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013 天使亭

「こんにちは。邪魔するよ」

 ドアを開けて酒場の中へ入ったアリエルは、軽い調子でその場にいた人間に話しかけた。

 三人分の死体のほかには、さっき会った不良が二人と、ゴルデスの妻である女性がいるだけだった。

「げっ、あんたは…」

(あね)さん、こいつが兄貴を殺した野郎ですぜ」

 泣いていた女性は憤然と顔を上げて、アリエルのことを睨みつけた。鬼のような形相だった。

「お前がやったのかぁ。殺してやるぅ」

 掴みかかってきた女性をひらりと(かわ)して、距離をとるアリエル。


「おいらは知らないよ。そいつらは勝手に死んだんだ。一応、教えておいてやるけどさ。おいらに歯向かった場合、なぜか勝手に心臓が止まっちゃうんだよね。ほんと不思議なんだけど…」

 あたかも自分の意思ではないという感じで話すアリエル。いや、本当は故意に心臓を止めているのだが…。

 これを聞いて頭が冷えたのか、女性は薄気味悪そうにアリエルのことを見ながらこう言った。

「それで、ここへは何の用で来たんだい?あたしらも殺すつもりかい?」

「一つ聞きたくてさ。おばさんはこいつらの悪行を知ってたのかい?女の人を強姦したりしてたみたいだけど…」

「ああ、若い男だからそのくらいは仕方ないだろうね。あんたももう少し成長すれば分かるようになるさ」

 この言葉を聞いたアリエルは、即座に女性の右手の人差し指の爪のすぐ下の部分に空気を生成した。爪は空気圧で剥がれ、かろうじて根元の部分で指と繋がっていた。


 ぎゃー。

 女性の悲鳴が店内に響き渡った。

「生爪が剥がれる程度で済んで良かったね。それで被害者への補償はしたのかい?」

「なんであたしが…」

 中指の爪も剥がれた。再度の絶叫だ。というか、もはや痛みで気を失う寸前である。


「この死んだ三人の罪って、生きているおばさんたちで(つぐな)ってもらわないと困るんだよね。酒場での稼ぎはそこそこあるんでしょ?」

「は、はい。そ、そこそこは…」

「被害者一人当たり金貨1000枚ってところかな。もしも払えなければ死ね。この店を売り払ってでも金を作れ。できなければ、おいらがお前らを殺す」

 絶望の表情を浮かべている女性だったが、彼女はもしかしたら自殺を選択するかもしれない。それならそれで良いか。そう考えているアリエルであった。

 てか、被害者の人数をアリエルは知らないのだ。適当なことを言って、追い詰めているだけなのである。


「ああ、そっちの男たち。おいらの言ったことをちゃんと覚えているよね?せいぜい死なないように頑張ってね」

 この街の領主を殺せという指令のことである。

「それじゃ、また来るよ」

 店を出るアリエルに対して、誰も手を出すことなく、無言で見送るだけの三人であった。


 ここまで追い詰めれば、この三人は街から逃げ出すかもしれない。そうならないように何らかの対策が必要だな。そう思ったアリエルは最後に一言付け加えた。

「そうそう、もしも街から逃げ出したら、一週間以内に心臓が止まるようにしておいたからさ。逃げようなんて考えないようにね」

 まったくの嘘である。しかし、嘘であることを立証できない以上、自分の身をもって試す馬鹿はいないはずである。これでこいつらが逃げ出すことはないだろう。

 なにしろせっかくの手駒なのだ。有効に活用したいところではある。


 …


 その日の夜、酒場『天使亭』は臨時休業となっていた。

 葬式もあるし、死体の埋葬も必要なのだ。しばらく休業するのは当然のことである。

 店主の女性と二人の若い男たちは薄暗い店内で話し合っていた。

「あんたら、あの坊やから何を言われたんだい?」

「へぇ、この街の領主を殺せと命令されやした」

「領主を殺せなければ、俺たちが殺されることになるそうです」

「そりゃ、かなりの無理難題だね。まあ頑張りな。それよりもあんたらが強姦した女は何人いるんだい?ほんの数人だろうね?」

 女性にとって領主殺しなどどうでも良いのだ。問題は強姦の被害者人数である。


 バツの悪そうな顔でぼそぼそと答える男。

「えっと、覚えている限りでは13人くらいですかね。すいやせん」

「13だと?金貨1万3千枚ってことじゃないか。どうやってその金を工面すりゃ良いのさ。いや、それよりもあたしが払う義理は無いよ。あんたらが強盗でもして稼いできな」

 不良グループのリーダーの内縁の妻というだけで、それだけの負債を背負うのは確かに理不尽ではある。まぁ、アリエルにその理屈は通用しないのだが…。


 ちなみに、この場にいる者たちは今まで強者であるゴルデスの妻や部下として、さんざん甘い汁を吸ってきたのだ。

 そのツケを支払うことになっただけであって、他人から同情されるようなことは何もない。全ては自業自得である。

「そうだ。あんたら、仲間を集めて領主の屋敷を襲撃しな。屋敷の金庫には金貨がたんまり入っているに違いない。そいつを()(さら)ってきなよ」

「あ、(あね)さん。そりゃ無茶ですぜ。警備の騎士に殺されちまう」

「領主の息子か娘を人質にとりゃ、きっとうまくいくさ。てか、それくらい自分で考えな。その頭は飾りかい?」

 アリエルと似たようなことを(のたま)う女性であった。


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