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055 聖女の事情①

~・~ 聖女視点 ~・~


 喪女(もじょ)だった私は30代半ばで独身(シングル)のまま交通事故死(多分…)したのだけれど、その記憶が(よみがえ)ったのはこの世界における10歳のときだった。

 王侯貴族が治めるこの王国で平民として生まれた私は、容姿に恵まれたことをまずは感謝した。今世ではきっと結婚できるに違いない。そう思ったのだ。

 なにしろ私はとても可愛らしい少女だったので…(自分で言うな)。


 前世の記憶が戻りしばらく()ったあと、私は自分自身の能力(ギフト)に気づいた。いや、気づいてしまった。

 それは『聖光』という能力(ギフト)であり、胸元から柔らかい光を発することができるというものだった。しかし、ただそれだけの能力である。

 魔物を消滅させたり、勇者と共に魔王を滅ぼすようなものでは決してない。なぜなら、この世界には魔物も魔王も存在しなかったので…。

 また、『治癒』というわけでもない。本当にただ光るだけなのだ。

 しかし、教会はこの能力(ギフト)が役立たずとは考えなかった。ううん、役立たずかもしれないけど、『魔を(はら)う』ものであると強弁したのだ。何の根拠も無しに…。


 そして、15歳になった時点で、特例で王都の学院へ通うことになってしまった。本来は貴族だけが通える学び()であるにもかかわらず…。

 私の名前が『エルザ』であり、『聖光』の能力(ギフト)を持つ『聖女』(←これは教会による公式認定)であること。また、(教会の人に聞いたところ)その学院には私と同学年になる人物として、王太子殿下及び彼の婚約者であるラルーシュ侯爵令嬢も通うらしいということ。

 これらの事情を知ったことで、ようやく私は気づいたのだ(12歳にしてようやく…)。この世界が前世でプレイした乙女ゲーム『聖なる乙女と金の王子』(通称『聖金』)ではないかということを。


 ヒロインの名前はプレイヤーが自由に付けられるのだけれど、デフォルトでは『エルザ』であること。さらにラルーシュ侯爵という悪役令嬢の家名…。

 『聖金』の世界である可能性は、もはや100%に近い。

 ただ、この推測に至った私の心境は、『歓喜』…ではなく『絶望』だった。

 ヒロイン転生は勝ち組なのだろうか?いやいや、このゲームにおける主人公(プレイヤー)の扱いは過酷という言葉がよく似合うものである。ゲームオーバーは即、身の破滅に繋がるのだ。


 この乙女ゲームを製作して世に出したゲーム製作会社は馬鹿じゃないの?…などと、ネットでは酷評の嵐だったのである。

 さらに世間の評判として(いわ)く…。


・攻略対象者が金髪イケメンの王太子だけって手抜き過ぎる(タイトル通りではあるが)。

・悪役令嬢が悪役としての仕事をしないせいで、主人公が自作自演しなけりゃいけないっておかしいだろ。

・王太子を攻略して悪役令嬢を断罪しない限り、逆に主人公が断罪、投獄され、最終的には死刑になるって酷すぎ。

・皆ハッピー友情エンドが無いから、主人公にとっては生きるか死ぬかのサバイバルになってる。

・悪役令嬢の末路が胸糞過ぎる(凌辱されたことによる自害って)。

・逆ハーレムエンドが無いのは許せるが、登場人物自体が少な過ぎる。


 ゲームデザイナーは今までにない斬新な乙女ゲームを構想したらしい(ゲーム雑誌の取材によると)。てか、構想だけに(とど)めとけよ、頼むから(…って言いたい!)。

 とにかく、全ての名場面スチルを見るために複数回の周回プレイを(こな)した私だったが、ハッピーエンドは一回だけだった。難し過ぎるんだよ、この(くそ)ゲー。


 …


 教会に行って『聖女』認定の取り消しと学院への通学取り()めを懇願したにもかかわらず、ゲームの強制力が働いているのだろうか、私の意見が聞き入れられることはなかった。

 こうして15歳となった私は仕方なく学院へ入学し、両親と離れて寮生活を送ることとなった。

 入学後は王太子や悪役令嬢との関わりを避けたいと思っていたにもかかわらず、王太子だけは勝手にすり寄ってくる。実に鬱陶(うっとう)しい(もちろん、悪役令嬢との接触はほとんど無かったけれど…)。

 婚約者とは大違いの発育の良い私の胸元が、(走光性を持つ虫の(ごと)く)奴を引き寄せているのかもしれない。


 そうこうしている内に気づいたのだ。

 この王太子って(くそ)(くず)な性格で、かなりの馬鹿ではないかということを。

 他人に自慢できることと言えば、その容姿だけだろう。まぁ、一応イケメンではある。


 ただ、1年生のときは割と平穏だった。馬鹿王太子が私の行くところ行くところへストーカーのように現れることを除けば…。

 2年生になると悪役令嬢が上級生からいじめられているという噂を聞いた。これはゲームのストーリーと同じだったので、特に気にも留めなかった。

 ところが、そのいじめの張本人である男爵令嬢が卒業する間近になって私に接触してきたのである。その内容は驚くべきものだった。何とその女は自分が転生者であることを私に打ち明けたのだ。

 そして、私が学院の最上級生となる最後の一年間で悪役令嬢を(おとし)め、王太子の好感度を爆上げして、卒業パーティーの場で悪役令嬢を断罪しない限り、私に未来は無いということを告げてきた。

 おそらく自分がやった『いじめ』行為が先々発覚することを恐れたのではないかと思う(要するに保身のためだ)。そりゃ、未来の王妃をいじめてたんだから、断罪されて当然だよね。


 これを聞いた私は悩んだ。

 ゲームの世界といえども、ここは現実だ。周りに生きる人たちもNPCノン・プレイヤー・キャラクターというわけではない。アルゴリズムに沿って動作しているプログラムではないのだ。

 ただ、私としても自分の身が可愛い。破滅することが分かっているのに何も手を打たないのは、消極的な自殺ではないだろうか?

 悩みに悩んだ末、ついに心を決めた。そう、自身の破滅を回避するため、精一杯努力することを。

 そして心の中で言い訳した。これはゲームの強制力なのだ、と…。


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