはあんたの効果よ」


 ロハリーが腕を組みながら、私の横で先輩を眺めている。


「あんたのファンは男女関係なく多いの。そのあんたが『大好き大好き』言ってる事実が全校生徒の知るところになったから、ランデールの株が上がったんだよ」


 その説明を聞いて、今朝『舞踏』の前に先輩と会ったときのことを思い出す。知らない人たちが親切に私を先輩のところに案内してくれた。

 あれは噂が回った証拠だったのだ。


「お昼ご飯一緒に食べてくれば?」


 ロハリーは私の表情をちらりと確認してから先輩を顎で指した。


「え? でも先輩も一緒に食べる相手がいるだろうし」


 修学旅行に勝手についていったとき、後先考えて行動しないと先輩に迷惑がかかると学んだのだ。


「第一お昼はいつもロハリーと食べてるし。ロハリーとの時間を削って先輩との時間に充てたりしないよ」


 当たり前のことなのでごく普通に言い切ると、ロハリーは「ふうん」と言ったけれど、耳が赤い。照れているのだ。


「じゃあまあ、声くらいかけてくれば? 親密度の違いを見せつけて、あの子たちを蹴散らすの」

「えー」


 ロハリーは戦う気満々らしく、『あの子たちを蹴散らす』ジェスチャーをしている。

 けれど私はあんまり気が乗らない。「うーん」と唸りながら先輩の姿を眺めた。


 すると、一人の女の子の姿が目に付いた。先ほどからずっと先輩の正面を陣取り、顔を赤くして一生懸命話しかけているその横顔。


「どうしたのアナベル? 行かないの?」

「あれは……あの子は違う。もう行こう、ロハリー」


 私はロハリーと一緒にもと来た道を戻ることにした。「目は口ほどに物を言う」という言葉が自然に頭に浮かぶ。


「あの子は本気で先輩のことが好きだと思う。邪魔したら悪いよ」


 先輩を見つめる彼女の目には、確かに燃えるような好意があった。


 先輩をあの子に譲って私は身を引く、なんてことは絶対しないし出来ないけど、アピールの機会を奪うのはフェアじゃない。


「別に私は先輩の婚約者でも彼女でもないしね」


 出しゃばるのもおかしいのだ。ロハリーは何度か振り返っていたけれど、私は振り返らなかった。

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