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034 最終決戦①

 先行している民衆の一人が廊下の右側、最奥にある部屋の扉を開けたときのことだった。

 部屋の中から飛び出してきた透明な槍のような細長い物体がその男の身体を貫通した。すぐに引き抜かれた槍(のようなもの)は鮮血に染まり、真っ赤な棒状の物体と化していた。

 すぐさま盾を構えた男たちがその部屋の前に集まり、真っ赤な棒(状のもの)を牽制しながらその男を後方へと移送した。腹部を刺し貫かれたその男は、即死ではなかったものの重傷だ。


 その棒(状のもの)はいったん部屋の中へと引っ込んだようだが、いつ飛び出してくるか分からない。これこそが『巨大魚(バハムート)』のメンバーの一人であるウルドの攻撃であった。

「ありゃ、水の魔法か?厄介な…」

「ラルフおじさん、あれは『水操作』だよ。Sランクパーティーのメンバーの中にそういう能力(ギフト)を持った人がいるらしいんだよね」

「だが所詮は水だよな。鉄製の盾は貫けないと考えて良いのか?」

「うん、多分ね。でも蛇のように曲線軌道で迫ってくるかもしれない。盾を回り込まれるとヤバいね」

 『水魔法』では水そのものを生成できるが直線的な攻撃しかできない。しかし『水操作』では既存の水を使わないといけないという制約はあるものの、それを自由自在に操ることができるのだ。

 要するに、アリエルのこの意見は正鵠(せいこく)()ていたのである。


 近衛騎士団の騎士たちからはぎ取った鎧を着こみ、盾を構えた民衆がその部屋の前に集結する。生身であれば貫ける水の槍であっても、鎧であれば貫くことはできないはずだ。

 さらにその後方からは弓矢を持った民衆が続く。彼らは(生業(なりわい)として獣を狩る)狩人であり、その弓矢の技量はかなりのものであった。

 その後ろに続くのがアリエルとその護衛のラルフである。『巨大魚(バハムート)』の前衛がこちらの前衛に近づいたとき、アリエルの能力を使って殺すために備えているのだ。


 踏み込んだ部屋の大きさはかなりのものだった。アリエルの感覚では小学校の講堂(体育館)くらいの広さはあるだろうか。天井も(体育館並みに)高い。

 奥の方には家具を積み上げたバリケードのようなものがあり、その後方には人影が見え隠れしている。おそらく、あれが王族連中だろう。

 左側面にはずらっと窓が並んでおり、外から射し込む午後の日の光が部屋の中へ十分な明るさを供給していた。


 部屋に入ってすぐの所に大盾を構えた大男が立っていた。アリエルにも見覚えのある男だった。

 パーティーの盾役(タンク)(にな)う男であり、(事前の調査によれば)『絶対防御』という効果不明の能力(ギフト)を持っているらしい。

 彼こそが『巨大魚(バハムート)』の現在のパーティーリーダーであるロブだった。


 そのロブの斜め後方に魔法使いっぽい格好の(なま)めかしい女性が杖を構えていた。なお、この杖は近接戦闘用の武器であり、魔法の発動補助という役割は無い。

 先ほど革命軍の一人に重傷を負わせた水の槍による攻撃は彼女の仕業(しわざ)である。その彼女の目の前には水の入った桶が置かれており、その水はすでに(被害者の血によって)赤みを帯びていた。

 なお、彼女の現在の立ち位置から考えると、水の操作範囲は10m程度はあると推測できる。


 最後方にはローブを羽織った可愛い系の女性が待機していた。彼女は『治癒』の能力(ギフト)治癒師(ヒーラー)を担当するケイトという女性だ。

 その女性を守るように立っているのがエルビスである。アリエルと同じ転生者であり、能力者(ギフテッド)でもある。ただ、彼だけは事前の調査でもその能力が分からなかったのが痛い。

 相手の手の内が分からないというのは、非常に危険なことだと言えよう。もちろん、だからと言ってここから引き返すわけにはいかないが…。


 先手必勝とばかりに、狩人たちが一斉に矢を放った。ところが、雨あられと降りそそぐ矢は空中の一点で静止し、その場で垂直に落下した。まるで透明な壁でもあるかのようだ。

「見えない障壁(バリア)?!てか、あのでかい盾って飾りかよ。ねぇラルフおじさん。おいらをおんぶして、あの大男の目の前まで走れる?」

「そんなのお安い御用だぜ。てか、何か策があるんだろうな?」

「試してみないと分からないけどね。水の槍がこっちの誰かを攻撃したあと、(おけ)の中へいったん戻るはず…。その瞬間、走り出して!」

 そう、アリエルとしては自らが矢面(やおもて)に立つ気は全く無いのである。(おとり)となった他者が負傷しても特に痛痒(つうよう)を感じないが、自分(及びラルフ)が攻撃されるのは避けたいと思っているのだ。相変わらず非道な考え方を堅持している利己的な性格ではあるが、これこそが前世の記憶が甦ったアリエルの本質であると言えよう。


 薄い赤色(もしくは、ピンク)の水の槍が再び動き始めた。いったんは高く天井の方へと噴き上がった水は、前衛の人員(鎧を着て盾を構えた人々)を越えて、彼らの背後にいる狩人たちへと襲いかかった。ただ、滞空時間(制御可能時間)はそれほど長くないようで、狩人を二人ほど絶命させた水は再び桶の中へと戻り始めた。

 その瞬間、アリエルを背負ったラルフが前方へとダッシュした。一瞬でロブの目の前まで到達した二人。ロブやウルドの驚いている顔が(ラルフの背中越しに)アリエルには確認できた。

 おそらくこの瞬間、不可視の障壁(バリア)は存在しないはずだ。なぜなら水が桶へと戻るためには障壁(バリア)が邪魔だからである。

 すぐさまアリエルはロブとウルドの息の根を止めるべく、心臓付近の大動脈内に空気を生成した。もはや熟練の(わざ)と言っても良いだろう。息をするように心停止させることができるようになっているアリエルであった。


 胸を押さえてその場に倒れ伏すロブとウルド。特に見せ場もなくあっけなく死ぬとは雑魚(ざこ)っぽいが、決してこの二人が弱いわけではない。アリエルとの相性の問題だろう。

 そして、仲間がやられた報復とばかりに矢を放つ狩人たち。まだ敵は残っているのだ。

 その瞬間、エルビスの姿が消え失せた。いや、消えたように見えたが、あれは瞬間移動だろうか。妹であるケイトをお姫様抱っこしたエルビスが、はるか後方のバリケードの前まで一瞬で到達していたのである。


 矢はエルビスとケイトの立ち位置を狙ったものだったが、何本かはロブやウルドの死体にも突き刺さっていた。いわゆる死体蹴り(オーバーキル)である。

「おい!俺たちに当たるだろうがっ!危ねぇなぁ」

 ラルフが狩人たちに文句を言っていたが、アリエルも同感である。

 ただ、そんなことよりも、この場における最大の懸念事項はエルビスの能力だった。あれは瞬間移動(テレポーテーション)だろうか?

 だとしたら、相当厄介な能力であり、アリエルとは極めて相性が悪い。彼女の能力が及ぶ範囲はたったの5mしかないのだから…。


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