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022 次なる一手

「騎士の旦那がた、このエルって野郎はその日のその時間、(わし)らと一緒だったぜ。間違いねぇ」

 『エドワーグ・ファミリー』の元締めである初老の男性がそう証言した。これは嘘ではない。ただし、一緒にいた場所はこの建物ではなく、野外舞踏会の会場だったのだが…。

「ふーむ、そうなると告発者の証言は虚偽であるという可能性が生じるわけか。まぁ、報奨金欲しさに罪を捏造(ねつぞう)する奴もいるしな」

 騎士の隊長らしき人物の言葉だ。誣告(ぶこく)(故意に事実と反することを告げること)が生じるのは密告制度の恐ろしいところでもある。もっとも、アリエルもこの元締めの男性も(まぎ)れもなく今回の事件の犯人なのだが…。


「ねぇ、おいらのアリバイが証明されたのは良いとして、密告で捕まった人ってどのくらいいるの?そのくらいは教えてよ」

「うむ、こうして手間を取らせた()びと言っちゃなんだが、ここからは俺の(ひと)(ごと)だ。小さな商店主から大店(おおだな)(あるじ)まで結構な人数が牢に入っているみたいだな。まず間違いなく、商売(がたき)からの密告だろうが…」

「密告じゃなくて告発でしょ?でもそっか、無実の人でもアリバイが無けりゃ捕まっちゃうんだね」

 逆に本当は犯人なのに捕まっていないアリエルと『エドワーグ・ファミリー』の者たち…。世の中は理不尽で満ち溢れているのかもしれない。


「もしかして王都の経済活動にも支障が生じるんじゃないの?政府としてはそれで良いの?」

 アリエルの質問に隊長っぽい騎士はこう答えた。

「知らんよ。俺たちゃ上からの指示に従うだけさ。命令に従わなけりゃ抗命罪だしな」

「ふーん、騎士ってのも大変なんだね。ちょっと同情するよ」

 今回の『殺戮(さつりく)の舞踏会』事件でもかなりの数の騎士が死んでいるのだ。アリエルにとっては国家権力に従う者もまた自身の敵なのである。

 なので、彼らに本心から同情しているのかどうかは定かではない。


 …


 五名の騎士たちが帰ったあと、アリエルはファミリーの元締めに対して指示を与えた。

「次は牢獄の襲撃かな?今回くらいの人数を集めることができれば、十分にやれると思うけど…」

 フランス革命でもバスチーユ牢獄の襲撃がその始まりだったと言われているのだ。王都にある牢獄には、共和主義者たちも政治犯として大勢捕らわれているかもしれない。

 それに、もしも民衆による襲撃で牢獄が陥落した場合、王国政府としての権威が失墜することは間違いない。


「まぁ、牢獄内にはうちのファミリーの(もん)も結構入ってやすしね。今回の成果を踏まえて、他のファミリーの奴らも巻き込むことができるかもしれやせん。とにかく、綿密に計画を立てて、準備に時間をかけやしょう」

 そう、野外舞踏会の時とは異なり、次は襲撃の時期をアリエルたちの都合で決めることができるのだ。それに牢獄襲撃ともなると民衆の蜂起という情報を隠蔽することができなくなる。

 牢獄を落としたあとは、その足で王宮へ雪崩(なだ)れ込むくらいの計画が必要になるだろう。


「鉄は熱いうちに打て、兵は神速を(たっと)ぶだよ。あまり時間をかけると革命の機運が下火になるかもしれない。できるだけ早く準備してね」

「へい、承知しやした。てか、良い言葉ですな。どこの偉い人の言葉ですかな?」

 『鉄』のほうは前世の(ことわざ)であり、『兵は神速』のほうは、たしか三国志が出典だったような気がする。アリエルも実はよく覚えていなかった。

 なので、その質問はスルーして、こう指示するに(とど)めておいた。

「とにかく、牢獄を襲撃したあとは、その勢いのまま王城へ向かうよ。国王たち王族を捕縛して、王制を打倒する。革命のときは今!そういう気概で頼むね」

 別に彼女は革命家ではない。ただの復讐者なのだが、あたかも市民革命の主導者のように振る舞っていた。これは全て、彼女自身の復讐を()げるがためである。


 …


 アリエルはこの王都にある冒険者ギルドへ行ってみることにした。実は、まだ顔を出したことがなかったのだ。

 予想に反して、ギルドの建物内は閑散としていた。依頼の貼り出された掲示板を見ると、早朝であるにもかかわらずポツポツと依頼書が貼られているのみであり、これがいつもの光景なのかどうか、初めて訪れた彼女にとっては判断ができかねる状況だった。

 実はこのところ、王都民はあまり出歩かず、知り合いから密告されないように家の中でひっそりと息を(ひそ)めていることが多い。したがって、必然的に冒険者ギルドへの依頼も少なくなっていたのである。


 彼女は受付の一つに近づくと、自身の身分証(Fランク冒険者であることを示すカード)を提示しながら質問してみた。

「エルという新人冒険者です。ここって、いつもこんなに依頼が少ないの?」

「おはようございます。いいえ、いつもは多くの依頼書が貼り出され、多くの冒険者たちが依頼の争奪戦を繰り広げていますよ。エル君は王都に来たの、初めてかしら?」

「うん、別の街で冒険者登録して、最近王都にやってきたんだよ。依頼が少ない理由って何?」


 美人の受付嬢は、悩ましげな表情になったあと、小声でこっそりと教えてくれた。

「大きな声では言えないけど、王宮から発布された施策による影響ね。皆、家に引きこもっていて、依頼を出せるような状況じゃないのよ」

 アリエルの予想通りの回答である。やはり密告制度の弊害は大きい。


 なお、彼女が冒険者ギルドに来た理由だが、できれば強い手駒が欲しかったのだ。

 冒険者の戦闘力というのは決して(あなど)れない。できれば彼ら彼女らの能力を体制側との戦いにおいて活用したいところである。

 とは言っても、『王国軍との戦闘』という依頼を出すことはできない。どうすれば冒険者たちを反体制側に組み込めるだろうか?


 いや、逆に冒険者たちが王国側についた場合、民衆の側に多くの犠牲者が生まれるかもしれない。最低でも中立、できれば味方に…。冒険者とは革命におけるキーパーソンとなる可能性が高いのである。

 もちろん、どんなに強い冒険者であろうがアリエルの敵ではないのだが…。


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