035 最終決戦②
エルビスは驚愕していた。
『絶対防御』の能力を持つロブ、『水操作』の能力を持つウルドが瞬く間に倒されたのだ(生死不明だが…)。この二人は(その性格はともかくとして)最強のコンビと言っても過言ではない。『剣技』の能力者であるカイル(かつてのパーティーリーダー)がいなくても、その実力はかなりのものなのだ。
二人が倒されたときの状況は不可解なものだった。
絶世の美女を背におぶった状態の中年男性がダッシュで近づいてきたかと思えば、あっという間に二人が倒れ伏したのだ。どうやって倒されたのか、その方法すら分からなかった。
相手の手の内が読めないのはとても恐ろしい。
すぐに矢が降りそそいできたのを確認したエルビスは、妹のケイトを抱きかかえて『身体強化』を発動し、後方のバリケード付近まで一瞬で移動した。
ケイトには瞬間的に強大なG(加速度)がかかったはずだが、背に腹は代えられない。
それにしても、あの美女はいったい誰なんだろう?
足が悪くて、歩けないのだろうか?いや、ここまでの戦闘で負傷したのか?
ロブとウルドを殺したのはあの中年男性なのか?それとも美女のほう?
エルビスの脳裏には様々な疑問が渦巻いていたが、今考えるべきは自らの進退である。あくまでも護衛依頼を完遂するのか、それとも革命軍に投降するのか…。
彼の『正義』に照らせば、王城に乗り込んできた民衆は人様の家に勝手に上がりこんできた強盗であり、盗賊団と同じである。
王家には王家の『正義』があり、民衆にも彼ら独自の『正義』があるのかもしれない。それは理解できる。正義とは相対的なものだからだ。
しかし、現状の変革に『暴力』を用いるというのは、日本人の記憶を持つエルビスにとって受け入れることのできない考え方であった。ゆえに、革命軍へ投降することをいったんは保留したのである(ただし、勝ち目の無い状態に陥るようなことになれば、あっさり降伏するつもりではあったが…)。
…
鎧と盾で武装した民衆が横一列に並び、ゆっくりと前進する。
その後ろからは剣や農具(鍬や鋤など)を持つ民衆が大勢続いている。数百人はいるだろうか。
もちろん、その中にはアリエルとラルフの姿もあった。なお、アリエルはすでにラルフの背から降りている。
奥のバリケードの前には、たった一人、エルビスだけが立っていた。妹のケイトはバリケードの内側に退避させている。
そのエルビスがワインドアップモーションで何かを投擲した。日本で野球でもやっていたかのような美しいモーションだ。そしてそれは、目視で軌道を追うことすらできないほどの速度で投げられた鉄球だったのだ。
こちら側の盾に命中してゴーンと鈍い音を立てる鉄球。吹き飛ばされる複数の民衆。鉄球の大きさは野球ボールくらいだろうか。
直径は約7cm半、重量は(硬式野球ボールの約150gとは大きく異なり)なんと14kgもあった。それを時速にして250km/hほどの速度で投げ込んでくるというのは到底人間の力とは思えない。
秒速で言えば約70m/sであり、彼我の距離が50m程度と考えると、到達まで0.7秒を要する。野球であれば、150km/hの速度で投げられたボールはホームベースまで0.4秒で到達する。それを考えると、ほぼ倍の時間を要しているのだが、それでも避けることなどできようはずもない。
ちなみに、運動エネルギーを計算すると約34kJにもなる。これは20mm機関砲から発射される砲弾の4~5割増しのエネルギーである。そこから、この鉄球攻撃の威力が容易に想像できるであろう。
「何だありゃ。奴の能力は何なんだ?てか、さすがはSランク冒険者と褒めるべきか?」
「ラルフおじさん、呑気なことを言ってんじゃないよ。あいつはエルビスという名の冒険者なんだけど、どういう能力持ちなのかは調べても分からなかったんだよね。何となく『身体強化』っぽいんだけど…」
アリエルの推測は正解である。
ただ、鉄球が投擲されるたびにこちらの最前線が崩壊していくというこの状況は、相当まずい。
幸いなことにまだ死傷者は出ていなかったが、万が一盾で防げなかった場合、その鉄球は容易に頭部や四肢を吹き飛ばすことだろう。そして、その可能性は刻一刻と高まっていたのである。




