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004 盗賊団のアジト

 乗客たちは順番に所持していた金品を提出していった。

 一人の男性の順番になったとき、その男はアリエルを指さし、こう言った。

「こいつを差し出す。俺の息子だ。奴隷として売っ(ぱら)っても構わんぞ」

 馬車に乗った際、アリエルに対して近づくなと暴言を吐いた中年の男だった。もちろん、アリエルはこの男の子供ではないし、なにより息子ではなく娘だ。

 ただ、この状況は彼女にとって好都合とも言える。盗賊団のアジトに連れていかれれば、能力の検証をし放題だからだ。つまり、こいつらを皆殺しにできるということである。

 この場では人目があるし、無関係の御者や乗客を巻き添えにして殺すのは彼女の本意ではない。さすがに良心が(とが)めたのだ。


 アリエルは何の反論もせず、この状況を受け入れることにした。

 それにこの状況ならば、自身の持つ金貨を差し出さなくて済む。なにしろ、浮浪者のような小汚い小僧が金貨を10枚以上持っているのは不自然極まりないからだ。

 ただ、両手を縛られるのは困るので、こう主張した。

「おいらをおじさんたちの仲間にしておくれよ。すばしっこさには自信があるよ」

 盗賊団の頭目は目を(すが)めてアリエルを数秒間見たあと、重々しく頷いた。

「まあ良いだろう。手下が増えるのは歓迎だからな。だが、役立たずは飯抜きだぞ」

 こうして彼女はロープで縛られることなく、彼らのアジトへと連れて行かれたのだった。


 …


 街道を()れて、森の中を徒歩で30分ほど進む。そして到着したのは小さな入口を持つ洞窟だった。

 その入口の前には見張り役の男が所在無さげに立っていた。

「お(かしら)、おかえりなさいやし。首尾はいかがでしたか?」

「ふん、まぁまぁかな。おい、こいつは新入りだ。中を一通り案内してやれ」

 アリエルはぺこりと頭を下げておいた。一応の礼儀である。


「こりゃまた小汚ねぇ小僧を拾ってきやしたね。まぁ良いや。お前こっちに来いよ。うちの給与体系、労働環境、福利厚生等を説明してやるよ」

 …って、どこの会社だよ。心の中でツッコミを入れたアリエルだった。

 洞窟の中はかなり広かった。しかも明かり取りと空気穴を兼用しているのだろう、いくつかの穴が上の方に開いているのが確認できた。

 中は薄暗いが、目が慣れさえすれば特に生活に支障をきたすことはないくらいの暗さだった。


「おい、美味(うま)そうな小僧を連れてきやがったな。よぉ小僧、今夜はお前のケツ穴を貸せや」

 どうやら男色家もいるようだ。いや、アリエルは女性なのだが…。

「お(かしら)が連れてきた小僧だぞ。やめときな。殺されるぞ」

「じょ、冗談に決まってるだろ。本気にすんなよ」

 どう考えても本気の口調だったのだが…。この男には特に警戒が必要かもしれない。


 入口からは直通の通路を通って大広間に到り、そこからさらに枝分かれした道がいくつも延びていた。

 一通り案内してもらったアリエルは、最後に訪れた牢のような部屋で胸糞悪くなるような光景に出くわした。

 そこにはぼろぼろの衣服、いや布切れを身に着けた五人の若い女性が捕らわれていたのだ。全員が焦点の合っていない目でぼんやりと虚空を眺めていた。

「この人たちは?」

(さら)ってきた女たちだ。俺たち全員で一通り楽しんだあとだけどな。んで、これから奴隷商人に売り払う予定だ。ん?もしかしてお前もやりたいってか?ませてやがるな」

 そんなわけないだろう。そう思ったが口には出さず、微笑むに(とど)めておいたアリエルであった。

 それにしても、ここにいる全員を皆殺しにする予定だったのだが、予想外の事態である。

 いや、この女たちも一緒に殺すか…。そのほうが彼女たちにとっても幸せかもしれないしな。そのような思考に到達するのは、アリエル(特に前世)の人格が壊れている証拠なのかもしれない。


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