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049 アジトの制圧

 捕虜となった騎士三名を軽~く尋問したアリエルとラルフだったが、その結果判明したのは(驚くべきことに)彼らが本物の騎士団員であったことだ。ただし、最上位者である騎士団長の命令には従わず、彼ら独自の勝手な判断で行動していたらしい。

 そのような独断専行が許されてしまっている状況こそが、このムルロア辺境伯領の混乱を物語っているとも言える。統制の取れていない軍隊ほど厄介なものは無い。


「それで、集めた財はどうしたの?」

「ふんっ、お前らに渡すわけがなかろう。口が裂けても言わん」

「それじゃ裂いてみようかな?」

 アリエルがラルフに目配(めくば)せすると、彼は躊躇(ためら)うことなく愛用の短刀(ドス)を使ってその騎士の口を横方向へと切り裂いたのであった。このような凄惨な行為であっても、元・任侠のラルフにとっては朝飯前なのだろう。


 口の大きさが二倍に広がったその騎士は、信じられないという表情で目を見開いていた。確かに、比喩表現を真に受ける人間が実際に存在するなどとは普通だったら思わない。

 同席しているエルビスとケイトの兄妹(きょうだい)が顔を(しか)めて見ていたが、彼らとしてもこのラルフの行動を特に(とが)めることはなかった。自業自得と感じているのだろう。

「そっちの人はどう?しゃべる気になったかな?」

 顔色一つ変えず穏やかな表情で語りかけてくるアリエルに対し、恐怖の色を顔に浮かべる騎士たち。

 これまでくぐってきた修羅場の数が違うのだ。まさに役者が違うと言っても過言ではない。

 当然、捕虜が三人もいれば一人くらいは心が折れてしまう人間もいるわけで、すぐに彼らのアジトが判明した。その場所に大量の軍資金(商人から奪った金)が蓄えられているらしい。


 そこは領都の中ではなく、郊外の一軒家だった。留守番役もいるらしいが、この四人の敵ではない。

「あぁ、僕たちは襲撃には参加しないよ。さすがに冒険者としての護衛依頼の範囲を超えるからね」

「うん、それは大丈夫。馬車と捕虜の見張りだけ頼むよ。それじゃラルフおじさん、ちょっと行って共和国政府への寄付を(つの)ってこようか」

「ああ、警部殿。もっとも、やろうとしてることは強盗だけどな」


 苦笑するラルフのことを頼もしく思いながら、アリエルは少しだけ反論した。

「強盗から強盗するのって『悪』なのかな?いや『悪』だとしても、『悪』と『悪』を掛け合わせて『正義』にならないかな?」

「んなわけねぇ。マイナスとマイナスを掛けてプラスって話じゃねぇぞ。まったく」

 こういう軽妙な返しができるところはラルフの長所だろう。アリエルは内心でそう感じていた。良い相棒である。


 …


 家の裏庭からこっそりと建物へ近づき、窓から中を覗き込む二人。

 特に警戒態勢を敷いているという感じではない。武力に自信を持つ者の特徴だろうか。

 最初に覗いた窓からは誰の姿も確認できなかったが、二つほど隣の窓からは部屋(おそらくはリビングルーム)の中にいる複数の人間を確認することができた。三人の男が思い思いの姿勢で(くつろ)いでいたのだが、全く緊張感を感じさせないその様子は襲撃の可能性を微塵も考えていないことを表していた。

 それはそうだろう。彼らにとって自分たちは襲撃する(・・)側であり、襲撃される(・・・)側ではないのだから…。

 ちなみに、騎士の制服(らしきもの)は身に着けていたのだが、鎧などの防具は装備していなかった。


 一通りの窓を確認してみたところ、最初に見つけた三人以外にも二人の男を確認することができた。これは捕虜たちからの情報とも合致する。

「さて、警部殿。襲撃の手順はどうする?皆殺しか?」

「うーん、そうだね。もしもダイヤル式の金庫が使われていたとしたら厄介だから、殺すのは無しで…。家の外から窓越しに奴らが立ち上がれないようにしていこう」

 アリエルとしては彼らを脊椎(せきつい)損傷による下半身不随にしていくつもりなのだ。その後、二人は再度家の周りを気配を消して歩きながら、窓越しにそれを成していったのである。


「それじゃあらためてお宅訪問といこうか。玄関の鍵は?」

「俺がピッキングで開けてやろう。多分、1分もかからねぇ」

「ふふふ、さすがだね。それってチンピラ時代に(つちか)った技術なの?」

「まぁな。あー、でもダイヤル式金庫はさすがに無理だぞ」

 ラルフの言葉通りに玄関の鍵がすぐに解錠され、二人は家の中へと気配を消しつつ侵入した。

 まずは寝室で一人きりで(くつろ)いでいた二名をリビングルームへと集めることにする。


「誰だ!?お前ら」

 すぐに立ち上がろうとしたその男は、下半身が微動だにしないことに焦っていた。その男の武器は手元に置いておらず、丸腰では大した抵抗もできない。すぐにラルフの手によって、ロープで縛り上げられたのであった。

 もう一人の男も同様に処置し、そいつらを引きずってリビングルームへと向かったアリエルとラルフ。いや、非力なアリエルは全く力になれなかったので、実質ラルフ一人で引っ張っていったのだが…。


 ラルフがリビングルームのドアを開けると、その場にいた三人の視線が彼のほうを向いた。そして見慣れぬ人物であったことに驚愕し、即座に立ち上がろうとした。もちろん、立つことはできなかったが…。

 続いて部屋の中へ入ったアリエルがこう宣言した。

「パリ共和国大統領府直属の特別捜査官、ドラド警部である。彼はローレン警部補。この家にある全ての財産を接収するので、ご協力を願いたい」

「なっ、何を?」

「ふざけんな!」

「た、立てねぇ…。何故(なぜ)だ?」

 焦る男たちを一人一人ロープで拘束しながらラルフは思った。なんて楽な仕事だろう。

 そして同時に安堵した。この警部殿の味方で良かった、と。


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