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027 ファイナルアタック

 Sランクの冒険者パーティー『巨大魚(バハムート)』の幌馬車は全速力でラルーシュ侯爵の一行を追いかけていた。しかし、半日の遅れを挽回することなど到底できず、依頼者との合流は次の宿場町でということになりそうだった。

「くそっ、くそっ、さっきの騒動はいったい何だったんだ?どうして依頼人は俺たちを置いて行っちまったんだ?」

 御者を務めるエルビスは荷台で(わめ)いているリーダーのカイルの愚痴を聞き流しながら、冒険者ギルドで出会った少年のことを考えていた。彼の仕業(しわざ)だろうか?いや、まさかな…。

 そう、その少年とはアリエルのことである。


 アリエルのほうは自身の両親であるラルーシュ侯爵夫妻の殺害という目的を達成したため、馬を駆って王都へと急いでいた。残りの使用人たちを皆殺しにするほど、彼女の心は壊れていなかったのである。

 当然、街道上で『巨大魚(バハムート)』の幌馬車とすれ違うことになった。

 しかし、双方ともにかなりの速度で馬を走らせていたため、一瞬ですれ違うだけで終わった。エルビスは馬上にあるエルという少年の姿を確認していたのだが、幌馬車を停めることはなかったのである。

 ただ、嫌な予感が胸の(うち)に湧き上がっていた。なぜエル君が前方から来たのか…。


 そして、ようやく到着した宿場町で彼らは絶望を味わうことになる。つまりは護衛任務の失敗という絶望を。

 彼らが(まも)るべきラルーシュ侯爵夫妻が何者かによってすでに殺害されていたのだ。これは(Sランクの冒険者としては)あり得ない失態と言えるだろう。


「こいつら勝手に死にやがったのかよ。俺の輝かしい経歴に傷を付けやがって、どうしてくれるんだ?」

 カイルのこの発言は残された使用人たちにとっては、到底許せるものではなかった。だが、使用人たちにしても(おのれ)の主人を守れなかったのは同じであり、冒険者たちを非難することなどできなかったのである。

「とにかく、ここはいったん王都へ戻ったほうが良さそうだ。ギルドへの報告もある」

「失敗の報告なんぞお前らで勝手にやっておけ。俺は行かんぞ」

 カイルだけ別行動になることが決まった瞬間であり、これこそが彼の運命を決定づけた瞬間でもあった。


 …


 その日のうちに王都へ帰還したアリエルは、宿屋に泊まって十分な休息を取ることができた。そして、その翌日の早朝から門の近くで張り込みを行うことにした。

 冒険者パーティー『巨大魚(バハムート)』の帰還を待っていたのである。

 彼らの幌馬車が入街検査を受けるために停車しているのを発見したアリエルは、王都内へ入ってきた彼らをこっそりと尾行し始めた。街の中の通りには速度制限があるため、徒歩でも何とか追いかけることができたのである。

 ある宿屋の前で停まった馬車から金髪の男性が一人だけ降りてきた。そして、そのまま馬車は走り去っていった。リーダーのカイルだけを降ろし、残りのメンバーは冒険者ギルドへと向かったのだ。


 アリエルはほくそ笑んだ。

 市民革命の障害となる(かもしれない)Sランク冒険者を殺害する絶好の機会が訪れたのだ。ちなみに、彼に対する恨みは特にない。以前、冒険者ギルドで邪険にされたくらいである。

 宿屋の中へ入ったアリエルは目の前にカイルが仁王立ちしているのを見て驚いた。どうやら尾行に気づかれていたらしい。


「おい、小僧。俺様に何の用だ?ん?ちょっと待て。お前、まさか女か?」

 骨格から判断したのであれば流石(さすが)というほかない。

「女であるならば話は別だ。俺様の部屋へ来い。詳しく用件を聞いてやろう」

 好色そうな顔で、アリエルの右手首を掴んだカイルはそのまま二階の部屋へと歩き始めた。彼女としてはこの場ですぐに殺しても良かったのだが、人目につきたくはなかったため、大人しく引っ張られていった。


 部屋の中へ入ったカイルは彼女をベッドの上に放り投げたあと、ドアの前に立って逃げ道を(ふさ)いだ。

「服を脱げ。下着も含めて全てだ。よく見れば可愛い顔をしてるじゃねぇか。俺様が可愛がってやるよ」

「あんたはいつもこんなことをしてるのかい?」

「ああ、俺様の容姿はかなり(すぐ)れているからな。女なんてすぐに釣れる。で、さんざん楽しんだあとは、スラム街に捨ててくるのさ。そうすりゃあとはスラムの奴らが適当に処分してくれる。まぁ、生き地獄は味わうだろうがな」

 なるほど、相当な(くず)野郎ってことか。今までどれだけの女性が犠牲になったことだろう。

 アリエルは少しだけあった罪悪感がすっかり消え失せたことを自覚し、爽快な気分になった。そして当初の予定ではすぐに心臓を止めて苦しませずに殺してやろうと思っていたのだが、その予定を変更した。


「あんたは死んだほうが社会のためだね。まぁ、すぐには殺さないよ。あんたにも生き地獄ってやつを体験させてやろう。どうか殺してくださいって懇願するようになるまでね」

 そう言うと躊躇なくカイルの脊椎(せきつい)を上下に分断し、下半身不随にしたアリエルだった。

 カイルはその場にへなへなと崩れ落ち、何が起こったのか分からないという顔になっていた。彼の持つ『剣技』の能力(ギフト)など、発揮する(いとま)もなかったのである。


 …


 数時間後、『巨大魚(バハムート)』のメンバーは王都で定宿にしているこの宿屋へと帰ってきた。

 そして、なかなか部屋から出てこないカイルを不審に思い、彼の部屋のドアを開けたメンバーが見たものは凄惨な殺人事件現場だった。


 死体の両目は失われ、眼窩(がんか)がぽっかりと空洞になっている。

 顔には多くのイボが出来ており、イケメンだったかつての美しい(かんばせ)は見る影もない。

 両手の指先の爪は10個とも全てめくれ上がっており、拷問が加えられたことが分かる。

 部屋の中には吐瀉物(としゃぶつ)がまき散らされ、すえた悪臭を放っていた。


 『巨大魚(バハムート)』のメンバーであるロブ、ウルド、エルビス、ケイトの四人は部屋の入り口付近に立ち尽くしていた。

 『剣技』の能力者(ギフテッド)であるカイルが殺されるとは…。全員が信じられない思いで、身体を硬直させていたのである。


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