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026 セカンドアタック

 Sランクパーティー『巨大魚(バハムート)』では、リーダーのカイルを始めとして、メンバー全員がかなり焦った精神状態へと(おちい)っていた。

「このままじゃ護衛に失敗しちまう」

 鑑識課員による検視が済むまで騎士たちの死体はその場から動かせない。馬車でひき潰していくわけにもいかないのだ。

「カイル、ここは別の門へ回ろう。遠回りにはなるが、ここで待っていても(らち)が明かない」

「う?うむ…。そうだな。いや、待て。やはり、ここが通れるようになるまで待ったほうが早いはずだ。うん、きっとそうだ」

 幌馬車の御者を務めるエルビスの提案は、カイルによって却下された。これにより半日程度の遅れが生じたのは、結果論とはいえ痛恨のミスだった。


 その頃、アリエルはあらかじめ用意していた馬で別の門へと向かっていた。元・侯爵令嬢ではあるが、乗馬の(たしな)みは貴族としての必須技能でもある(この国では…)。

 ラルーシュ侯爵家の一行に近づき過ぎるのもまずいので、ゆっくりと馬の歩を進めるアリエル。目的地は分かっているのだから、尾行は容易だ。

 これで奴らが冒険者たちと合流する前に、彼女の目的を達成するのである。最寄りの宿場町に着いた頃が次の襲撃のチャンスだろう。懸念があるとすれば、それまでに冒険者たちの馬車が侯爵夫妻の一行に追いついてくることくらいだ。

 そうなったら、また襲撃のタイミングを調整しよう。侯爵家の領地まではまだまだ距離があるので、襲撃のチャンスなどいくらでもあるのだから。


 宿場町には貴人が泊まれるような大きな宿があり、侯爵夫妻と使用人たちはそこへ向かった。暗殺者から(のが)れられたという安堵の感情が全員の表情に表れていた。

 すでに護衛の騎士は三名に激減していたが、殿(しんがり)を務めていた騎士六名と冒険者たちが追いついてくれば、護衛の戦力的には十分だろう。もちろん、騎士六名がすでに死亡していることなど知る(よし)もなかったのだが。


 大人数が一度に来たため、宿の中はバタバタしている。アリエルがこっそりとその中に紛れても目立つことはないだろう。

 ちなみに、もしも誰何(すいか)された場合はその相手を躊躇なく殺すつもりだったが、誰にも見咎められることはなかった。そうして宿の奥にある豪華なVIPルームに侯爵夫妻が入っていくのを確認できたのだった。

 宿の支配人らしき偉そうな初老の男性が侯爵夫妻の泊まる部屋から出てきたのを見たアリエルは、するっとその部屋の中へと入っていった。そこには応接セットのソファに座って寛いでいる侯爵夫妻と二人の侍女の姿があった。この侍女たちは護衛も兼任している戦闘侍女(バトルメイド)だろう。

 余談ではあるが、王都のタウンハウスで冷遇されていたアリエルは、この二人の侍女に見覚えがあった。ことあるごとにアリエルに対するいじめを繰り返していた二人だった。


 躊躇(ためら)うことなく、まずは侍女二人を即死させた。次いで、母親も…。

 アリエルにはこの母親から愛情をそそいでもらったという記憶が全く無い。彼女が愛していたのは息子(アリエルの兄…すでに死亡)だけだったからだ。

「大きな声を出さないように…。でないと殺すよ」

「お、お前は何者だ?こ、こいつらを殺したのか?いったいどうやって?」

 ラルーシュ侯爵はパニック状態に(おちい)っていた。それはそうだろう。部屋の中にいた人間が自分以外全て倒れ伏しているのだ。気絶なのか死んでいるのかは判断できなかったが…。


「声を聞いても分からないとは、見下げ果てた奴…。やはり生きている価値は無いね」

 アリエルは顔も隠していないのだ。これで彼女のことを娘だと認識できなければ、どれだけ興味が無かったのかが分かるというものだ。

「ま、ま、まさか、お前はアリエルなのか?誘拐されたはずじゃ…」

「誘拐されたわけじゃないよ。牢番を殺して自力で脱獄したんだよね。あと、王都で頻発している貴族殺しの犯人も私だから…。最終的にこの国の王族と貴族を皆殺しにする予定だよ。もちろん、お前も殺害対象の一人だし、糞兄を殺したのも実は私なんだ。くっくっく、驚いた?」

 この言葉を聞いたラルーシュ侯爵の顔が驚愕と絶望に染まった。


「ま、まさかお前の能力なのか?役に立たない『空気生成』だったか…。そんな能力でどうやって人を殺せるんだ?」

「大正解。心臓近くの血管内や頭の中に空気を生成するんだよね。ちなみに、こういうこともできる」

 侯爵の眼球の一つが破裂した。

 部屋の中に絶叫が響いたが、さすがはVIPルームである。防音も優れているようで、誰かがやってくる気配は無かった。

 さらに指の爪を剥がし、鼓膜を破る。

 恨みを抱いた相手の身体を少しずつ壊していく行為というのは、アリエルにとって快楽以外の何ものでもなかった。


「も、もう()めてくれ。いや、()めてください。これまでのことを謝罪する。いや、謝罪しますから…」

 ラルーシュ侯爵が床に()(つくば)って土下座の体勢をとっている。彼女はそれを冷ややかな目で見下ろしていたが、当然のことながら『許す』という選択肢は存在しない。


 …


 別の使用人が外から部屋のドアをノックしたのだが、何の応答もないことを不審に思い、入室してきたのはこの騒動の数時間後のことだった。

 当然、そこにアリエルの姿は無かった。これにて彼女の目標の一部は達成されたのである。


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