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053 作戦会議

 アリエルたちが帝都へ来てからすでに一か月が経過している。

 現状、かなりの量の情報が彼女たちの元へ集まっていた。ラルフからもたらされた反社情報網(ネットワーク)による情報、エルビスの集めてきた反政府組織や帝国軍の情報等である。

 特に帝国軍についてはすでに大量動員(新兵の徴募及び予備役(よびえき)の動員)が完了しており、現在は彼らに対する訓練を鋭意(ほどこ)しているという状況らしい。なにしろ隣国の革命軍は王国の正規軍である騎士団を打ち破ったほどの精鋭揃いなのだ。

 『勝利』を確信できるほどの準備を十全(じゅうぜん)に整えておくことは兵法の基本だろう。戦いとはそれが始まる前に結果が分かっているものでなければならない。


「帝国軍の動きが遅い理由って、共和国軍の実力を過大に評価した結果だったわけだね。でも私たちが王国騎士団に勝利できたのは、うまく作戦がはまったってだけなんだけどね」

 そう、牢獄襲撃という陽動作戦で騎士団の大半をそちらへ誘引し、手すきの王城へ突入したことで得た勝利なのだ。別に共和国軍が精強な軍隊というわけでは無い。いや、はっきり言えば『張り子の虎』だろう。

「でも警部殿、それで時間を稼げたってのは良かったぜ。ただ問題は、訓練十分な帝国軍の大軍が我が国に押し寄せてきた場合、到底太刀打(たちう)ちできそうにないってこったな。どうする?」

「うん、だからこそ帝都での破壊工作が必要なんだよね。政情不安を(あお)るように画策すれば、他国へ軍隊を派遣する余裕なんてなくなるだろうし…」

 まさにペテルブルグにおける明石大佐の(ごと)くである。帝国政府が国内の治安維持に兵力を()かざるを得ないという状況にするのだ。


「ラルフおじさんは引き続き反社と反政府組織への支援を頼むよ。金貨500枚までなら使って良いからさ。できるだけ帝都の治安を悪化させるようにしてね」

「まぁ、それは既に警部殿がやってることだけどな。一か月で五人もの帝国貴族を殺したその手腕は見事だぜ。さすがは『路地裏に(ひそ)む悪魔』だな」

「へ?何それ?」

 マジで何を言ってるのか分からないという表情になったアリエルだった。


「いや、警部殿が王都の路地裏で三下連中を甚振(いたぶ)っていたときに付けられたあだ名だぜ。あれで堅気(かたぎ)になっちまったチンピラも多かったんだがな」

「あ…」

 アリエルはようやく思い出した。そう、逆カツアゲである。かつての王都で、生活費を得るために路地裏でやっていた行為のことだ。

 エルビスとケイトの視線がジト目気味になっているように感じるのは気のせいだろうか?


「うーん、もっとこう良い感じのあだ名にならないものかな?『路地裏に舞い降りた天使』ってのはどう?」

「どの口が『天使』だなんて言ってんだ?どこからどう見ても『悪魔』だろうが」

 明らかにラルフの意見のほうが正しい。ただ、それを認めることができるかというと、それはまた別の話である。アリエルだって女の子なのだ。いくら『悪』であることを自認している彼女といえども、『悪魔』などとは呼ばれたくない。


「そんなことはさておき、問題は『聖女』の行方(ゆくえ)だね。エルビスお兄さん、どうなの?まだ何も分からないの?」

 あからさまに話題を変えようという意図をもって発言したアリエルである。しかし、これこそがこの国へ来た最大の目的なのだ。『聖女』への復讐が完遂しないことには、アリエルの欲求が満たされることは無い。


「ああ、全く足取りが(つか)めないよ。本当にこの国へ亡命したのかな?その情報こそがガセネタじゃないのか?」

「元・王太子の馬鹿がしゃべったことだから信憑性には難があるってことは認める。でもそれしか情報が無いってのもまた確かなんだよね」

「とりあえず『聖女』のことは置いといて、帝国軍への対処を先にやろうぜ。警部殿の考えも分かるんだが、優先順位ってものがあるだろう?」

 これまたラルフの意見が正しい。どうしても私情に走りがちなアリエルの行動を(いさ)めてくれる彼は、実に優秀な相棒と言えるだろう。


 …


 結局、今回の作戦会議の結論としては、以下の通りとなった。


・ラルフは反政府組織への資金援助及び反社との協調を引き続き行う。

・エルビスは情報収集活動を継続する。

・ケイトはいざというときの保険であり、エルビスのバックアップ。


 そしてアリエルの任務は、パリ共和国への軍事侵攻を強硬に主張している『主戦派』の貴族たちを暗殺することである。どうやら帝国政府内には『主戦派』の中心人物が三人ほど存在するらしい。

 言い換えれば、その三人を排除できれば帝国軍の軍事行動を中止させることができるかもしれないということだ。

 この情報はエルビスからもたらされたものなのだが、極めて有益なものであった。


「帝国政府も一枚岩じゃないってことか…」

「ああ、主戦論を振りかざす『主戦派』と共和国との国交を正常化しようと考えている『穏健派』、あと日和見(ひよりみ)の『中立派』なんかがいるみたいだね。そうそう、エル君が街中で殺した五人の(くそ)貴族って、二人が『主戦派』で三人が『穏健派』だったみたいだよ。どちらも敵対派閥が()ったんじゃないかって、お互いに疑心暗鬼になってるらしい。ちょっと面白いね」

「いっそ内戦でも起こらないかな?いや、そうなるように情報操作できないかな?」

「エル君が『主戦派』の中心人物を殺したタイミングで、『主戦派』の連中を(あお)って『穏健派』貴族への攻撃を誘発させることはできるかもしれないね。そうなればまさに内戦だよ」

「その仕事、エルビスお兄さんに頼めないかな?報酬は金貨100枚で…」

「うーん、できるかできないかで言えば多分できるだろうね。でも、それはさすがに冒険者の仕事じゃないよ。僕は非合法工作員(イリーガル)じゃないからね」

「でもスペード兄妹(きょうだい)の国籍ってパリ共和国だよね。祖国のためにって考えで、やってくれないかな?」

「むむ、痛いところを突くな~。…分かった。情報『収集』だけじゃなく、一度だけ情報『操作』をやってあげるよ。まぁ、エル君が暗殺に成功することが大前提なんだけどね」

 アリエルとエルビスの間で()わされたこの一連のやり取りを(かたわ)らで聞いていたラルフとケイトは内心でこう思った。この二人、嬉々として謀略を(めぐ)らす(さま)は本当に似た者同士だな、と。

 帝国貴族たちが何だか哀れに思えてきたラルフとケイトであった。


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