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006 実験と復讐

 アリエルは一人の男に狙いを定めた。

 その男と向き合った彼女は右側の目(男にとっての左目)の眼窩(がんか)、つまり脳と眼球の間に能力を放った。脳が損傷を受けるか、それとも…。

 結果は彼女の予想通り、空気圧によって目玉が飛び出し、視神経でかろうじて繋がった眼球がぶらぶらと揺れていた。果たしてこの状態で見えているのだろうか?


 男は何が起こったのか分からず、パニックになっているようだ。頭を振るたびに眼球も揺れている。というか、千切れ落ちそうだ。

 落ち着いて丁寧に眼球を眼窩(がんか)()め直せば良かっただろうに、あれでは視神経が傷ついたかもしれない。


 別の男には眼球そのものに能力を発揮した。要するに、眼球内部に空気を生じさせたのだ。当然、それは内部圧力によって破裂することになり、一瞬で片目の視力が失われた。

 これもなかなか使えるかもしれない。彼女は悪魔のようにほくそ笑んだ。


 また別の男たちには脳の部位による検証を行うことにした。

 人の思考を(つかさど)る前頭葉、五感を感じ取る頭頂葉、音声理解の側頭葉、視覚情報処理の後頭葉、運動機能を(つかさど)る小脳、長期記憶の海馬(かいば)等だ。

 アリエルの前世は脳科学者でも脳外科医でもなかったので、そこまで詳しくはないが、なかなか楽しい実験だった。男たちにとっては楽しいどころの話ではなかっただろうが…。


 この中では最初に試した前頭葉の破壊がいざというときに使えるかもしれない。いわゆるロボトミー手術をしたかのように、意思を持たない人形状態になったのだ。

 王城の牢内で騎士相手に試したクモ膜下への空気注入にしても、ちょうど良い具合に前頭葉が脳内出血で傷ついたのだろう。


「お前、何なんだよ。なんで仲間の俺たちにこんな非道なことをしやがるんだ?」

 頭目は下半身不随になっているものの、アリエルに食ってかかるくらいには元気そうだった。彼女は冷たい目で頭目を見た。そこには恨みや怒りなど特段の感情は無く、無関心な視線を投げかけるのみだった。


 九人目の男には肺の内部に窒素を生み出した。空気圧により肺胞(はいほう)がいくつか傷ついたかもしれない。

 ただ窒素中毒(窒素酔い)には至らず、代わりに真っ青な顔色になってピクピクと痙攣(けいれん)していた。どうやら酸素欠乏症の症状のようだ。


 大広間の中は惨憺(さんたん)たる有様になっていた。

 男たちの全員が下半身不随であり、さらに片目を失った男が二人、脳に障害の生じた男が六人、酸素欠乏症による失神状態(もしかしたらすでに死んでいるかも?)が一人という状況だ。


 アリエルは頭目に対して問い掛けた。

「後ろ盾となっている貴族の家名を言ってもらおうか」

「言えば、許してくれるのか?」

「言わないと確実に死ぬ。それだけだ」

 頭目はほんの少しの時間逡巡(しゅんじゅん)していたが、意を決したように話し始めた。

 それを聞いて彼女は思った。次のターゲットが決まったな…と。


 …


 アリエルはいったん大広間を出て、洞窟内にある牢へと向かった。牢の鍵については頭目が持っていた。

 彼女は牢の扉を開けると、五人の女性たちに向かってこう言った。

「おいらについてきて。あなたたちはすでに自由だよ」

 絶望の表情で焦点の合わない視線を天井に向けていた彼女たちは、徐々に言葉の意味が脳に浸透してきたのだろう。次第に生気が(よみがえ)ってきた。

「え?村へ帰れるの?いえ、あなたのような子供が屈強な盗賊たちを倒せるわけない。もしかして領主様の騎士団が助けに来てくれたのかしら?」

「そうじゃないよ。なにしろその領主こそがこの盗賊団の後ろ盾だからね。まぁ、とりあえずは大広間へ行こう。あなたたちのために生きの良いのを残しておいたからさ」

 『生きの良い』…それは頭目のことだった。彼を下半身不随のみに留めた理由は、この女性たちに復讐の機会を与えるためだったのである。


 大広間へ戻ると、頭目と片目を失った男二人が洞窟の外へ逃げようと、両腕の力だけを使って這いずっていた。匍匐(ほふく)前進である。

 アリエルはすでに死んでいる男の腰から剣を抜き取り、捕らわれていた女性の一人に手渡した。

「こいつらを殺しても良いよ。というか、あなたたちのために殺さずに残しておいたからね。嫌ならおいらが全員を殺すけど…」

 呆然としつつ、受け取った剣を眺めていた女性だったが、つかつかと一人の男に歩み寄ると、何の躊躇(ためら)いも無く男の手の甲に剣を突き立てた。眼球が破裂している男だった。

「ぎゃぁぁぁ」

 激痛に身をよじる男。片手が剣によって地面に縫い付けられている状態なのだが、もう片方の手で両刃の剣身部分を握って、なんとか抜こうと試みていた。

 すかさず女性が剣を引き抜くと、剣身を握っていた指が数本、ばらばらと切断されていった。


「こ、殺さないでくれ。お願いだ。た、頼む」

 必死の形相で命乞いをする盗賊たちだったが、おそらく死んだほうが救いになるのではなかろうか?そう考えるアリエルであった。

 残りの四人の女性たちも勝手に武器を手に入れて、まだ息のある盗賊たちを甚振(いたぶ)っていた。

「あ、こいつら下半身の神経が切断されていて歩けないんだけど、同時に痛みも感じないからね。痛みを与えたいなら上半身を攻撃してね」

 脚や股間部分を剣でめった刺しにしている女性に対して、一応注意しておいたアリエルであった。


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