048 騎士団崩れの盗賊団
「私、ローレン商会のラルフと申します。このような場所で臨検とは、いったいどういう訳でございましょうか?」
国境検問所まで約1時間という距離なので、そこまで行ってから臨検すれば良いだけの話である。わざわざ山道の途中で行うことでもない。
「ええい、うるさい。騎士団のやることにいちいち口を出すな。平民は大人しく従っておれ」
「ああ、そうそう。ここまでの道中、盗賊たちが街道脇に潜んでおりましたので、その全員を殺したことについてご報告申し上げます」
「は?え?殺した…だと?」
騎士団の隊長らしき人物が狼狽えている様子は、あまりにも思いがけない情報だったせいであろう。
「ええ、瞬殺でしたね。それで、あなたがたも盗賊団の一味で相違ございませんか?であれば、あなたがたも皆殺しにする所存でございますが…」
「はっ、皆殺しだと?この戦力差で大した自信だな。ちなみに、我らは盗賊団などという不逞の輩では断じてない。ムルロア辺境伯領騎士団というのは真である。お前らのような悪徳商人から金と積み荷全てを徴収するのは正義のためであるぞ」
街道脇に潜んでいた数名が殺されたとしても、この場には20名以上の騎士がいるのだ。圧倒的な戦力差を実感しているのは、この場にいる全員(アリエルたちも…)である。
それにしても強盗という不法行為を『正義』の名のもとに行うとは、厚顔無恥も甚だしい。どうでも良いが、アリエルは自分自身のことを『悪』だと思っている(周囲の人間が下す彼女への評価は、決して『悪』では無いのだが…)。
ここで馬車の中からエルビスが姿を現した。
「僕はSランク冒険者のエルビスという者なんだけど、護衛任務を果たすために君たちを排除するよ。ああ、できるだけ殺したくはないけど、もしも死んじゃったらゴメンね」
これを聞いた騎士たちの間には少なからず動揺が走った。Sランクというのはそれだけ脅威度の高い存在なのだ。
エルビスは左手に弓を、右手には一本の矢を持ち、背中には矢筒を背負っている。ただ、その弓はかなり異様なものだった。黒光りする様子は全てが鉄製であることを示しており、弦も鋼鉄製のワイヤーだった。
矢のほうも木製ではなく鉄でできているようで、恐ろしいほどの質感を放っていた。
アリエルは思った。とても一人の人間の力で引けるような弓じゃない。弩、いやバリスタか。やはりエルビスの能力は『身体強化』に違いない…と。
鉄製の弓がたわんでいるのを見たアリエルは、彼に対して少なからず恐怖を覚えていた。ただ、敵に回すと恐ろしいが、味方であれば頼もしいことこの上ない。
「最終通告だ。降伏すれば良し。降伏しないのであれば攻撃する」
当然、拒否する騎士団の隊長(らしき男)。そして、即座に放たれた鉄製の矢。
騎士たちは横一線に並んでいるわけではなく、街道の幅の制約もあって縦深的に配置されていた。五人で一つの縦列を形成し、それが四列という隊形だったのである。
そのうちの一つの列を構成する全員が一瞬のうちに倒れ伏した。鎧をまとった胸元にはぽっかりと穴が開いている。どうやら一本の矢が五人の胸を鎧ごと貫通したらしい。
いったいどれだけの運動エネルギーなのだろう。極めて絶大なる威力であった。
そして、すでに二本目の矢を番えているエルビスの姿がここにあった。最初の矢を放った一瞬後には、二本目の矢の発射準備がなされていたのである。
「降伏しろ。無駄に命を散らせることは無い」
しかし、隊長らしき人物は無謀にも部下に対して突撃命令を出していた。
「一斉にかかれ。敵は一人だ。飽和攻撃で制圧せよ」
一人じゃないんだよなぁ。アリエルとラルフは内心ほくそ笑んだ。ただ、この二人の出番など全く無かったのである。
エルビスが毎秒1本というペースで矢を放ち、通算で5本の矢を放ったあとに立っていた無傷の騎士は僅か三人だけであった。まさに完勝である。
「出番がねぇよ」
「だね~」
ラルフのぼやきにアリエルが同意していた。
生き残りの三人の騎士は、剣を投げ捨てて両手を挙げている。ようやく降伏する気になったらしい。
縄で縛り上げたあとはこいつらへの尋問だ。盗賊行為の目的や拠点となるアジト、そこに誘拐された子女がいないかなど聞きたいことは山ほどある。
ちなみに、エルビスは矢を回収するために遥か前方へと走り去っていた。どうやら血糊を洗ってから使い回すつもりらしい。まぁ、確かにもったいない…(鉄製の矢なので)。
余談だが、生き残った者以外は全員死亡または重傷だったため、重傷者についてはアリエルが止めを刺している。国境検問所まで連行していくのが大変だからという理由だ。
治療を施したとしても対帝国の戦力としては当てにできない。これはケイトが『治癒』の能力を使って治療してあげたとしても、すぐに全快するわけではないからだ。
アリエルの判断は冷徹ではあるものの、理には適ったものであった。




