表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昨日見た夢、今日の夢

作者: 東京多摩

朝、朝日が差し込む廊下を抜けていつものように教室に行くと、僕の席に知らない子が座っていて笑いながらこっちを見ていた。

周りのクラスメイトは各々談笑をしていたり机に突っ伏していたりと好きなことをしていて、誰も彼女のことを気に留めているように見えなかった。

その子は、おかっぱ頭で体が細く石膏のような白い肌をしていてる女子だった。

でも一番目を引くのは、開いているか閉じているかわからないくらい細い目と右の眼を蓋している眼帯だった。

ガーゼの淵がすこし赤くなっていて少し怖かったが、声をかけてみる。

「そこ、僕の席なんだけど。」

「知ってるよ。」

鈴の転がるような声でこっちをまっすぐ見て笑顔を崩さずそう言ってきた。

予想外の答えにたじろいだが、どいてもらえないと鞄すら置けないのでもう一度声をかける。

「そこ、どいてもらえないと座れないんだけど。」

「座ってどうするんだい?」

この子は何を言っているのだろうか。

学校にいって席に座らないと授業は受けられない。

誰でもわかることを聞いてくるこの子のことがわからない。

そもそもこんな女の子はクラスにいただろうか。

小さい学校なので同じ学年の子はみんな知っているはずだけど、こんな子は見たことがなかったと思う。

なぜ、僕の席に座っているのか、なぜ、眼帯をしているのか。

なぜ、なぜ、なぜ笑っているのか。

なにもわからない。


「さあ、行こうか。」

気が付くと数センチのところに彼女の顔があった。

小さく悲鳴を上げて一歩引くと、スクールバックを背負っている彼女に手を取られ引っ張られた。

振りほどこうにもその細い腕に似合わず強い力で手を引かれなすがままに引っ張られ転ばないように足を動かす。

必死で抵抗しながら周りを見るといつの間にか夕方で、夕日が差し込み廊下が赤くなっている。

なにより怖かったのは僕と彼女が歩く以外に音がなく、誰もいないことだった。

窓から見えるグラウンドにいつもいる運動部もいないし、管弦楽部の音も聞こえなければ、風の音も、鳥の声も、何も聞こえない。

そんなことなにも気にせず前だけ向いて何も言わず彼女は僕を引っ張て行く。

やっと手を放してもらえたと思うと、学校の裏にある小さな神社の前だった。

「なんなんだよ!いったい!」

青く鬱血している腕をさすりながら彼女に怒鳴る。

後ろを向いていた彼女がゆっくりとこちらを向いた。

笑顔が、なかった。

眼帯もなかった。

左の眼を見開き、右の眼はただの黒い穴が開いていた。

呆然としていると、彼女の口が開く。

「ごめんね。ただ、誰かに見ていてほしくて。本当にごめんね。」

右の眼から血を流し、左の眼から涙が流れる彼女に、突如何かが覆いかぶさった。

子供くらいの大きさの何かは彼女の顔にかぶりつき、左の眼を食いそのまま神社の瓦まで飛び上がった。

2回ほど租借し、大きな口を開け遠吠えをした、白目と黒目が逆になった眼で僕を見下ろし、ニィと笑った気がした。

そして何かは僕らとは反対の方にいってしまった。

残されたのは呆然と立ち尽くす僕と、うずくまって小さな声を上げる彼女だけだった。

ゆっくりゆっくりと彼女に近づく。

「だ、大丈夫?」

彼女に手を伸ばした時その手を取られた。

数センチ先に彼女の顔がある。

閉じた両目の左の方から血が流れているのが見えた。

「大丈夫だよ。だって。」

ゆっくりと、彼女が目を開く。

左に空洞が、そして


「また生えるから。」


右に白目と黒目が反転した眼球があった。




メールが来たのか携帯のアラームが鳴っている。

スマホを見ると時刻は9時を過ぎたところだった。

大きくあくびをして体を伸ばす。

「なんか気味の悪い夢見た気がする。」

誰に言うでもなくつぶやいていた。

ゆっくりと覚醒していく頭の中で今日は仕事休みだったよなとか、今日どうしようとかいろいろ考えが浮かびなくなっていく。

寝室をでてリビングに行くと、この間同棲したばかりの彼女が背を向けテレビを見ていた。

「おはよう!あれ?髪の色変えた?」

確か昨日まではかなり明るい茶色だったが今日は真っ黒になっているし、髪型も変わっている。

「そう。仕事でちょっと明るすぎって言われたから、一気に黒くしてやったの。」

こちらを向きもせず彼女が言う。

「それはまた思い切ったことしたね。」

テーブルの上の水差しから直に水を飲む。

「あれ?」

ずいぶん前に親にもらった救急セットがテーブルに出してあった。

「どうしたのこれ?どっか具合悪いの?」

救急セットをもち彼女に声をかける。

「あー、それね。ちょっとケガしちゃって。中の少し使わせてもらったよ。」

「え、大丈夫かよ!」

セットを机に置いて彼女のそばにいく。

スッと彼女が立ち上がり、こちらを向いた。

その顔を見て僕は固まってしまった。

開いているか閉じているかわからないくらい細い目と左の眼を蓋している眼帯がみえたからだ。

彼女は、笑っていた。

そして、私の手をつかんだ。

彼女は私の耳元でささやく。



     「さあいこうか。」と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ