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021 密告

 王宮内にある国王執務室、執務机に座っている国王陛下とその目の前には直立不動で立つ宰相の二人がいた。

 国王は不機嫌そうな雰囲気を隠そうともしていない。というのも、今回の野外舞踏会の顛末について、今まさに宰相から報告を受けたからである。


「今回の不手際について、全てそちのせいであるぞ。どう責任を取るつもりだ?」

 宰相は内心で『この愚王め』と思いながらも、表面上は恐れ入ったという(てい)で発言した。

「会場には貴族と騎士の死体しかなく、何が起こったのかは鋭意捜査中でございます。ただ、死因が心不全ではなく、斬り殺された者ばかりだったことから考えると、例の暗殺者ではない可能性は高いかと…」

 なお、民衆の死体も現場には生じたのだが、それらは全て仲間たちの手で回収され、すでに荼毘(だび)に付されていたのだ。これにより襲撃者の痕跡は全て消し去られ、犯人の特定が非常に困難になっていた。

 もしも貴族と騎士に生き残りがいさえすれば、大勢の暴徒による襲撃であると分かったのだが、なにしろ皆殺しだったのである。この惨劇を証言できる者など一人たりとも存在しなかったのだ。


「被害者の詳細につきましては、こちらの報告書をご一読いただきたくお願い申し上げます。下位貴族の中には、後継者不在により断絶する家もかなりの数に(のぼ)る模様です」

 渋面で報告書をめくっていた国王陛下がある記述に目を止めた。

「これはラルーシュ侯爵家の嫡男ではないか。あの『治癒』の能力者(ギフテッド)を失ったのは痛いな。嫡男ではなく、ラルーシュ侯自身が出席すれば良かったものを」

 王族を一人も出席させなかった奴がよく言う。宰相は内心のいらだちを抑えるのに苦労した。保身のためにも、この愚王に反抗的な態度を見せてはならないのだ。


「ラルーシュ侯爵家はご令嬢に続いてご嫡男も失ったわけでございますな。ご親戚などから養子を取らないと、将来的には断絶の恐れもございます」

「うむ。()の家の令嬢については我が愚息のやらかしによるものだがな。彼女の行方はまだ判明せぬのか?」

「はっ、誘拐犯からの身代金要求も無いようにございます。もちろん、ラルーシュ侯が犯人からの接触を秘匿しているという可能性もございますが…」


 国王陛下は腕組みをして沈思黙考したあと、突然晴れやかな表情になり、こう発言した。今日初めてのことだが、眉間の皺も消えていた。

「良いことを思いついたぞ。密告だ。密告制度の復活を城下に布告せよ。王都の民たちによって今回の犯人、及びこれまでの貴族殺しの犯人を密告させるのだ。そうよの、報奨金は金貨10枚でどうか?」

 過去にも密告制度はあったのだが、現在は取りやめになっている。それを復活させようとする国王陛下であった。


「その制度の弊害をご存知であるのならば、私から反対は致しませぬ。しかし、報奨金は金貨100枚程度にすべきかと…」

 隣人を信じられなくなるのだ。王都民の経済活動などが低調になり、国内総生産(GDP)が低下することになるのは避けられないだろう。

 アリエルにとって、いや共和主義者にとっても最大のピンチが訪れようとしていた。


 …


「この宿にエルという少年冒険者が泊まっているだろう?(すみ)やかにその部屋の鍵を渡せ」

 アリエルが宿泊している宿屋に騎士の一団が乗り込んできたのは、密告を推奨する国王命令が発布されてから数日後のことだった。

 まだ朝も早い時間からこの宿屋にやってきた騎士たちは総勢五名。二階の自室から出てきたアリエルが一階の食堂へ向かおうとしていた、まさにその時だった。


 二階の廊下で鉢合わせになったアリエルと騎士たちだったが、騎士の隊長らしき男がまず第一声を発した。

「お前がエルと申す者か?とある(・・・)事件の現場にて、お前の姿を見たという者がおってな。詳しい話を聞かせてもらおうか」

 おそらく野外舞踏会の件だろう。誰がチクったのかな?アリエルの興味は目の前の騎士たちよりも密告者のほうにあった。


「何の事件か知らないけど、今から朝食なんだよね。朝飯を喰ってからでも良いかな?」

「おいっ!ふざけるな!」

 激昂する部下の騎士だったが、意外にも隊長っぽい騎士はこう言った。

「ああ、構わない。いや、待てよ。ちょうど良い。俺たちもここで一緒に朝食を()るとするか」

 話の分かる騎士だった。


 …


 パンとスープと水…、日本人的感性からするとかなり質素な食事なのだが、この世界では一般的な朝食らしい。

 異世界転生者や転移者が飯テロを画策する気持ちがよく分かる。転生者であるアリエルはそう実感していた。この乙女ゲームの作者自身が食事に興味が無かったのか、制作において手を抜いただけなのか。

 あっという間に配膳された分の食事を食べ終えたアリエルは、彼女の三倍くらいの量を食べている騎士たちの食事が終わるのを待っているという状況である。


 まだ食べている隊長らしき騎士を見ながらアリエルは問いかけた。

「それで、おいらを密告した奴って誰なの?」

「それを言えるわけがないだろう?あと密告者ではなく、告発者な。告発者保護は何よりも最優先されるべきものなのだ」

 企業の不祥事を暴く内部告発者は保護されるべきだけど、アリエルにとって、自分を告発した奴を許せるほど人間ができてはいない。てか、現場にいたのは真実だし、そもそも首謀者なので告発内容は正しいんだけど…。


「それでお前のアリバイだが…」

 先ほどの会話のついでのように、この場で取り調べが始まった。あたかも世間話のように…。

 こうして事件当日の行動を聴取されたアリエルだったが、その日のその時間には『エドワーグ・ファミリー』の拠点にいたということを話した。もちろん、嘘八百である。

「うーん、ではこのあとその拠点とやらに案内してもらおうか。三大ファミリーの一つだよな。ああ、別にことを荒立てる気はないぞ。お前のアリバイを確認するだけだしな」

 もしも密告者が『エドワーグ・ファミリー』の人間だったらどうしよう?

 こいつはその時間にこの場にいなかった…そう証言するかもしれない。まぁ、そもそもファミリーの人間は全て現場に動員されていたから、元々そいつら自身のアリバイも無いんだけど…。


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