神の花嫁ー運命の時ー
「えっここ、私の部屋・・・」
「夢を見ていたのかしら?でも、確か・・・私、神社に行って・・・」
「はっそうだ、華夜月の尊様・・・」
そう言葉に美巫が呟いた時、急に胸の辺りが光り出した。
光りが治ると、翡翠の勾玉と指輪がそれぞれ勾玉がペンダントとして胸に
指輪が左手の薬指にその姿を現していた。
「これって契約の・・・」
「華夜月の尊様、夢でなかったのなら、どうか姿を見せて下さい」
次の瞬間、銀色の光りと共に華夜月の尊が姿を現した。
「美巫、・・・」
「嬉しい、本当に本当に見えるわ!」
「華夜月の尊様、触れても大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
恐る恐る、美巫は華夜月の尊の手に触れて見た。
「ちゃんと触れれる・・・。良かった・・・」
「私が体験した事は夢ではなかったのですね」
「そうだ・・・。美巫が、私と新たな契約を交わしてくれたからだ」
「私、喜びしか考えて無かったけど、今、凄い不安が・・・」
「不安?」
「だって、私は生身の人だからこれからはどんどん歳を取って行くから
貴方は、姿が変わらないけれど、私はシワシワのお婆ちゃんになるから
その姿を見せてしまうのが、恥ずかしいし辛いし凄く不安なの・・・」
「いらぬ心配だ。我ら神々は、人間の様に姿の変化は関係ない」
「魂で視るから、たとえ人として老いたとしても、今のその姿のままに
映って視えるし、現世が終わり神の国へ来れば今の姿を保つ事が出来る」
「だから、何も恐れる事など無いのだ」
「本当に?」
「本当だ。いずれ分かるが心配無用だ」
「神の誓いの想いは決して揺るがないのだよ」
「じゃあ、シワシワのお婆ちゃんになっても嫌わないでいて下さるのね」
「当たり前だ」
「良かった・・・」
心からの安堵の言葉が付いて出た美巫でした。
「ただ・・・」
「ただ、なんですか?」
「別の心配がある」
「美巫が私と契約して、勾玉と指輪が、こうして私と繋いでくれるが・・・
この先その力の反動で、私以外の神々が絡んで来たりするかも知れない」
「他の神々様がですか?」
「そうだ。私の姿が視えると言う事は、同じく他の神々も視えてしまうと
言う事だから、そちらの方が心配だ」
「でも、神様でしょう?」
「神の執着は、人間の執着より、たちが悪いこともある」
「神様が私なんかに執着なんて、そうそう無いですよ」
「美巫はやはり分かっていないな。私も初めはそうだった様に、外見では無い
のだ。神々は、魂で視て、魂に惹かれるのだから・・・」
「勿論、美巫は外見も可愛いが・・・」
その言葉に美巫は一気に顔が赤くなってしまった。
「大丈夫か?顔が赤いぞ、熱でも出て来たのか?」
「だっ大丈夫です」
「そうか、なら良いが・・・」
「とにかく美巫、これからは気をつけてくれ。何かあれば直ぐに呼んでくれ」
「はい、分かりました」
「そう言えば、華夜月の尊様は私以外の人には視えているのですか?」
「いや、視えていない。私の姿が視えるのは、この人間界では美巫だけだ」
「そうなんですね」
「何故、その様なことが気になるのだ?」
「だって他の女性が貴方の姿を視たりしたら、きっと貴方に恋してしまうと
思うから、自慢したいと思う反面、それが心配の一つだったからです」
その言葉に今度は華夜月の尊が赤くなった。
「お顔が赤い?」
「いっいや、なんでもない。大丈夫だ・・・気にするな」
「分かりました」
「ゴホッ、とっとにかく注意していかなくては」
そう、呟きながら照れ隠しをする華夜月の尊であった。
しかし、この後心配ごとが、すぐ現実に起こってしまう事を、まだこの時は
知る由もなかった。
季節は春、あちらこちらで桜の花々が咲き誇っていた。