008 冒険者登録
領都へは何の問題も無く入ることができた。
どうやらこの行商人は門番とも顔見知りであり、その信用度はなかなか高いようだ。
「エル坊、それじゃ気をつけてな。この街で早いとこ身分証を作れよ。冒険者ギルドであれば、10歳以上なら誰でもギルド員になれるからな」
アリエルはこの行商人に『エル』と名乗っていた。偽名である。
あと、冒険者になることで身分証が得られるのは、ありがたい情報だった。商業ギルドや鍛冶師ギルドでは、厳しい審査があるらしい。それに比べて冒険者ギルドは、申請だけで良いとのこと。
認定試験などは無く、戦闘力を求められることも無いらしい(雑用などの戦闘力不要な依頼も多いとのこと)。
アリエルは教わった通り、まずは冒険者ギルドを目指して大通りを歩いていった。冒険者ギルドへ行くための地図まで描いてもらったのだ。簡単なものではあるが…。
さすがに金貨10枚の威力である。サービス満点だ。
現在のアリエルの見た目は、12~13歳くらいの少年だろうか。であれば、問題なく登録できるだろう。
余談ではあるが、彼女の胸部装甲の豊かさは同年代の女性の平均よりも下なのだ。だからこその婚約破棄だったのかもしれない。いずれにせよ、少年に偽装するには好都合である。
「おいおい、なんだか可愛い野郎が入ってきやがったぜ」
「依頼者かな?いや、冒険者登録の窓口へ行ったぜ。どうやら俺らの後輩になるらしい」
「へぇ~、そいつは教育してやんねぇとな」
むさ苦しい男たちの不穏な発言がアリエルの耳にも届いていたが、特に気にすることでもない。さすがにこの建物内での揉め事は困るが、路地裏にでも連れ込まれたらこっちのものだ。皆殺しにしてしまおう。そう考えていたアリエルであった。
「冒険者登録をしたい。誰でも登録できるんだよね?」
「いらっしゃい、坊や。ええ、誰でも冒険者になれるわよ。こちらの用紙に記入してね。あ、字は書ける?代筆しようか?」
「ううん、大丈夫だよ」
アリエルはさっさと必要事項を記入していった。ちなみに、名前の欄には『エル』と書いた。
「エル君ね。年齢は13歳か。まだ声変わりはしてないみたいだね」
「何か審査はあるの?」
「いえ、この街にいるってことは怪しい人物じゃないってことになるからね。盗賊なんかはそもそも街には入れないし…」
良かった。これで身分証が手に入る。そう安堵の溜め息をついたアリエルだった。
依頼書は掲示板に貼り出されるそうで、その中から受けたいものを剥がして窓口へ持っていく。必ず受注手続きが必要とのこと。
なお、アリエルにとってはどうでも良いことだが、冒険者にはランクというものがあり、初心者はFランクから始まることになる。これは上から6番目ということらしい。
ただ、彼女は身分証が欲しかっただけなので、積極的に依頼を受けるつもりはないし、ランクを上げる意欲もない。
それでもどのような依頼があるのか、興味をそそられたので掲示板を眺めてみることにした。
…
しばらく見ていると、後ろから話しかけてくる男がいた。
「おい、坊主。武器も防具も持たず、冒険者になって何をやるつもりだ?草むしりか?どぶ掃除か?」
振り返ってみると、そこには大柄で筋肉質な男たち三人が立っていた。威圧感たっぷりではあるが、彼女にとっては何の脅威にもならない。
ちなみに、声質からさっきの不穏な発言をしていた奴らだと判断できた。
「別に良いじゃん。うーん、そうだね。盗賊団の討伐依頼でも受けようかな?」
これを聞いた男たちは腹を抱えて爆笑した。
「し、新人がそんな高度な依頼を受けれるわけねぇだろ。あー、腹痛ぇ」
アリエルとしては冗談を言ったつもりなので、笑ってくれてありがとうという気持ちである。なので、にっこりと微笑んであげた。
なお、本当に盗賊団の討伐を単独で成し遂げていることは秘密である。
「よし、気に入った。お前、俺たちのパーティーに入らねぇか?なにしろ、新人は無茶しがちだからな。この稼業のことを色々と教えてやるぜ」
強面なのに実は良い人?人は見かけによらないな。そう、思ったアリエルであった。